終わった後は
彼等はクルクルの森に戻っていた。再びくるくると、回っている木々に囲まれた中にいた。
しばらく。しばらく、沸き上がる感情を押し殺していた。身体が震えてくる。感情が急激に高ぶっていく。ともすれば、何も考えたくなくなる…。
「どうして…なんだ…」
「こんなことって…ないわよ…」
口調は虚脱するように、リイム、タムタム。
「俺は…なあ…ほんと信じたぞ…! なあ、どういうことだモー! たちの悪い冗談だったら、さすがにブン殴るぞ!」
そして、震える拳を上げて、モーモー。今にも相手に噛み付きそうなミラクル。
「言えぇぇっ! ゲロしろっ! 黙秘権はぜってー認めねーぞっ!!!」
その矛先の相手は、地にあぐらをかいて座っていた。言葉はなく――だが、囲う面々を見上げて、やや鼻白み、たじろいでいる様子はあった。
そんな彼の近くには、ガラバーニュが落ちていて、うつ伏せになって気絶しているアラビアなど居るのである。
よって、今は一方的に責められているわけだ。
「何か言うこと…あるでしょう…? 言って…」
タムタムは声が震えていた。彼女にも、かなり怒りが上って来たらしい。
彼は、なんとかどうにかといった感じで、口を開いた。
「穴が…」
とたん、ミラクルがずいっと詰め寄った。
「穴があぁあー!? なんだとおぉーっ!?」
スカッシュはガクリと俯いて、顔を押さえながら言った。
「穴があったら、入りたい…」
沈黙を一拍挟んだのち、ひと吹きした風のあと。わなないたタムタムが、いよいよかんかんに怒った。彼女も詰め寄る。
「なによ、それっ!!! 何なのよっ!!!」
「――俺だって知らない! なんで俺は…生きているんだ? そこのアラビアもだ! 俺が知りたい!」
さすがの彼も、あまりの事に感情が乱れてしまった。スカッシュは逆切れしたように返す。そこで、上品な笑い声が上がった。
「フフフ…」
リイム達はすぐさま首を巡らし、声の相手を探したが、どこにも彼女の姿は無い。
聞こえてくる声は、どこか楽しそうだった。
「フフフフフ…。だから言ったでしょう? 恨まれても知りませんよと…」
スカッシュはそれに即座に反応し、座ったまま大地を平手で叩いた。
「――ラムフェリア! お前、知っていたな!? どういうことだ!?」
すると彼等のやや上の空中に、人の頭ほどの光の玉が現われた。それは眩しいものではなく、ちらちらと淡く発光している。彼女の声は、それから聞こえる。
「…私が尋ねたところで、あなたが頑なに、いいと言われるものですから。…あの時に言っていれば、私がちゃんと話して差し上げましたのに」
そのいけしゃあしゃあと言ってのけた言葉には、スカッシュが思わず絶句しかけた。彼は肩を震わせる。
「っ…! そのことじゃない! なぜ俺は生きている!? なぜガラバーニュが存在している!?」
怒声によってか偶然か、アラビアがちょうど意識を戻した。唸りながら頭を揺らして、身を持ち上げる。
「う…。あ…あれ…? アラビアは…なぜ…ここにこうしているでおじゃるか…? 魔剣は浄化されたはずでは…」
「浄化されました。ですが、それは…剣ではありません」
「え?」
アラビアは光に気づいて、そちらを向いた。何なのか、ぼんやりとつぶやく。
「ラムフェリア殿…?」
光は言葉を結んだ。
「アラビア…。あなたはもう、呪いの魔物ではないのです。あなたは正真正銘、ガラバーニュの魔人。剣の魔人ですよ」
「アラビアが!?」
驚いてまた地に――腰まで抜かした彼に、光は笑う。
「…光が、あなたを変えたのですよ。あの光は神の、神力の輝き…。確かに因果を断つ浄化の光ですが、それは奇跡をも起こす、聖なる光でもあるのです。…あなたの心が、その光によって、あなたの本質そのものを変化させたのです。…あそこで、生まれ変わったと言っても良いでしょう。だから…あなたは消える事が無かった。だから、これからも剣の魔人なのですよ…アラビア」
アラビアは飛びあがるように立ちあがった。力んで、
「じゃあ! じゃあ!アラビアがただの剣の魔人なら…ガラバーニュは、もう呪いの魔剣ではないでおじゃるか!?」
「ええ。そうですとも…」
優しげな、声。アラビアは感激に震えている。涙ぐんでさえいた。
「あ…う、嬉しいでごじゃる…。ありがとうでごじゃる…!」
「私の力ではありませんよ。それは、あなた自身の心…力によるものですから…」
「――おい、俺はどうなんだ…!? 俺も…そうだというのか? 俺は別に…変わったところなんて…」
どちらを向いているかなど分からないが、アラビアの方を向いていそうな光の彼女に、スカッシュは癇高ぶって促した。睨み据え、しかし語尾は弱くなったが。
光の方は、答えるのに間を置いた。思案しているのか、それとももったいぶっているのか…。
黙っていては、感情の色が見えない光球。彼等はじっと、凝視した。
「そうですね…。あなたはあの時点で、既に奇跡の力など必要ない存在だったのですよ。…あなたの場合は…思い込みの勘違いになりますかしら」
「な、なんだと…? 何が…」
たっぷり数十秒ほど置いた後の言葉に、当惑するスカッシュ。彼女はさらに続ける。
「あなたは、人間の血も引いていましたね。気づいていないようですが、その、人の生が今あります。だからあなたは消えていません。…それによって、消えませんでした」
彼の顔が、見る見る驚愕のそれに変わる。
「馬鹿な…俺に人間の生があるだと? 俺の復活は不完全だった、黒魔龍の部分が生きていたに過ぎないんだぞ! どうしてそうなる…!? もっと詳しく言え!」
「…あなたが生き返った時点では、そうだったのかもしれませんが…。王宮の庭園で会ったとき、私は言いましたね。あなたは、人の血も引いているのですねと」
「…ああ。だから…?」
「…黒魔龍の部分だけが生きているあなたでしたら、きっと分からなかったでしょう。私と会う以前に、何らかの事が起こったのでしょうね。…邪神すら考え及ばなかったイレギュラーですから、私にだって、あなたという特殊な存在には、何が起こってしまうのか検討がつきません。不安定でもあったでしょうし、ふいにいつなんどき、偶然に変化が…奇跡的な事が起こってもおかしくはないでしょう。つまり、それがあなたの身に起こって、それが邪神の因果律から外れる要因になったのは、おそらく間違いありません」
そう語る光を見ながら、スカッシュは実に信じられないといった顔をしていた。
「俺の身に…そんなことがあったのか…?」
「それは誰も知るすべはありませんから、答えられませんね。何でもない時に、偶発的に起こりうる事も考えられます。…ですが、あなたは人間の生というものが戻ったのですから…命…生命…何かそれに関わるような事が、私と会う前にありませんでしたか? 突発的に起こるよりは、何かきっかけがあってそうなったと考えるほうが、遥かに現実的ですわね…」
「生命…? お前と会う以前に…。――まさか…?」
スカッシュはすぐに考え始めて、数秒後にはハッと顔を上げた。見下ろしている、タムタムと目が合う。
「…そう…あれってつまり、凄い貸しだったみたいね?」
「……」
彼女の問いかけに、彼は黙った。
「でも、スラー先生達を助けてくれた件で、チャラにしてあげてもいいわよ」
「……」
彼はやはり黙っていた。ラムフェリアがそこに、うっかり忘れていたといった感じで付け加える。
「まあ…あなたの身に前もって奇跡が起こっていなくとも、先ほどの光でアラビアと同じような奇跡が起こった可能性は、無きにしもあらず…といったところかもしれませんね」
スカッシュは聞くなり、露骨に忌々しそうな表情で、横を向いた。
そこで彼等の耳には、聞きなれた声が聞こえてきた。
森を抜ける道を通り、こちらへ真っ直ぐ向かってくるのは――。
「…リイム! 皆さん!」
「ライム姫! みんな!」
リイム達は、向かってくる数名を見た。ライムにロビー、ジョージにミッキー。
「ようやく、ライム達が来たようですね。皆さんを戻す位置を間違えてしまったので、伝えてはおきましたが…あらあら、あんなに慌てて…」
走ってくるライム達を見ているのか、彼女は微笑ましそうに言った。
リイムは自分達のもとへ辿り着いた彼女達を迎えると、数回確認の言葉を交わし合い、その後でライムに聞いた。
彼の、姿が見えなかったのだ。
「ところでライム姫…蒼月の姿がありませんが…?」
「蒼月さんは…もう約束は守ったと、行ってしまわれました…」
ライムが告げると、リイムはやや俯いた。今度はいつ会えるのだろうかと、思う。
「そうですか。もう行ってしまったのか……お礼が言いたかったのに…」
その彼の前で、ライムは微笑した。
「礼ばかり言われるのはわかっていますから、もう結構ですよと…おっしゃいましたよ」
そして、顔を上げた彼に、言付かった言葉を伝える。
「次に会うときは、今度こそ共に歩めるようになっていたい、とも…」
「そうですか…」
何気なく、リイムは空を見た。既に晴れあがっている、蒼い空だった。
それから、光は静かに切り出した。
「ライム…両手を揃え、手のひらを上に向けてお出しなさい」
言われた通りに、ライムが光を見ながら両手を出すと、その手のひらの少し上がパッと光った。後には、彼女の手の上に、ライナーク王国の紋章となったペンダントが乗っていた。
「これは…」
受け取って、ライムが再び光を見上げる。
「もう、力を解放した今…私には必要のないものですから。…代々受継いできたものを、私がすり替えてしまって、それがゲザガインに消されてしまいましたから、代わりに今度はそれを。…あ、王様には内緒ですよ?」
一同は揃って沈黙した。やや置いてから、ミラクルが唸るようにつぶやいた。
「やっぱ…ラムフェリアさんって、いー性格してるよなぁ…。俺、心底関心するぅ…」
「私も…それ分かるわ…」
タムタムも俯き加減に。光といえば、笑った。
「フフフ…そういえばあの人にも、言われたことがあったかしら…」
「…なんて…天使だ…」
横を向いて、ずっと顔色を変えていないスカッシュが吐き捨てるように。リイムは聞いて、光をまじまじと見やった。今更、驚きはしないが。
「天使…。あなたは…」
「ええ…。私は、神の命によりここへ遣わされた天使…。世界に介入できない神々にかわり、私は使命をおびて、この世界に降り立ちました。現在においては、知っての通りあなた方を見守り…過去においては…地上に落ちたガラバーニュのもとへ一人の青年を導き、サンクリスタルを与えました。…そして、現在あったように力を器に封じこめ、隠し、人に化身した私は…雷光の騎士となった彼を助けるため、僧侶として側にいたのです…」
静かに語った光を、ライムはやわらかな眼差しで見上げる。
「そして…初代ライナーク国王の、妃とならせられたのですね…」
「そうです…。…あろうことか私は、彼を愛してしまったのです…」
彼女は、まるでその事が罪であるかのようにつぶやいた。ライムはそれが、納得できなかった。
「何がいけないのですか…! 騎士を愛したことが何故…なぜいけないのですか…」
訴えかけに、光はしばし沈黙した。それからゆっくり、少し上昇した。誰もを見渡すように。
「お話ししましょう…。ライム…こうなった全ての原因は、その私にあるのですから…。リイム、あなたが戦わなければならなかったことも…あの人が自害してしまったことも…アラビアのせいではないのです…。全ては…全ては私に…。私が過去、カオスドラゴンを通じ、この世界に現われた邪神を封じられなかったため…。その為あなた達に、辛い戦いを強いてしまった…。あのとき…私が今のように天使に戻れさえすれば…あなた方が遭遇した、邪神に関わる出来事は、全て起こらなかった…。だから、全ては私の過失…私の責任なのです…」
悲しそうに話した光に向けて、ライムは首を横に振った。
「わかりません…。何が過ちなのですか…それと騎士を愛することの何が…!」
「私は……隠した力の解放に失敗しました…。光は完全な力とはならず、ただ、あるだけ漏れました。そのせいで、私は邪神を封印できませんでした…。邪神はカオスドラゴンを盾にすることで、闇の底へ再び逃げおおせたのです…。そして、そんな光では…奇跡の力を起こすことも不可能でした…。ガラバーニュは魔剣のまま…」
彼女は一旦切った。誰も口を出さないまま、再び悲しい言葉は紡がれた。
「その…力の解放に失敗した原因は、天使に戻れなかったことなのです…。本来の姿でないと、本来の力を解放することはできません。ですが…あのときに、私は戻れなかった…。それは私が……既に身ごもっていたからでした…」
ライムは理解しながらも、つぶやかずにはいられなかった。
「……そんな…」
「…あの人が自害したことで、私は自分の愚かさに、泣き続けました…。そして、私は子供を生むと、すぐに死にました。私は死ぬということによって、化身し、得た人間の肉体から解放され…天使に戻り…天界へ帰りました…」
「……」
無言で、ライムは俯いた。その彼女に、光は言い聞かせた。
「わかりましたか…? 全ては私の…私の過ちなのですよ…」
ライムは顔を跳ね上げた。否定しながら叫んだ。
「…そんなこと…ありません! あなたは悪くありません…! どうしていけないのですか…誰がそれを責めると言うのですか…? あなたが…自分を責めているだけではありませんか…」
泣きそうになり、言葉が弱くなっていくライムの代わりに、リイムが言った。
「もう…いいと思います。これからもずっと、あなたが自分を責めつづけることは…誰も望んでいないと思います…。初代も…」
そのとき、光は瞬いた。誰の目にも、彼女の微笑んだ姿が見えた。
「ありがとう…」
そして、彼等は変化に気づいた。瞬いた後の光が少しずつ、弱くなっていくのが見える。
リイムは尋ねた。
「ラムフェリアさん…光が…」
「…私は長く、天使としてこの世界にいることができませんから…こうやって話すことも、もう、限界のようです。これで…お別れですね」
「そうですか…」
光は弱くなりながら、ゆっくり上昇していく。見上げる彼等に、彼女は最後に言った。
「さようなら。そして、ありがとう、勇者達よ…。あなた達は自らの力で、自らの世界を、仲間を、人々を…守ったのです。これからもあなた達に、その心あらんことを…。あなた達の行く手に、希望の光あらんことを…」
強く一度。光は輝いて、そこから消えた。
「いっちまったな…」
光が消え去った後、ずっと見上げたままだったモーモーが、やがてつぶやいた。
「うん…」
ぼんやりとリイムも見上げたままだったが、それを止める。モーモーは考えるような素振り――片手を顎に当てて、しばらく黙考したようだったが。眉が、寄った。
「じゃあ……まあ…えっと、帰るか?」
「そうだね」
リイムは笑って同意した。落ちているガラバーニュを拾う。そこにアラビアが、何やらそそくさと寄ってきた。
「あの…あの、リイム殿…。アラビアは…またご一緒してもいいでおじゃるか…?」
リイムは笑いが絶えなかった。
「もちろんだよ、アラビア。別に、またかしこまって言うことないじゃないか。アラビアは剣の魔人。剣の主と一緒に、戦ってくれるんじゃなかったかな…?」
「そ、そうでごじゃる…!」
アラビアは照れくさそうに、嬉しそうに笑う。モーモーはそれを横目で見ながら、大声で叫ぶ。その後でライムを見た。
「あ〜っ! 腹減ったモー! 帰ったら王様に、たくさんごちそうを出してくれるよう、言ってくれよな、姫様!」
ライムはそれに、眉をひそめた。彼女も一時、忘れていたのだが。
「はい…と、言いたいところなのですが…。それが…私、勝手にお城を抜け出してきたので…。そろそろ、私を連れ戻しにくる兵士の方々がくるかもしれませんね…」
モーモーは目を丸くした。聞いたミラクルは、忘れていたのが見え見えだ。たちまち真っ白くなった。
「――そ、そうだあああっ!? ラムフェリアさん行っちまったから、俺が一人で罪をかぶることにぃぃぃっ!? き、きっと水抜きで天日干しにされたり、超狭い鉢に無理やり植えられたり…うおおおっ! 恐怖の好き嫌い占いの刑があぁぁっ!? 俺の黄色い花びらが…好き、嫌いと朗読されるたびに、いちまいいちまい…」
一人で喚き、騒ぎ立てるミラクルの前に立ち、ライムは屈みこんだ。
「そんなことはさせません。ミラクルさん…話せばきっとお父様も分かってくださいます…。悪いのは私一人ですから」
モーモーは何となくだろう、後ろ頭を掻いた。
「なんだよ…姫様は勝手にお城を飛び出してきたってわけか。…そうだよなぁ、出してくれるはずねえもんなぁ。こりゃ、俺達からも王様に言わないとな…っと、まだあるんだモー」
彼は依然として、唯一座りこんでいるスカッシュを見た。リイムはそれを追って、ふいに尋ねてみる。
「…スカッシュ。君はどうするんだい?」
ぼんやりとしていたのか、彼の応答は遅かった。目も、どこかさ迷っている。言葉もはっきりとしなかった。
「…俺は……どうするも…こうするも…」
「何も考えてなかったんでしょう? まさか、自分がおめおめ生きているなんて…ね…」
横から口を出したタムタムにも、彼はろくに言葉を返せなかった。
「悪かったな…生きていて…」
彼はうな垂れるようにして、片手で顔を押さえた。
「当たり前だろう…俺には、終わりしかなかったんだ…。俺はもう終わった…」
つぶやくスカッシュに、タムタムは考えることなく言った。
「単純よ。終わったなら、また始まるんじゃない」
「……」
スカッシュは無言で顔をあげる。モーモーは既に、考えが城に向かってしまっているが、
「そうだよなぁ…。ま、とりあえず戻って何か食えば…考えが出るかもしれねえな…」
「もうっ、モーモーったら、まず食べる事がでるんだから…」
「だってよ…ほんと腹が減って仕方がないモー。早く城にもどりてぇな。みんな一緒に戻って、面倒な事はさっさと終わらせようぜ」
それにミラクルが飛び跳ねる。
「おお、俺も賛成だっ! 嫌な事はさっさと終わらせたいっ! そうしたらまた姫様と…いていていていて」
顔面をジョージに突付かれ、ロビーにぽこぽこ叩かれている、誰も止めはしない中。
「お前達のお人よしは…まったく度し難いほどだな…。俺が何をしたか…忘れたのか…」
彼は厳しさすら見える眼差しで見上げた。対し、リイムは微笑んだ。手を差し伸べる。
「そう言われることは…さすがに慣れたよ、スカッシュ。でも僕は、そう言われてもいいんだ。…僕は、こんな僕だから」
「……」
スカッシュは無言でリイムを見返した後、溜息をついたかと思うと手を上げて、差し出された手をパチンと払った。
「――った!」
叩かれた手を慌てて引っ込めるリイムに、スカッシュは薄く笑った。満足そうだった。
「…別に手を借りなくとも、自分で立てるさ」
そう言って、立ちあがる彼。リイムは手を撫でつつ聞いた。
「じゃあ…歩きながらでも、考えるかい?」
「…そうだな」
頷くでもなく、スカッシュは僅かに顎を引く形で返した。
ミラクルは頭を振る。震えているのか、振っているのかいまいち分からないが。
よく彼等には分からないが、嬉しそうではあった。
「あー、やっと帰るのかー。ぶるぶるっ! 怖いけど俺…やっぱ……ああーもー! 俺、とんでっちゃうよー!? ――びやっ!」
前を見ず飛び出した彼は、前を見たとたん、前方にいたミッキーに張り付いた。
「……」
「くおぉらーミッキィィー! 再度警告すーぞっ! 俺の進路を妨害すなー! お前は大体でかいからいかーんっ! うひゃーぁ」
ミッキーの前で喚きたてたミラクルの首根っこを摘み、モーモーは軽く持ち上げた。
「ほらほら、馬鹿やってないで帰るモー」
「モーモーッ! お前、真剣勝負に水を差すとは、漢らしくないないないないないないぞっ!」
「なぁにが真剣勝負だよ」
モーモーはじたばたするミラクルの顔面に、デコピンを一発。
少々、沈黙したのだが、
「……ぐぬわあぁぁーっ!!! お花にデコピンするかー!? しない、普通しないー!!! 鬼だー!!! ひどいぃぃ!!!」
さらに喚き出すミラクル。周囲からは異口同音にて、しかし不協和音の溜息が漏れ出した。
それに何となく気まずい思いで、モーモーはミラクルを掴んだままくるりと向きを変えると、駆け足を始める。
「…よし、さっさと帰るかミラクル。ほらほら、みんなも帰るモー!」
「うおおおっ! 俺は姫様と一緒がいーっ! ひめさまあぁぁっ!」
呼びかけに、ライムはニコリと笑った。
「ええ、では帰りましょうか」
「じゃなくて、このごつい腕の中から助けてぇぇぇ」
されど悲鳴、届かず。
先を行く二人を笑いながら見て、リイムは周りに晴れ晴れとした顔で呼びかけた。
「さあ…みんな帰ろう、お城に!」
おわり
<つぶやき…>
「穴があったら、入りたい…」
実は今回…一番彼にしゃべらせたかった言葉(笑)。彼に関しては、まああとがきでたっぷりと。
「そうです…。…あろうことか私は、彼を愛してしまったのです…」
奥様的展開(謎)。だから私もはづかしー。
「さあ…みんな帰ろう、お城に!」
終わりなんてこんなもんでさあ。
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