ミラクルサンフラワー
<後半>
周りはたちどころに静かとなり、再び元の朝がもどる。しかし早いもので、既にどこからか蝶が数匹訪れ、中庭を優雅に舞っていた。
「おうおう、蝶だ蝶々だよ! 俺にも止まってくれよ、ちょうちょさ〜ん♪」
花の精霊なので、蝶は好きなのか。問題であるサンフラワーは、随分とお気楽な様子だったが。
甘い香りが漂う花園の中、落ちついた彼等は話を始め出す。始めに目的の方向の口を開いたのは、ローリーだった。
しかしながら、それは当然「む〜ん」であるからして、相手はこうなる。
サンフラワーは、ありありと嫌そうな顔をした。
「『さあ、全てを吐いてもらおうか』って、ローリー…もうサンフラワーが悪いって決めつけちゃ、駄目だよ…」
すぐにリイムが嗜めた。ローリーはまた「む〜ん」と言う。リイムが溜息を一つ。サンフラワーを見やって、
「ローリーは君を疑ってる。こんな朝早くから、知らない者が城内に居るはずがないから、君は曲者だって。『まだ、開門もしていないはず。何か目的あって、忍び込んだと考えるのが普通ではないか』って。だからまず、その辺りから聞くよ」
それに、サンフラワーは嘆くように上を向き、2枚の葉っぱを動かす。…おそらく、肩でも竦めたつもりだろう。
「あ〜あ…随分と人聞きの悪いこと言ってくれるねぇ! 言っとくが、俺は忍び込んじゃいねーぜ。単に正門が閉まってたから、兵士用の通用口を見つけてな、番兵が交替で替わる、ちょっとの間手薄になる時を見計らって、ちょうどの隙を見事についてキーンと入ったってわけよ! その後はスリルと、この場合ロマンは…あふれねぇが、城内の要所らしきところに配置された兵の目を全てかいくぐり! ドキドキハラハラな展開でここに至る。…もう完璧じゃん!」
「そういうの、忍び込んだって言わねぇかな…」
即刻モーモーに返されたサンフラワーは、胸を張ったまま――あくまでそのように見えるだけだが――固まった。
しかし、モーモーに突っ込まれたら、お終いであると言ってよい。なにしろ彼は、突っ込まれる方がもっぱらの専門なのだから。
『……』
誰も言葉は出せなかった。言葉を失っているわけで。一切の動きも無い。
無言のサンフラワーの顔に、たらりと汗が流れる。
「……あ…え…うう…」
やがて、サンフラワーがうめき出した。本能的に、このままでは不利になると思ったのであろうか、次に誰かから言葉がでるとしたら、それは話に終止符をうつものだろう。このような場合黙っているのは、つまり認めることだから。
つまり否定をしなければ。
「…おおおおっ…さ、さっきのは言葉の誤ってやつだった。学歴がないから学識にちょっと乏しいわけで、過大な過ちを危うくおかす寸前だったっ! 実に遺憾で、反省もするするします! 初心者の失敗だから、最初ぐらいは見逃さないとねっ! ねっ!?」
『……』
誰も答えない。一応でも、待っているのは分かっているだろう。あくまで続きを、一応だが。
「…あのあの、言いなおすとあれよあれ、なんだ…咲きそうな花の感じがしたんで、たまらなくなったんだ! 俺って植物の精霊だし……呼んでたんだよ…そう! 花達が俺を呼んでいる〜! 認知した体が勝手に障害物を察知して、避けながら飛んで行ったわけだ、うん。…何故だかそういうふうに出来てんの! 平たく言えば、俺のどうしようもない習性で…全自動障害対象回避花探査飛行能力…み、みたいなっ? …ちなみに変更不可でして…!」
サンフラワーの顔には、相変わらず汗がでている。
「で…、忍び込んで何をするつもりだったんだモー?」
「忍びこんで、姫様に何かするつもりだったのかい…?」
「計画的に忍び込んだのよね…?」
モーモー、リイム、タムタムの順。サンフラワーは飛び退いた後、葉っぱを激しく動かした。
「そんなにもしつこく言うなんて、酷い酷いぃ〜!」
「でも、忍びこんだんだろ?」
「でも、忍びこんだんだよね?」
「でも、忍びこんだんでしょう?」
それらが揃った直後、サンフラワーの全てが、ビキッと音まで立てて一瞬固まった。戻ろうとした不自然な体勢であるが、その微妙かつアンバランスな位置で動かない。
しかし、数秒ほどだった。急に進み出て、その勢いで開き直ったのだろうか。
「ぐぐっ…悔しいが、五百歩も譲る優しい俺が、とりあえず目をつぶりつつそういうことにしてやらぁ! …だがなっ! 俺は悪いことなんか、何もしちゃいねえ! お姫様には全く手ぇ出してないからなっ! 本人もじきじきにお口で言ったろ! 聞こえなかったは言わせねー! こりゃ冤罪だぞ!? 俺は潔白! 俺は無実だっ!」
「むむ〜ん」
進み出たローリー。相変わらずをもって、ずずんっと、サンフラワーの目前に迫る。
「あのぅ…何ておっしゃってますかね…通訳さん?」
サンフラワーが逃げ腰寸前――と、思われるが――で、そろそろとリイムに尋ねる。
「ああ、さっきのは…『不法侵入もれっきとした罪』だと、思うけど」
「ぎゃあああ!? そうなのっ! だって俺知らないも〜んッ!」
「む〜ん」
「うわああああっ! また何か言ってるぅー!」
「えっと…『知らぬ存ぜぬはまかり通らん! 大体、そのようなこと常識中の常識であろうが。この無知もまた罪。とりあえずは、身柄をすぐさま拘束する…』」
そうリイムが訳している途中、ライムが割って入った。
「ローリー! それは可哀想です。私は何もされていませんし…それに、悪い精霊にも見えません。…だって…」
サンフラワーを見て彼女は、
「このサンフラワーさんはお庭に、こんなきれいなお花を咲かせてくれたのですよ…」
そして、ローリーを見る。しかし点目は何も語らない。返答(む〜ん)も返ってこなかった。
「…ライム姫」
リイム。呼びかけにライムは彼を見やった。
静かに彼はただ、微笑んでいた。そのやさしい瞳が、何も心配要らないと言ってくれている。それだけで、雄弁に語りかけてくる。
ほっとして…そして、見入ってしまう瞳。今はそれがさらに、何か言おうとしているのに彼女は気づく。
「…続きがあるんです。『とりあえずは、身柄をすぐさま拘束するところだが…正直に話す気があるのなら、先に聞いてやらんこともない。事情を酌んでからでも、そうするのは遅くないだろう』って」
続きを聞くなり、ライムはハッとしてローリーを見やった。やはり変わるところなど、彼にはないが。
「ローリー、ごめんなさい。私が早計でした…」
素直に謝る。ライムは申し訳ないと思った。リイムの訳ではあったが、途中なのに遮って非難するとは、ローリーの本質を端から疑っていたようなものだと。
「むむ〜ん」
彼はライムを見上げ、静かに言った(おそらく)。
「『お顔をお上げ下さい、姫様。私にはよく分かっております。姫様はお優しき方。かような得体の知れぬ、チンピラまがいの野良ヒマワリ野郎当然であるサンフラワーにも、そのお心が分け隔てなく注がれることは、承知ゆえ…』」
「――おうおうおうっ! てめえ、喧嘩売ってんのかぁっ! 得体の知れぬチンピラまがいの野良ヒマワリ野郎たぁ何だそりゃ!? 俺は…俺はなっ、流離いのサンフラワーなんだぞ! どこからともなくやって来た、ちょっと謎っぽいところが怪しさ増量ぷんぷんかもしれないヒマワリさんだ! そこが何かかっくいーんだ! きゃー」
リイムがゆっくり訳して行く中、やはり途中、突っかかったものが一人いた。
怒鳴りかかったと思えば、一人で言って、一人で実に嬉しそうに振るえるサンフラワー。
皆が白けても、ゆさゆさわさわさ揺れている彼は、ある意味…良くない意味で幸せ者だろう。
その時、見ていたモーモーとタムタムが、無言で顔を合わせた。頷く。
…こうなれば、止めるには言ってやるしかない。分からせなければ止まらないものだ、こういう輩は。
つまりはそんな、合図だった。
「…さっきの、抗弁にはなってないわよ」
「むしろ、自分で認めてるよな…」
「――はうッ!?」
実に的確なタムタムとモーモーの突っ込みに、分かった…というよりは気づいたサンフラワー。険しい顔で、ずりずりと後退していった。
その間に、考えていたようだ。
「ううっ…あれは抗弁っぽいだけでそれとなく自己紹介…だったり…ということにしてくれません?」
彼は、無理やりな笑みで言った。かなり無茶苦茶で強引な内容。ぺこぺこ低い姿勢で、前に出てくる。
「えっと……私は構わないけど…」
「あ? …俺もまあ、いいんだが…」
まさかそんな事を返してくるとは、全く思っていなかっただろう二人。どうしようかという顔で、リイムを見た。
「え、僕も別にいいと思う…」
振られたリイムは…ややあってライムを見た。
「その…私もとりあえず異存はありませんが……」
「――む〜ん」(断じて認めんわ!)
それはリイムの訳が無くても分かった。もしかして、待っていたのかもしれない。ライムに振られた刹那、サンフラワーを押し倒さんばかりに迫ったローリーは、そうとしか思えない。
「むむ〜ん」
「『情状酌量の余地はなし…』か…」
「だわー! ちょいタンマ! 話します、真面目に話しますってば! 聞いてねっ、ねっ!」
迫ったローリーから離れて、姿勢を正す――ピンと伸びたので――サンフラワーに、皆は自然と溜息がでた。
その場には、ずるずると長引く予兆があった。
…サンフラワーのせいでもあったが、もう一人となにやら相性が悪いこともあるだろう。
話しは果たして無事に終わるのだろうか…そんな疑問が四人の中に漠然と出てきたのは、彼等の前で反目しあう2人のせいに違いなかった。
「それで…君は一体何? 何がしたいんだい?」
数分後、睨み合ったまま微動だにしない2人を見ながら、リイムが溜息混じりに聞いた。
結局、何一つサンフラワーのことは分かっていない。名前すらも聞いていない。待っていても進みそうにない。単刀直入に聞いたほうが良いかもしれないと、彼は判断したのだろう。
「…あ、おれっ? あはは、俺は見ての通りナイスなサンフラワーじゃねえか。どっからどうみてもそうとしか見えねーだろ? …おおっ、そうか! 俺があまりにもかっこいいんで、どうにも気になったってわけか!」
「名前は…?」
さすがのリイムも少々呆れつつあった。が、肝心の話しは反らさない。すかさずだった。
対してサンフラワーは、小さくうめく。観念したのだろうか、随分と様子が大人しくなる。
「なぁ…俺の名前なんて聞いたって、意味ねえだろ。俺は見ての通り、やっぱりサンフラワー。世界にごまんといる精霊の一匹だよ。…ちなみに、どこの国にも所属してないからな…」
「…じゃあ、何でお城に忍び込んだんだい? これだけは話してもらえるよね?」
「…これ、だけだよ」
サンフラワーは周りをぐるりと見た。
周りといえば、突然咲いた花だらけ。リイムもそれを一通り見てから、サンフラワーに向かった。
「これだけって…庭に花を咲かせた事? この為に、わざわざお城に忍び込んだって言うのかい?」
「ああそーだよ! 悪いかよ…」
そっぽを向きながら、吐き捨てるように言ったサンフラワー。そこに、モーモーが出る。
「…本当か? これだけのために、お城に忍び込むか、普通? 嘘ついてんじゃねえだろうな」
すると、サンフラワーがむきになったように、彼に突っかかった。
「嘘じゃないっ! 俺は人知れずこっそりお花を咲かせるのが趣味なんだっ! と、勘違いするなよ! あくまでも、こっそり隠れて密かにするのが良いんだぞ、分かったか!?」
「分かった。…で?」
モーモーが軽く頷いて続きを催促すると、サンフラワーは態度を一変させた。やや顔を俯けて、含み笑いを始める。
「ふふふ…でもって、いつしか世界をお花で覆い尽くし、俺はお花の頂点にたぁーつ! 明晰な頭脳による周到さ! そして何より、偉大な能力を目の当たりにした皆は、俺に恐れおののき、のた打ち回りながら歓声を上げてよろこぶのだっ! ワッハッハッハー!」
後ろに倒れそうなほど反っている一人の哄笑が、中庭に全体に響き渡る。
が、その彼が言った内容に、笑うものは誰一人としていなかった。冷静ではなく、呆れて言葉が出ない意味である。しかしモーモーが、一間置いた後、ごく普通に切り出した。
「へえぇ…よくわかんねえが、そりゃまたご大層な野望だな」
その顔は、十分呆れていたが。
「そうだろ、そうだろー! 分かるか、御大! ワハハッ!」
サンフラワーは笑い続けたまま、片方の葉っぱを動かした。彼にもっと身長があって、長い手でもあったのならば、おそらくモーモーの肩でも叩いていたに違いない。
何もわかっていないサンフラワーは、呆れていた顔をさらにしかめたモーモーの前で、笑いを続ける。
それをようやく――しかしピタリと止めたのは、少々間をおいて向いてきたモーモーに応える形の、タムタムとライムの何気ない指摘となった。
「でも…こっそりしてたんじゃ、誰もあなたに気づかないじゃない」
「お花を咲かせても、みなさん、恐れおののかないと思いますが…」
「――はっ!?…」
笑みが凍り付き、サンフラワーはまたうめく。またぞろ固まったかと思えば、頭をだらりと前に下げて、見る間に元気がなくなってゆく。
「…お…俺の緻密な計画が、総崩れ…? 馬鹿な…そんな盲点があるなんて…全てがもとのもくあみに…」
「緻密…?」
リイムが眉根を寄せた。タムタムは対する言葉が無い。モーモーなど、口をぽかんと開けている。
それから、どれほど経ったというわけでもないが、
「なんつーかなぁ…レンコンのような計画だよな」
我に返ったモーモーのそれに、ライムは思わず頷いてしまっていた。
………。
完全に沈黙と言う。黙考と黙視。およそ数分。
「…じゃあ、俺はこれにてお暇…」
サンフラワーはそういうと、俯いたまま後退して行った。
「む〜ん」
さっと回って、彼に追いついたローリー。
とたん、サンフラワーが沈んでいたような状態からピンっと戻った。喚く。
「あんだよっ!? 俺が人畜無害だってことぐらい、説明してねーけどわかったろ! 帰ってもいいじゃんかっ!」
「むむ〜ん」
「えっ、嘘っぽい?」
驚くリイムに、モーモーが添えた。
「俺もそう思うモー」
「ええっ! モーモー、何か分かったの?」
やはり驚き気味のリイムに、モーモーは彼の方を見やって、やや苦笑を浮かべる。
「俺の頭だからな…分かったって言うか、ちょっと知ってることがあったんだよ」
「知ってること?」
リイムが尋ねると、モーモーは彼から視線を外し、他方である一方を向いた。決められていたのだろう、迷いの無いその一点。隔たりがあるものでも、無かった。
「何かあまりにも馬鹿っぽいが…地か? それとも、わざとなのかな? 奇跡の精霊さんよ」
「奇跡の…精霊…?」
リイムが後を追う。モーモーの視線を辿り、そしてサンフラワーを見ながら、反芻してつぶやいた。
響きに対し不思議そうなだけで、考える素振りもない様子から、リイムは知らない言葉のようだ。タムタムにしても似たような感じで、ライムもそうであった。
「普通のサンフラワーじゃあ、ここまで派手に出来やしねえよ。リイムも分かるだろ…いや、皆だって分かるよな」
唯一知っているようなモーモーは、見つづけている――笑みの無いサンフラワー。そして彼自身もまた、笑みの無い顔で。ゆっくり、口を開いていく。
「かなり前だったモー。…それこそ、ライトと会う以前だったな。…一人で放浪していた時に、聞いた話しがあるんだ。ある国の、戦争で荒廃しきった大地一面を、あっという間に花畑に変えたっていう、一人の精霊の話しなんだが……お前がそうじゃねえのか?」
ある単語に、リイムが僅かに反応する。モーモーを見上げた。
ライトと会う以前――ならば、本人が言うように、かなり昔の話になる。ライナークの騎士だったライトは、リイムの亡き父親。
モーモーは、彼の親友だった。そして今は、リイムの良きパートナーである。
リイムが物心つく前から、モーモーの姿は王国にあり、ライトと共にあった。その彼が、親友と会う以前というのだから、目安…リイムがまだ生まれてない、16年以上前の話しにはなるか。
しばらく動かなかったサンフラワーが、唐突に顔を横に振った。
「…へっ…馬鹿言ってんじゃないぜ、牛のあんちゃんよ! 俺はそんな話し、全く知らないね」
しかしモーモーは、それで退かなかった。話しに食い下がった。
「しらばっくれんなよ。サンフラワーの仕業だったって、聞いたぞ」
するとサンフラワーのほうは、顔を歪めて見せた。小馬鹿にするような嘲笑が、当てはまるほどの露骨さ。物言いもまた、同様に。
「…はっ! しらばくれるも何も、知らないモンは知らないぜ。一体いつの話しだよ、それ? 皆、まったく知らねーみてえだぜ? 大体なぁ、そんなことして何が楽しいっての? いや第一、いくら気張ってもよ、そんなことまでできっこねーって! そりゃ絵空ごとだ、絵空ごと! でっちあげだ、大嘘だ! 阿呆くさー。そんな話し、どうして信じられるんだぁ? おかしくて爆笑しちまうな! ウハハハッ!」
「あなたね…」
サンフラワーの好き放題な態度が少々気になったのだろう。タムタムが言い出そうとするが、片手を少し出すという、無言のリイムの僅かな挙動に、差し止められた。
「何故?」と、問う視線で見てくる彼女に、リイムはやはり返す視線で、モーモーを見るように伝える。
タムタムはそちらを見やり、二人のやりとりの一部始終を見ていたライムも、そちらを見た。
モーモーは見ている。面と向かって笑われていても、眉一つ動かさないまま、サンフラワーをじっと、頑なまでに。
――いつもなら、多少なりとも怒っていそうなものだが…
ミノタウロスは本来、気性が激しく血気盛んで、ある感情の高まりにとらわれやすい種族だった。
例に洩れることなく、お人好しあるモーモーもまた、やはりそう。分かりきった悪口雑言、挑発的態度には、すぐに怒気が見えてくるのだが。
しかし、それがないということは。
おそらく、考えがあるということだ。何かはわかるはずもないが、はっきりとした考えが、あるいは思いが。彼なりに、明確な何かがある。
ここで口を出すのは、少々野暮というものだろう。彼は確かにミノタウロス全般に言える猪突猛進、軽率短慮タイプだが、やるときはやってくれる人物だった。
リイムはもちろん、タムタムもライムも、そしておそらくローリーも、モーモーの動向を静かに待った。
「…無理もそれぐらいにしときな。俺はその光景を、この目でしっかり見たんだぜ。聞いただけじゃさすがに信じらなかったから、わざわざ見に行ったんだよ。こんな比じゃないぐらい、一面マジで花だらけだったモー」
静かな声音と落とす声量。真っ直ぐ相手を見つめ続けて言葉を待つ。そんな真摯なモーモーに、サンフラワーはへらへら笑った。
「…だからぁ? たとえ出来る奴がいたとしても、俺だって言う証拠はねぇだろが! 何を根拠に、そーんなこと言うかねぇ」
疲れたように言って、やれやれとこぼす。
その時、モーモーは何を思ったのか、微かに笑ったようだった。長い息を吐いたときに、ふと緩んだぐらいの弱さで、僅か上向いて、戻す。
「…まあまあ、最後まで聞けよ。その時ついでに、面白い話しも聞いたんだ。…なんでも、花畑の中心で、しおしおになって倒れていたサンフラワーがいたんだとよ。…そいつがな、庭に植えてみて、日に当てて水をたっぷりやったら、元気になったって言うんだよ。…なかなか、おかしい話しだよな?」
モーモーは軽く笑いながら話したものの、サンフラワーの横柄な態度は依然変わらず、それどころか怒り出す始末だった。
「あ〜あ〜性懲りもなく、なーに与太ってんだかなぁ。…何度も言うが、何度言っても違うつーの! 無駄無駄無駄! 勘違いはなはだしい、迷惑極まるお門違いのお花違いって、気づかねえか? ――気づくだろっ!? …いい加減分かれよ! この俺が、そんな笑える殊勝なこと、するわきゃねーだろが!」
「…一体何が、違うって言うんだモー? 俺には全然分からないモー」
涼しげな顔で首を捻って腕など組んで、どことなくわざとらしくモーモー。
サンフラワーが、大きく溜息を吐いた。
「はぁ〜…わぁーった。教えてやる、教えてやるよ! …全然違うんだよ、よく聞けよ!? なんたってなぁ、俺が植えられたのは庭じゃなくて、ただの植木鉢だったからな!」
――瞬間。モーモーが、一瞬吹き出しそうになって――それを堪えてこぼすように笑う。
間違い無く、会心の笑みだった。それをもって、誰もはっきりと確信した。無言のままで、互い視線を交わす。問題の堂々たる一人は、当然違うが。
「ああ…言われればそうだった。…その鉢も見たんだが、結構大きかったモー。俺がどうにか一抱えするぐらいの、ビッグサイズでな」
話し続けるモーモーは、見るからに愉快そうで、調子づいたようだった。
それは分かるところだが、しかし、誰も口は出さない。進むままに、任せた。もうわかりきったことだから、後はいつまでこうなるか。見届けるだけでもいい、続く限りは。結果はもはや、変わることなどない。早いか遅いかの…それにしても、僅かな差をもっての事。
「はあぁぁぁ…いつまでもホラ言ったって、疲れるだけだってことがわかんねーのかよ? …あれはな、よくある4号鉢だったぜ。…これが最悪に窮屈でよー、倒れないように踏ん張るのも辛かった…。大体、庭があったんだから、庭に植えるモンだろ、普通。…なぁ?」
サンフラワーは、なにかと態度をころころと変えた。今度は怒った相手に、同意を求めている。モーモーは、苦笑が止まらない。
「…俺には、鉢のサイズなんてわからねえけど、よくもまぁ覚えてるな?」
「そりゃあ…なんたってな、あの後はひたすらに忍んで光合成三昧だったから、忘れようにも忘れられなくてよ! …まったく、復活するまでの間は、全てが散々だったぜ…。がきんちょどもが体を持ってぶんぶん振りまわすわ、引きずって遊ぶわ…しまいにゃバットにするわで、俺は始終生傷が絶えなかったんだぞ! …くぅぅぅ、思い出したら泣けてくるぜ…」
「バット…? ぷ…いや…そうかそうか…」
こみ上げてくるどうしようもない笑いと、じっと我慢がせめぎあっているだろうモーモー。サンフラワーは彼を目前にしているのに、やはり一向に気づく様子がなかった。話す調子はさらに、勢いづく一方。
「…それで、聞けよぉ! ボールがあまり飛ばないなんて、言われた時もあったんだよ…! …違うだろ、おかしいだろっ! だからそん時、いよいよ堪らなくて俺は言ったんだ、『俺はバットじゃない、実は武器なんだ』って。…するとそのガキ、どう言いいやがったと思う?『バットも立派な凶器じゃないか』って返しやがったんだぞ、信じられるかっ!? …なんつう末恐ろしいガキだろう…俺はそれから、ずっと煩悶したんだ。…だってバットは…鈍器じゃねーかっ!」
すぐさま口を押さえたモーモーには、突っ込みたい衝動が加わって、拮抗状態が激化したようだった。
「…た、大変…だったんだなぁ…」
声は明白に、震えていたのだが。
「おう、あれは大変だった…。でも、それを置けば楽しかったモンだ。なんてったって、あの死んだような濁った目の連中どもが、花だらけになったのを見て、みんな仰天してたまげたんだからな! あの有様ときたら、そりゃあ最高の見物だったぜ……遠いところの、古い話だけどな…」
サンフラワーは虚空を見る。ついぞ見せたことの無い様子に、モーモーも少し落ちつきを見せた。
「…大事な、思いでか?」
静かにモーモーが尋ねると、サンフラワーはやおら目を閉じた。
「そう、あれはな…俺の脳裏に半分焦げついちまったメモリぃよ」
記憶を思い起こしているのだろうか、サンフラワーが止まる。まぶたの裏には、何やら焦げ付いているらしい遠い光景が、映っているのだろう。
そして、ここが言わば頃合だった。切れ目と言う、横から口を出すなら、まさにぴったりの頃合。リイムが最後を締めた。
「やっぱり君って…奇跡の精霊なんだね」
「…はい?」
目を開けたサンフラワーの顔が一瞬、「何?」と変わるや否や。
「きゃあああああーー!!!」
上に向かって絶叫。
それが合図と言わんばかりに、タムタムが軽い小走りでモーモーとの距離を詰めた。
「やったわね、モーモー! たまにはやるじゃない」
「…ま、とことん変なサンフラワーがやったって聞いたからな、絶対こいつだって、自信があったんだよ。喋らせたら、勝手に全部話したって事も聞いたから…適当に何でも言ってりゃ、自分から暴露するかなーってな。まさかこうもべらべら喋りだすなんて、さすがに思っちゃいなかったけどよ……うん?…なんだよタムタム、たまには、って…」
「うわああああーー!!!」
話している二人の前を、サンフラワーが跳ねながら横切る。
「だってモーモー、何かと言われてばかりでしょ」
「う…ウモー…」
言葉を失ったモーモーの横を、サンフラワーが跳ねながら通りすぎる。
「いやああああーー!!!」
「う〜ん…これって、待っていたら止まるかな…?」
激しく動きまわるサンフラワーを、目で追うリイム。
「ぐわああああーー!!!」
ライムの周りをぐるぐる回りだすサンフラワー。
「なんだか、とてもショックみたいですね…」
彼女のつぶやきが聞こえたのかは不明だが、サンフラワーはライムの側を離れて行った。
「どわああああーーーーっぶべち!!!」
そこで、叫び跳ねていたサンフラワーが、花の地面に勢いよく張りついた。
「むむ〜ん」
サンフラワーの側に立つのは、ローリー。リイムが慌てて、彼等の側へ駆け寄った。
「こらローリー、駄目じゃないか。強引に押し倒しちゃ…」
「む〜ん」
「寸前で力を抜いたから大丈夫? そうかな…? 全く動かないよ…」
リイムが屈み込んで、サンフラワーの様子を見る。
ぴくりともしなかった。うつ伏せになっているので、表情も覗えない。
少し遅れて、ライムが彼等に近づいた。気がついて振りかえってきたリイムに、
「あの、大丈夫だと思います。たぶん…もう少ししたら急に…」
「急に…?」
「――くわあーっ! てめー、青銅コアラ! 早くどけってんだあぁぁっ! 俺をいつまでも足蹴にすんなあっ!」
全くライムの言葉通り、急に顔だけ持ち上げて、サンフラワーが怒号を発する。
なるほどローリーの片足は、未だ彼の茎(体)の上にある。
「あ、確かに大丈夫そうだね。…とりあえず良かった」
それからリイムは、喚き散らすサンフラワーの上から、よいしょとローリーを持ち上げた。
「…でもライム姫、どうしてわかったのですか?」
「同じようなことが前にあったので…」
それだけで、あっさりとリイムは納得したようだった。そして、ローリーを地面に降ろす。
直後、怒りで顔を引きつらせたサンフラワーが、ローリーに迫った。
「ぐぐぐっ! てめーさては、俺に恨みがあるんだろ! 俺が知的でカッコ良すぎるから、逆恨みしてんなっ!? そうなんだろ! なんつー陰険極まりないコアラだ! 社会はどうしてこんな奴にまで甘いんだぁ!!!」
「む〜ん」
「理不尽だっ! どうして俺のような真面目なお花が、こんなへんてこコアラに二度までも虐げられるんだっ!? 駄目だっ! おかしい事に、何故誰も気づかねーんだっ! こんな奴をのさばらせていいのかよっ!?」
「む〜ん」
「こいつはコアラだけど、俺は花なんだぞっ!? こいつは動物だが、俺はどっちかっていうと植物的花! 比較するまでもねぇ! 俺の方が軽いからラクに持てるっ! 好感度大!」
「む〜ん」
「うがーっ!!!」
ひと咆えするサンフラワー。前を知っているライムには、その後がどうなるかよく分かった。
「やっぱり…何に言ってのかわかんねー…。……何か、自分の言ってる事も…」
ぱたりと再度、今度は静かにうつ伏せに倒れる。
ライムは力なくかぶりを振り、モーモーはサンフラワーを見やって、ポツリと漏らした。
「どう考えても、地だよな…こいつ」
「ええ…間違いないと思うわ…」
タムタムが返すと、モーモーは少々黙り込んでのち、
「なぁ…実は密かにもしかして、俺の見当違い…だったりしねえかな…」
「それはさすがに、絶対ないと思うよ…」
リイムの番で決定的な言葉が出ると、残り一切が断切られてしまう。
後はどうしようなく、もう誰も無言で、サンフラワーが起きあがるのだけを待っていた。だが、その彼は数分経過しても、全く動く気配を見せなかった。不審がったモーモーが近づいて、何度となく突っついてみたりしたのだが、やはり何も反応が無いのだ。
「どうしましょうか…?」
ライムがぐったりしたサンフラワーを、そっと抱え起こす(それで確かに、軽いし持ちやすいと彼女は思った)。
「今までと、様子が違うみたいです…」
サンフラワーの目は、閉じられていた。花びらも葉っぱもへにゃへにゃにしなびて、全体的につやが無い。ただ口だけは…何か別なだらしなさを感じる…。
「どうするったってなぁ…」
サンフラワーを見やりながらのモーモーのそれを始めとし、四人は(ローリーは無言だった)それから、それとなく悩んだ。
外傷は全く無いので、体力的に力尽きているわけでもないはずだろう。しかし他に疲弊しているとして、タムタムの回復魔法をかけたところで、効果があるとは到底思えない。
言葉が出るより唸っていた方が割合を占めていたが――結局のところ、考える時間はそう掛かったわけでもなかった。実行可能な案として、物は試しと言ってみたらしいタムタムの、この一言に無事決まった。
疑わしいところもあるが、否定するものは何一つない。
「土に植えて…水をあげたら良いんじゃないの?」
…実際話に、あったことであるし。
ライムが近くに落ちていたジョウロに水を入れてきて、花いっぱいの花壇に差したサンフラワーに水を与えれば、驚くほどたちどころに――実は皆が思った通りに――彼は元気になった。
「ワハハハハッ! ふっか〜っつ! ありがとよ、姫様!」
にぱにぱ笑う、ご機嫌そうなサンフラワー。何度か揺れた後、花壇から抜けて出て、中庭を動き回る。
それがあまりにも幸せそうな顔なので、声を掛けるのに気が咎める思いになったのか、皆は目で追いはしたが、口はなかなか出さなかった。
蝶を追いかけてみたり、止まって揺れてみたり、立ち止まって太陽を見たり。
サンフラワーは確かに微笑ましい精霊だった。大概笑っている彼等は、何とも笑顔の似合う精霊。見るとつい一緒に笑ってしまう程の魅力がある。
しかし、疑念は振り払えない。このサンフラワーは、とにかくだから何だろう――誰の胸にもあったことに従い、程なくしてリイムが最初に動いた。
「…ねえ、よければ教えてくれないかな。君はどうして花を咲かせているんだい? 言ったような野望があるわけじゃ、無いんだよね?」
するとサンフラワーは、鼻で軽く笑った。それはよくある当てつけの調子ではなく、それどころか自らへの自嘲、相手に対する羨望が含まれていたかもしれなかった。
「へっ……まだまだ若いなぁ、お前。…まあ、見た感じ若いし全体的に見ても若年そうだし、そりゃ若いわな」
リイムは何を返せるのかと、彼の真面目で素直な性格ゆえに、僅かながらでも真剣に考えてしまい、途惑った。
「…えっ…と…話しは?」
リイムが外れていた視線を戻すと、側に寄ってきた蝶と戯れて、くるくる回っていたらしいサンフラワーが、止まった。
「――そうだ、聞け! いいか、野望とロマ〜ンは紙一重! お花を咲かせまくることは俺のロマンなのよ! でもな、それだけに大きな意味があるわけじゃない。俺の目指すところはな…ちと長いんだが…遠い彼方の遥か空にある雲を流しつつ絶えぬ気流が巻き起こした風に舞い上がる路地裏の砂ぼこりと一緒に旅立ったタンポポの種ってなわけだ! そそられるだろ?」
「ええっ、うう〜ん?」
「やたらと大げさに長くして、意味不明なこと言うなよ…」
モーモーが顔をしかめて言った。サンフラワーも顔をしかめて言った。
「はぁ、意味不明だと!? タンポポの種はな、たった一粒でもどこにだって飛んでいくんだぞっ! 何か分かりやすい! ちなみに葉っぱは、密かに食べたりもできるんだぞ! 凄い苦いっ!」
「いや…そんなこと力説されても…って、食ったのか…?」
リイムはとにかく困惑し、モーモーもさすがに退きつつあった。サンフラワーの方は、いたってけろりとしているが、突込みに対しても。
そして、唐突に振られた。
「…おぉそうだ。苦いと言ったら……時に姫様?」
「はい?」
ライムが反射的に応えると、サンフラワーは何度も頷き始めて、
「よぉ〜く、聞きな。…人生ってのはなぁ、そのタンポポより遥かに苦いモンだよ。…そんでもって、恐ろしく辛くて涙があふれ出るほどすっぱくて…こころもち程度に少しだけ、甘味が入れられてるんだ…」
と、そこで話しが一旦終わるはずだったのだろう。サンフラワーはライムを見上げようとしたようだが、その途中で何故か止まった。
「…んっ?…ってことはだぞ…考えてみりゃ、人生って最高にくそ不味いんじゃねーかっ!? おいおい、とても食えたモンじゃねーな!? んんっ!? するってーと、あれか! 他人の人生まで食いつまんでいる奴らって、とてつもなく味オンチ!」
「…えっ、えっ…?」
突然驚きだして、後ろに飛び退いたサンフラワー。ライムを見上げて言ったので、彼女は応えて何か言わなければと思ったのだが、どうしようもなく言葉など出ない。隣で聞いていたリイムのように、一緒に惑う。
「だから、『超苦辛すッぱ甘っぽいような=デロデロゲロリとまずい』の式が成り立てば万事OK、立証可能! 問題は、誰か試しに味見するか…」
「むむ〜ん」
「…『確かに納得だな』…って、ローリー…?」
リイムが顔に影を落とし、屈み込んでローリーに向かった。
「ねえ、本当にそんなこと、考えてる…?」
その、色々と脱力しそうなところを堪えての発言だったのは、タムタム。サンフラワーは即時に、彼女へ顔を向ける。
「…おっ、分かったようだなっ! 俺の崇高なる頂の麓がっ!」
「ふもとって…それってもしかして、全然分かってないって言ってない?」
「…おおっ、分かったようだなっ! 分かりやすく分からない事を言ったからなっ!」
「ほぉ…そりゃ分かりやすい…」
腕を組んだモーモーが、半眼でうめく。タムタムは、呆れ顔に濃い疲労を垣間見せた。
「でも…分かる分からない以前に、あなたに問題があるってこと…分かってるわよね…?」
「俺自身に問題だぁ? なんだよ…そっちこそ何も分かってねーなっ! これが俺の専売特許っ!」
「なるほど…。それは何となく分かったが…考えてみれば今、どうなってるんだ…? さっぱり分からねえ…大体、何が分かったんだ…? 本当に分かった事ってなんだモー?」
モーモーがしきりに首をひねり出す。
「モーモーが分かったって言ったのは、このサンフラワーが何か?でしょう」
タムタムが言ってやると、それで一度モーモーは頷いたのだが。
「ああ、そうだモー。…あれ…さっき何となく分かった事って、それじゃねえよな…何だったんだ? そういや、分かりやすいなんて言ったけど…全然分かんねえじゃねえか……いや、前に言ったんだから…その時は分かってたんだよな…でも、今は分かってねえから……あああ? 変だモー?」
「変だぞ、変だ! お前何言ってんだよ、分かんねーぞ、おい!」
サンフラワーがモーモーの前で、怒って揺れる。タムタムが少々、ムッとした。
「それはあなたの方でしょう? 全然分からないわよ!」
「はああ? 俺の言ったことが分かんねーのかよ? 俺は牛のあんちゃんが何言ってるか分からないって言ったんだよ。これの何が分からねーんだ?」
「違うわよ、それが分からないって言ってるんじゃないわよ、もうっ! その前に決まってるでしょ、普通そう言ってるって、分かるじゃない!」
「俺…タムタムの言ってることが分からねえ…」
そこでモーモーが、ポツリとつぶやいた。タムタムは心外だという非難の目でもって、彼を見上げる。
「モーモー…! 何で一緒になって言うのよ…モーモーまで分からない何て言ったら私、どうしたらいいか分からないじゃない…!」
タムタムの様子に気づいたモーモーは、慌てた。
「ちょ…まてよタムタム。違う、俺はこいつと一緒の分からないは言ってねえよ…! 俺が分からないって言ったのは、タムタムが『分かるじゃない』って言った分からない事だよ…。ん? あれ…分からないって同じなのに違うのか…?」
モーモーは心底済まなそうに、そして困り果てた顔でタムタムを見る。
「モー…分からないモー…」
「もう良いわよ、モーモー。分かったから…」
タムタムは、微笑とも苦笑ともつかぬひどく曖昧な表情を見せると、顔を下げた。
「あ? 何が分かったんだよ? 分からない俺に説明してくれよ、分かりやすく! なあ、なあ…」
俯いたタムタムの前で、サンフラワーがねだるように揺れてせがむ。タムタムはふふっと、今度は見えて微笑みを漏らした。
「…ごめんなさい、本当は分からないの。ううん…分かってるんだけど…言葉にはちょっとしにくいのよ。…こういうの、分からないかしら?」
「…いんや。そういうのは、何となく分からないでもないぞ、俺は。何かよくあるよな、微々で曖昧で朧で不定形で不可視で捉えどころが無く測定不能な捕縛出来ない…ああそう、つまりはよく分からないやつなんだ…」
サンフラワーが言い終わると、その場が静かになった。だが、白けたものではないし、ありふれた感じがあるわけでもない。あるのは無為の、それだけの静寂。物足りないほどのそれは、何か含まれれば当然消え去る。今までに対する反動が、明らかになって。
「あの…ところでさっきからずっと、分かる分からないばかりでしたよね…話しが結局何か、分かります? 誰か…」
「うん。もう何が何だか、分からなくなってるね…」
言いにくそうに言い出したライムの言葉に、リイムが静かにつぶやいて、周りが再度沈黙する。
しかし、それはとてつもなく気まずかった。どんよりとしている。誰ももう、完全に分からないのが分かった証拠。
長くは、なかった。その中で――おそらく考えることを止めた一人と、元から考えてないような一人が、それから動いた。場が、崩壊。
「いや…このどさくさに紛れて、逃げ出そうとしている奴が一人いるってことが分かったモー!」
「……ぐにゅう!?」
叫んだモーモーの手が、そろりとその場を離れようとしていたサンフラワーの体を掴んでいた。
「…お帰りはまだ、早いんじゃねえか…?」
軽いので軽く、持ち上げる。
「離してー! わー! つぶれる折れるー!」
モーモーの握った手の中で、じたばた暴れるサンフラワー。ライムが顔を曇らせ心配して、近寄った。
しかし彼女が口を開く前に、モーモーはそれを制す。
「おっと姫様…間違っても手荒な真似はしねーから、安心しなよ。…なぁ、どうしてそんなに逃げたがるんだ? せっかく忍び込んだんだ、もう少しゆっくりしていった方がいいだろ?」
「う……牛さんがお花を持っても絵にならない! ならば誰かが描き上げる以前の前の話し、さっさと降ろせー!」
モーモーはやや、憮然そうな顔をし、
「…降ろしても、逃げないか?」
「逃げない! 飛んで帰る!」
「…そーかい。じゃ、紐で縛っとくか」
じたばたしながら言いきったサンフラワーに、モーモーは溜息を吐いて言った。
すると、サンフラワーは態度を急変させて、殴りかかるような威勢で捲くし立てた。
「こらぁー! お花をふん縛るなんて、前代未聞の悪逆行為だぞ! じっと見てないで、そこらの周り注意注意ー! 友人が悪事に走る前に、絶対阻止! 今が英断のとき!」
「……。こいつと話すと疲れるモー…」
皆モーモーと同意見だった。そして、各々色々。
「ああ言えばこう言うって、もしかしてこれのこと……なんですよね…」
「口から先に生まれたって言葉があるけど…それを超えるのは、どう言えば良いのかな…?」
「む〜ん」
「ローリー…それちょっと、しっくりこないよ…声帯から先に生まれたは…」
「それにしても…あれこれ言うけど、どこから出てくるのかしら…」
「そりゃあ、あれだモー。俺みたいな、考えるより先に体が動くのと似たようなもんで、考えるより先に口がでるんだよ」
「ンだとおめーらっ! 聞いてりゃ微妙に妙なことのたまってるなっ! 言っとくが俺は一通り考えて言ってるぞ! 分かってるけど…? それにちゃんと種から…生まれたんだよ…?」
「さっそく疑問形なんだけど…?」
「サンフラワーは精霊だから、たぶん種から生まれるわけじゃないと思うんだけど…?」
タムタムとリイムがそう言えば、サンフラワーは数秒の後、モーモーの手の中で、へにゃりとしなびる。
『……』
誰も、一斉に黙り込んでしまう。
「……。おいおい、またかよ…」
さすがにモーモーは、うめかずにはいられなかったが。
「姫様…あんたにゃ迷惑かけてばかりだなぁ…」
再度花壇に差して、ジョウロで水を遣るライムに、生き生きしたはずのサンフラワーが申し訳なさそうに言った。
「そんなことは…」
ライムは笑顔を返しつつ、言いながらよくよく考えていた。
迷惑と言うより、めちゃくちゃでよく分からなくて変なところが面白いのかと言ってもひどく可笑しいわけでもなく驚くほどのそれはつまり――何…?
「……」
「そんなことはぁ…?」
真顔になって黙ってしまったライムに、サンフラワーは悲しそうな顔で問い返した。
「あっ、あっ…迷惑ではないですよ」
「むむ〜ん」
それが聞こえるなり、やはり嫌そうな顔で、サンフラワーはリイムを向いた。
もう分かりきった、意思の疎通が両者にある。
「知りたいなら言うけど…『あくまでも、迷惑で・は!…ないとおっしゃったがな』」
「――こぉんの骨董類似コアラー! 強調すんなっ! 言われなくてもよくわかってら、俺だってなぁっ! …姫様はなぁ、迷惑じゃねえ、それどころかむしろ、その愛くるしい顔をぎゅぎゅっと抱きしめたいー! って思ったんだよな?」
目を吊り上げてローリーを向き、そしてすぐにライムを向いて笑うサンフラワー。
「………」
ライムは返せなかった。それをズバリと精一杯否定して指摘するほど、彼女に突っ込む勢いは無い。一時的に、とんでもない思い込みに思考すらも止められていた。
「しくしく…」
その沈黙は、絶対に肯定ではあるはずがない独特の。サンフラワーは、めそめそし始める。
…まあ、別の話しを持ち掛ければ、すぐに態度が変わるだろうが。
ライムは可哀想だったかな、と思う前に、そんな考えが先によぎってしまったが。
「ふ〜んだ…いいもんね…どうせ俺なんか所詮見た感じ全くのヒマワリだよ…それ以上でもそれ以下でもないよわかってるよ…さもありなんしみじみと…うう」
「あの…ちょっと言葉が見つからなくて…でも本当に、迷惑だ何て思っていませんから…」
出来る限りの優しい笑顔で、ライムはいじけてきたサンフラワーに話しかけた。
「私、今日は早く起きて本当に良かったと思ってるんですよ。…遅くても、きっとびっくりはしてたと思います…でも…きっとこうはなりませんでしたから…こうして皆さんと一緒に、変わったことをお話しましたし、あなたにも会えましたし……ちょっと上手く言えませんけど…お礼だけは言わせて下さいね」
にこりとライムが笑いかけると、サンフラワーの顔は赤みをおび、左右前後に揺れ始める。
「…あ…あの…ま、まぁ、いいって事よ! 俺はどっちかってゆーと…その…凄いし? 何か密かに修羅場もくぐってるし? だから当然人気者に違いないお花さんだし? というわけでそーゆうのは慣れるはずだから、照れたりなんか金輪際しねーと思うぞ! きゃー」
それから後ろを向いてしまったサンフラワーを見て、ライムはくすくすと笑った。
何と分かりやすい照れ隠しだろうか。素直ではないが、とてもよく分かる。いこじなのだが、それはあくまで表向き。そして本人は、おそらく分かっていないのだ…。
「…それにしても…ほんと、変わってるわよね」
暫し訪れた和やかな雰囲気に当てられて、タムタムが軽く肩を竦めつつ、同時に微笑しながらつぶやいた。
「むむ〜ん」
「そうだね……えっと…個性的って言えば良いのかな。…どれもよく分からないけど」
ローリーは変わるはずも無いが、リイムが苦笑して相槌を打った。
「――ハハッ! お前らに測れるほど、俺の心の根っこは浅くねえ訳だ!」
聞いていたらしい。上機嫌のサンフラワーが、振りかえる。
「浅くない? …そーか?」
モーモーがそう言った。すると相手は口をへの字に曲げる。
「なんだよなんだよ…! 深いぞ! 暗いぞ! …湿ってるよ…。…ゴボウより少なくとも深い!んじゃないかなぁ…」
「ふうん…じゃあ、前に好き放題言ってくれたこともあるし…腹いせに、ちょっと言わせてもらおうか」
モーモーは歩き出して、サンフラワーの前に立ち塞がるように近づいた。
「――あぁ? 言ってみろってんだ! 俺はひるまないぞっ! 貫いてみせる! 古今東西俺の闘志は不眠不休!」
サンフラワーはやや体を曲げて、モーモーを見据えながら構えて見せる。
「モーモー?」
リイムが後ろから、疑問の声を掛ける。モーモーは怒りやすいところがあるが、しかし、いつまでも根に持つ人柄ではないからだ。腹いせというのは、何かの口実として考えるべきだろう。何を言おうとしているかは、さすがに推す事はできないが。だからだ。
モーモーはリイムに、振り向いてにやりと笑って見せた。あざとい悪戯を思いついたような笑み。まれに見せることがある。人一倍のお人好しが、さらに高じたときのものだった。
彼は表情を真顔に戻して、サンフラワーに向かい合う。
「何が深いだよ…俺は分かってるぜ、お前の本性。色々馬鹿やって、それとなく誤魔化そうたって、騙されねえからな。…逃げ出そうとしていたのも、そのせいだろ? 恥ずかしいよな、覗き魔だもんな」
『覗き魔…?』
各々が訝りをもって声を上げる。モーモーに視線が集まる。
「そうだモー。どうせこいつ、陰からでも覗いてるんだぜ、自分が咲かせた花を見る、皆の顔をな。…どんな顔で見てると思う? きっと誰よりも幸せそうに歪んでるよ。…そうだよなぁ? 病み付きになるのも、分からなくもないぜ」
言い終わって、モーモーが意地悪そうに口を大きく歪めた。サンフラワーの顔は、見る見る赤くなって行く。
「ぐぅ…! いよいよあったまきたぞ、俺はっ! もう行く! 良いよなっ! 文句ないなっ!」
怒鳴ると横を向く。数回揺れて、今まさに飛び出そうとしたところだった。
「まって、奇跡の精霊さん!」
ライムが慌てて呼びとめる。
サンフラワーは、横を向いたままだった。
「なあ…姫様。悪いがその呼び方は止めてくれよ。俺はそんな大それた名前じゃねーんだ。勝手に誰かが呼んだだけなんだよ…くそ迷惑なっ!」
「じゃあ、どう呼べば…」
つぶやきに、サンフラワーは振り向いた。
「ああん? 俺はミラクルよ! ミラクルサンフラワーって、呼んでくんなっ! というわけで、俺は行くぜ、去るからな! 引きとめても無駄だぞマジで」
ライムは一瞬怪訝そうな顔をしたのだが、微笑を漏らしながら言った。
「お元気で…よろしければ、また来て下さいね。でも、ちゃんと正門からですよ」
「ぎくっ! わ、分かったよ…寄ることがあればなっ!」
そこでサンフラワーは顔を戻す。しかしその前には、ローリーが何時の間にか既に居た。
「む〜ん」
「おわっ!? …置物コアラ、なにいってっかわかんねーが、勝負は次だぞ、次! 覚悟しとけ!」
「むむ〜ん」
「『よくぞ言った、返り討ちにしてくれるっ!』だってさ」
リイムの訳に、サンフラワーは不敵に笑った。片方の葉っぱを突き出して…指でも付きつけるような感じだ。
「へっへっへっ…いい度胸だな! それはこっちの台詞だぜ。お前は俺のお花さんに埋めつくされる運命だぞっ! 顔だけ山から出るんだ、何かかっこわる! 肝に銘じとけよ!」
言って笑うサンフラワーに、モーモーが指を付きつけた。かと思えば、軽く押しはじく。
「あっ、この! よくもやりやがったなっ! その指噛み付くぞ、お花に噛みつかれるなんて、みっともな! だから出せ指! 出さないと噛みつけないし!」
「じゃあ、出さないモー」
「なにぃ!? 言われて出さないとは、ちょっとばかり賢いな…?」
今更ながらだが、変な問答に、モーモーは思わず低く笑った。
「しっかし、今度会うときがあれば、その口を直しておいてもらいたいもんだな。全く、いつまでたっても話しは進まねえ、訳はわからねえと、困りモンだモー」
彼が肩を竦めて言うと、相手も負けじと葉っぱを動かした。
「やれやれ、減らず口だなぁ。諦めが悪いぜ」
「それはあなたでしょ」
タムタムも苦笑交じりに突っ込むと、それで皆は、解けたように一斉に笑い出していた。
『ワハハッ、認めてやるよ! お前等の突っ込みはなかなかのモンだった! じゃ、とうとう俺は行っちまうぞ! また、緑があったらな〜っ!』
そしてサンフラワーは、そう言葉を言い残して飛んでいった。
静かになる…。何度訪れても、静寂は常に満ちる。そして変わらない。
後は皆、呆然として立ち尽くすしかなかった。数分、ずっとそうしていた。どうしようもなかった。時が止まってしまったようだった。
それに、もう遅い。
「あそこでみどりなんて…縁と間違えてる…?」
タムタムがようやく口にしたつぶやきは、十中八九あっているだろう…。
聞いたライムは、サンフラワーが去って行った方向から視線を外した。目を伏せて、
「…結局、最後の最後まで、おかしく行ってしまいましたね…」
「ええ…」
リイムが頷く。彼もまた、サンフラワーが去って行った方をずっと見つづけていたが、頷くと同時にライムを見た。
「最初からずっと、何だか良く分かりませんでしたね…」
「それにしてもなぁ…あいつ…」
まだ見つづけているモーモーが切り出し、そして軽く笑う。
「…なんだい、モーモー?」
尋ねるリイムも、笑っていた。分かっていて、あえて尋ねている。
「さっきのはともかく…どうして皆、あれを即行で突っ込まなかったんだよ? いや、俺もそうだけどな…」
ライムもくすくす笑った。全てが、思い出し笑いだ。
「本当に…奇跡でしたよ。あれで良いじゃないですか。…皆さんも、そう思われたのでしょう?」
それは、大それた奇跡でも何でもなかったが…揃って、頷いていた。
「…さあライム姫、そろそろ中に戻りましょう。皆の声も、聞こえて来ましたよ」
リイムが周りを軽く見て言った。
朝本番。城内は既に、騒がしくなっていた。もう、早朝ではない。静けさが失せて、様々な声がどこかから届いてきても不思議ではない。とにかくあわただしい足音に、怒声や悲鳴や罵声などが一緒に混じって聞こえたところで……
「? おい…やけに騒がしいぞ…?」
――違う。
その、普段と違う騒がしさに誰もが気づき、モーモーがつぶやいた時だった。
「助けてー! 兵士が増えたから、見つかって出られなくなっちまったようー!」
なんと戻ってきた…。
去来するものが、彼等を襲う。もはやなすすべも無く、往生するしかないのか…
しかしライムが、ある決意を決めたのだ。ジョウロをもって、そろそろと彼の前に進み出る。
この機会に言っておくべきだ。指摘するべきだった。間違いは早めに、正すべき。
彼女をどうにか押し出したのは、そんな思いと、周囲の唖然として、しばらく戻りそうにもない様子からだった。
そっと告げる。
「……あの…さっきの場合…緑じゃなくて、えんって言うんですよ…」
答えは、思った通り。
サンフラワーはその日で三度目、しなびた。
彼女の一日の締めくくり。これもまた、日課だった。
終えないと、次が始まらない――実際はそんなことなどあるはずもないが、習慣となったそれは、繋ぐためには欠かせない行為。昨日、今日、明日を積み重ねてきた、形ある証拠と言えばそう。今まで流れてきた漠然と化した時を、細分化し確認できる、唯一のものだろう。
ライムは夜になって自室に入り、今日の出来事を日記に書いていた。題名は、ミラクルサンフラワー。場面を思い出して何度も苦笑しつつ、書き連ねる。
残りは、あと少しだった。
――三度しおれたサンフラワーは、城内を盛大な混乱に陥れ、兵士達を引っ掻き回して戻ってきたので体裁が悪かったのか、水を遣ってもなかなか元気にならなかった。リイムとモーモー、タムタムが奔走して騒ぎを収めた後もそうで、結局動くようになったのは、太陽の高い昼過ぎ。その間、ずっとローリーに目前で監視されていたせいか、ひどく疲労を顔に出していた彼。うなされて時折「あっちいけコアラ…」と、つぶやきだしたので、場所が悪いのかもしれないと、ライムが今までの花壇から抜いて植木鉢に植えれば、真っ直ぐ伸びる。
それから、ローリーに少しだけ席をはずしてもらえば、サンフラワーはとたんに巻き舌で喋り出し始めた。
…彼は何かを、口授するつもりだったらしい。あくまでも、つもりだったらしい。
「姫様なかなか聡いな! 俺の為に邪魔コアラをあっちにやってくれたんだろ? いや言わなくてもいいぜ分かってるよ俺はお花だからな。うんそれでだあんたの思った通り話しがあるんだよ。いやいや内容はさすがにわからねえだろうからまあ聞きな。俺はこれでも結構生きてんだが、精霊にしちゃあまあそうまで長くも無いかもしれねえが短くもねえわけだ。そうだよ言っちまえばそこそこ生きてるこの俺が歩んで来たんじゃねえ、飛んで来た道のりを隅から隅まで曲がり道も分かれ道も踏まえてことごとく話すと長すぎて困るだろうから短くするとあっという間に人生だ。言ったよな、人生には味があるんだがとてもじゃねえが味覚なんて絶対できねえっていうか、とにかくすごくとっても猛烈に大変美味くねえ。不味い味加減悪い風味いまいち。でも全部同じ味じゃねーんだこれが。分量も様々加えて他にそれぞれ隠し味ってもんがあるだろー色々と? 俺が見た限りあんたの周りにゃあ、それでも結構調味料が揃ってるんじゃねえかと思ったんだがどんなもんかね? 俺なんてなあ灰汁が強すぎて他の味が全て台無しよ、不味いことには変わりねえが。ああ何が言いたいかって言うと、生活環境と境遇ありとあらゆる角度から推察する人格成形は味による説序章冒頭って感じだから所詮あまり触れてなかったそもそも訳分からんし。…ゴホン…ま、まあそんなもんだ何かと! 要約して俺は思う、不味いからって飲み込むな、鼻ぁつまんで噛締めろ!?」
意味がありそうで大変なさそうな。
内容は別として…勢いといい、長さといい、その手で有名な権威、ねずみのラドック教授にも対抗できるのでは。場面を想像すると恐ろしいものがあるが。
「…本当に、あなたは変わっていますね」
サンフラワーの話しは、聞くだけで疲れることも事実だが、とても追いついていける内容ではない。だから答えには、なっていないかもしれない。
「…私、確かに恵まれているんですよ…皆さん良い人ばかりです。…そしてあなたも、本当はそうですね」
笑いかけると、サンフラワーは黙ってしまった。それから、鉢より抜け出る。
「そっか…俺が言う事は、もう何も無いわけだ…喋ってるけど」
「どうしてですか? そんなことはないですよ。あなたは、色々知っているじゃないですか」
「いやそんな、褒め上げられて褒めちぎられて褒めそやされて褒め殺されるとさすがに参るな。我ながら意味がない話になっていくとまさに一人談義開講って感じで冥利につきるんだよなぁ…なんて分からんことをやっぱり喋りつつ……ぎゃん!」
「むむ〜ん」
ローリーは本当に、少ししか席をはずさなかった。的も、はずさないのだろうか…。
じきに、サンフラワーが怒り出した後は今までと一緒だった。両者は睨み合い、何やら激しく(と思われる)言い争っていた。長い口論だったが、一方が自滅したので、勝者はやはりローリーだったが。
「む〜ん」
「ぐうぅぅ…完全に敗北を喫した俺は、次回の対戦で雪辱する為に必ず強くなって戻ってくるとここに誓い立てるので、姫様しっかり覚えておいてくれ。俺って自慢じゃねえが忘れっぽくてさあ困ったぞ…。もうさすがに行かなきゃならねーんだよ…本当にそうなんだよ…ゆがみコアラに構ってる場合でもないんだよ…」
「そうですか…でも、私は覚えておきますから、また来て下さるんですね?」
「おうそのとーり。姫様には俺が華麗に勝つところを、両の目で見てもらわにゃならねえ。だから…お城から出して欲しいななんて?」
サンフラワーは、正門から出られて満足だったらしい。口を常に動かしてはしゃいでいた。しかし、門をくぐり抜けた後急に静かになって、ぽつりと言った。
「次に来るのはいつになるかわからねえ…でもよ、そう遠くない先だといいな。…いや、これだけは約束するぜ。できれば近いうちに…あんたらが忘れないうちに…顔を出してやるよ」
その時も、誰も唖然としていた。まさか真面目な言葉が出てくるとは、夢にも思っていなかった。誰一人としてそうだった。
沈黙の間に、サンフラワーは笑って飛んでいってしまった。しかし、どうにも信じられない。このような味気なくあっさりとした終わり方で終わるはずがないと。
だから、ライムはしばらく待っていた。が、彼は戻って来なかった。何度となく振りかえってみたのだが、やはり姿はない。城内に帰った後、駆け足で門まで戻ってみたのだが、やはりそれでも。
「ライム姫、サンフラワーは…」
――本当に、行ってしまった。
「ふう…」
ライムはパタンと、日記を閉じる。長々と書いたため、少々くたびれた感じがした。実際、そうだろう。色々と変わった事があれば、そうなるだろう。疲れないわけがない。
一辺に押し寄せてきて、分らないまま去ってしまった…。
「もう…寝なくちゃ…」
今日はいつもより早く起きている。しかし、いつもより床に就くのが遅い。
「…明日は、早く起きれるかな」
少し不安になる。早く起きたところで、今日のような事が起こるはずもない。…そう思う不安。
「大丈夫ね…きっと」
振り払う。
明日を決めつける事は、出来はしないが。その先など、尚更に。
しかし信じてもいいだろう。あってこその奇跡だから。実際あるのだから。約束までした、奇跡そのものと。
疑う余地などない。ただ信じればいい、彼を。それだけで十分だろう。
「…おやすみなさい」
そして目が覚めれば、きっと良い日がくるだろう。
窓辺に置いた植木鉢。明日は種をまいてみようと、ライムは今日最後、思った。
おしまい
<後半のあとがき>
う〜ん…わざわざこっちを見る人いるのか疑問ですが(苦笑)、前半で述べなかった事を書きますです。
サンフラワー…のキャラですが…たぶんおそらく…読んでる、とある小説のキャラに影響されたのかも…? まあ、向こうはもっと理知的…かもしれないけど、言う事と行動は。…何かは省きますので、やっぱり誰も分らないでしょうね(苦笑)
ええっと、話しの頃は大体2の話しの一年後ぐらいです。リイムは16歳ってことにしてあります。結構不明なところが多いから、足りないところは埋めないとどうしようもない…。ライトさんもいつ亡くなられたんだか…モーモーはいつから王国に居るようになったのか…。話しを作る側としては、もう少し詳細が知りたいですね…。まあ、無ければ無いで勝手に作れて楽しいですが。
ああ…ちなみにライム格好は、まだ3のようなごてぼてにはなってないと思ってます、自分は。…たっぷり水の入ったジョウロを投げつけるんですからね…姫様力もち(苦笑)。…と、それにしても、私は牛が好きみたい。でも、モーモーがらしくないし…相変わらずリイムはあんまり台詞ないし…。ううっ…これからもそうだろうなぁ…リイムファンの方には申し訳ないですが。
しっかし、後半強引すぎ…前半が浮いちゃうよ…。あの、分る分らんの訳わからん繰り返しは…どっから出たんだろう…もしかしたらか元ネタがあったのかもしれないけど…自分は覚えてないんですよね。気のせいならいいけど…でもあったようななかったような…。
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