斜陽の争乱


<2>

 明日にも地に落ちようしている、低空の天空魔城が後ろにある。そこから逃げる場所はない、いや、逃げる選択肢がない。既に腹は決めており、準備もできている。今さらそれについて考えることはなく、振り向いて眺める気にはならない。だから前だけを見て、ひび割れた大地の向こうをずっと追うが、一帯は強風に見舞われやすく、乾燥した赤茶の塵が吹き上がるため、視界が極端に悪かった。別に何かが見えるわけではない。さらに言えば、空もどこか嫌な色をしているため、地との境目はよく分からない。だがそれでも、遠くあればよいと、ずっと見続けていた。
 残り時間などないはずだが、体感としては長いと思った時に、黒いゴマ粒のような点が二つ見えた。
 ようやく、言葉が吐ける。
「戻ってきたようですね」
 落ちた砦から逃げ延びた兵に加え、城内の兵を連れ出した構成の最前列にいる。陣を構え、ただずっと待ち続けていたバンピーは、斥候として出していたコウモリの魔獣、バットマン二匹が、おそらく全力で戻ってくるのを確認し、ひとつ溜息を追加した。
「戻りが早いな。……もう近いか」
 少し離れた横手から、声が掛けられる。やはり、じっと前を見ながら待っていたスカッシュで、側までゆっくり歩いてきた。そして、何も言葉はなくブラックが加わり、同じ先を見ていると、ほどなくバットマンたちが苦しそうな様子で飛び込んできた。
「て……て、敵勢力、既にかなり接近しています!」
「敵数、五百は下らないかと……!」
 降りて羽をばたつかせるバットマンを見下ろし、バンピーは不満そうに言った。
「はあ……五百程度ですか。少ないですねえ……。天空魔城を落とす気はないかもしれませんが、我々を倒そうというにも、さすがにお粗末では……」
 それを聞いたスカッシュが、少しおかしそうに苦笑を含んだ。
「……お前ならどれだけ引き連れてくるつもりだ? こちらの戦力は百五十ほどだが」
「過大評価しているつもりはありませんが……九百くらい必要ではないですか? 所詮雑魚です。数で補うしかないのですから、三倍はいてもいいのでは」 
 その発言にスカッシュはさらに笑い、今まで会話に割り込むことがなく、反応を見せなかったブラックさえも、いかつい顔を複雑にゆがめた。
「……何言ってんだブモー」
「お前はこちらの戦力を数で計算していないのか。内訳はどうなっている?」
 相手の少し呆れた様子に、バンピーは悪びれることはなかったが、自嘲気味に笑った。
「別に難しく考えてはいませんよ。我々で、少なく見積もって五十ずつ。それで百五十です。合わせて三百ですかね。そうなると、向こうは倍もいないわけです」
「なるほど……」
 緊張の糸が切れたわけではなさそうだが、スカッシュはそれでも、心底おかしそうだった。ブラックは自分が含まれていることを知って、一瞬ぽかんとしたが、気に入らないと睨んでくる。
「けっ……。そこらの雑魚だろうが。百くらいぶっ飛ばすのは訳無いぜ」
「フム。結構、結構。まあ、強気な発言だったらいくらでもできます。すぐにあなたの実力がどの程度のものか、分かることでしょうよ」
 スカッシュの前だから、今まで自制してきたのだろう。しかし一度感情的になると、簡単に崩れ去るのだ。
 ミノタウロスは種族の傾向として、直情的だった。ブラックは特に分かりやすい性格のようで、売られた喧嘩は買わないとすまない性質だろう。すぐむきになって、言い返してくる。
「てめえも自分で言ったからには、最低で五十、片付けて見せるんだろうなァ?」
「もちろんそのつもりですよ。それができないなら、負けるしかないと思いませんか……?」
「フン! いけすかねえ奴だぜ。オレはてめえみてぇな小馬鹿にした態度の奴は嫌いなんだよ! 薄ぎたねぇツラにも露骨に下げやがって……。終わった後に、吠え面かかせてやるぜ、ブモー!」
 殴りたいのか拳を上げて、一線だけは越えず、険悪な顔を逸らす。
 口を挟まなかったスカッシュは、どちらかが手でも出さない限り、止めるつもりはないのだろう。もちろんバンピーは、端からブラックを相手にするつもりはない。
「酷い言われようですが、相手をして何の利益もありませんから、まあ許してあげますよ。それに、本当の敵は数に入れていませんから……」
 それで話を終わらせて、バンピーは逸れた話を元の流れに戻すため、再び視線を下げた。そして、声も上げることができず、肩を縮めて所在なく佇んでいるバットマンたちに尋ねる。
「敵の中に、頭目らしき姿が見えませんでしたか? 些細なことでもいいですか、気になったことがあれば言うように」
 じろりと、怯える相手を眺めると、バットマンたちは跳び上がるように一瞬震えたのち、背筋を正した。
「はっ、はは……。少なくとも目立つような姿は、我々の目では確認できませんでした……」
「ふうむ。近づいているはずなのに、我々もそれらしい存在は掴めませんからね……」
 敵の頭は、元魔王だという話なのだ。肉体的な力はともかく、相当の魔力を持っているに違いない。
 少なからず魔力の強い者は、視覚的にではなく感覚的に、その存在自体が目立つものだ。魔力の強さは、存在に比例している。どの程度か推し量ることも力量に左右されるが、相手がすさまじい魔力を秘めているとすれば、それは離れていても掴めるものだ。相変わらず後方で、不機嫌そうな魔力を放っているゲザガインなど、最たる例である。
「砦から落ち延びた兵も、分からなかったと言いますし……実はいなかったと、楽観的な考えではすみませんよね、やはり……」
「力を隠しているんだろう。そうでもなければ、向こうが手を回している間に、お前たち四魔将が何かしら気づくはずだ。……ゲザガインのように隠しもしないほうが、むしろ稀だろう」
 魔力が強いということは、少なからず存在をアピールしてしまうということ。そのままであればどこにいるか、筒抜けになってしまう危険があるわけだ。それは、実力を知らしめてしまうことにも繋がっている。自分より確実に弱い相手ならばいいが、そうでなければどうなるか。油断できない、敵ばかりな魔界のことである、時には騙すことも必要なのだ。よって、堂々と魔力をさらけ出している者は少なかった。程度の差はあるが、普段はそれなりに抑えこんでいるのが普通だ。気づかれないことを前提に何かを画策するのであれば、隠していたほうがうまくいくのは、言うまでもない。おそらく、それが今回に該当している。
 ついでに言えば、答えたスカッシュなど父親とは逆で、受け継いだ魔力は実に巧妙に隠してしまっている。意図がどうであれ、彼は無用の長物として、その力を使うことも稀だ。おかげで出奔してしまっても、誰も気づかない。困ったことに。
「そうなんでしょうねえ……」
 バンピーは横目で対象の人物を見て、溜息混じりにつぶやいた。流れで薄く笑ったままの表情も、このときばかりは涼しい顔に見えるものだ。
「さすがに直接見るか、いざ戦いとなれば分かると思いますが……それまで分からないというのも、嫌な気分になりますね……弱いだろうとは、思いませんがね」
「今分かったところで、変えようもない。……どのみち、魔界で雌雄を決するのは力と力の対決しかない。結局、できることは純粋にぶつかりあうだけだ。……ふさわしい戦いなんだろうさ」
 敵の軍勢が天空魔城に進路をとり、侵攻を開始した。それは誰の予測よりも早く起こったが、だからといって、彼らがやらなければならないことに変わりはなかった。そもそも、異変に気づいた時には、既に防衛一色になっていたのだ。その完全に傾いた流れを変えるためには、攻めて蹴散らし、実力の違いを見せつけておとなしくさせるしかない。しかし戦力が限られている以上、手当たり次第、しらみつぶしに攻めることはできない。そのためスカッシュの最初の意見は、まず反乱の扇動を企てた者を狙って、攻撃を仕掛けるものだった。
 つまりそれが、向こうから先にやってきたまでのこと。
 こうなればもはや、それを倒すまでである。
「反乱勢力の内実は、打倒ゲザガインではなく、どさくさに紛れることだからな……。この戦いで全てが決まる。それにもし、相手が親父の不機嫌な原因にも関わっているとすれば、それもこれで解決するかもしれない」
「ええ、一気に片付いて欲しいところですよ。天空魔城が再び上空に戻れば、我々が言いふらす必要もなく、ゲザガイン様の勝利と、ご健在であるのが知れることになる。そうなれば、残りなど蜘蛛の子を散らすように消えていくでしょうから……」
 反乱がどれだけ広がろうと、自分がゲザガインと戦いたいと思っている者など、ほとんどいないのである。掲げているのは、あくまでも建前。大半の狙いは、混乱を出しにして、自分たちの勢力を少しでも拡大させることにある。平時には目立ちやすい行動だが、周囲全てが同じであればどうだろう。しかも、恐ろしいゲザガインが動かないとなれば。少なくとも、その中で自分たちが狙われる可能性は減る。だから滅多にない機会、まさに、動くチャンスである。
 だが言い換えれば、そんな理由でしかないのだ。ゲザガインが無事だと分かれば、再び恐れてすぐにおとなしくなる。今騒いでいるのは、所詮そんな輩だ。僅かばかりの恐れを知らぬ愚か者が、調子付いたあげく、扇動者に連れられて、天空魔城を目指しているに過ぎない。
 よって、彼らは反乱勢力を恐れているわけではない。問題は、探る余裕もなかった、おそらく反乱を扇動した元魔王。ゲザガインを狙ってくるはずだが、所在が掴めていない相手。パンピーたちが天空魔城のすぐ側で待ち構えているのは、そのためだった。ゲザガインの近くにいれば、必ず遭遇することになる。
「しかし本当に急でした。こちらから打ってでて、せめて要害ぐらい押さえ、有利に運びたかったところですがね……。これで決着がついて、早く事が済むのは悪くありませんが……」
 とにかく決着がつくまでは、混乱も治まらない。現状では、時間が経過するほど自軍の士気に影響し、足並みも乱れるのだから、早く決まるとなれば悪い話ではないのだ。もちろん勝てればの、話であるが。
「もっとも、雑魚の集団ならともかく、元魔王相手では意味を成さないでしょうから、これ良かったのかもしれません。さっさと始まり、終わる……」
 バンピーは肩を竦めた。これほど極まった状況に今まで身を置いたことはなかったが、もうやれることが決まってしまった後には、一時の嫌でも自覚していた動揺はどこかに消えた。それは観念なのだろうが、そもそも悩む暇すらなかったことだ。
「ええ、さっさとね、終わらせたいですよ。ええ、終わらせて楽がしたいですよ、まったく……。こんなところで長時間埃まみれになるのは、私の本意ではありませんし」
 だからこそ、愚痴がでるのを自分で止めない。腹を割って言える相手も少なかった。スカッシュは呆れと笑い半々だが、嫌な顔はしない。差し迫った状況だから、話せることもある。こんな時くらいしか、まともな機会がないのも事実だった。
「お前くらいなものだ。ゲザガインの下にいて、楽ができるなどと言うのはな……」
「そうですかねぇ。……気性の激しい御方ですが、分かりやすくもありますから。大した不満はありませんよ。今までこうして、面倒が起こることもありませんでしたしね……」
 そこでたまたま、不安そうに見上げているバットマンたちが目に入って、バンピーは話を止める。思えば辛気臭く、縁起でもない会話になるのだろうと、苦笑が浮かんだ。どちらにも悲壮感などなかったが、これから決戦を迎えるとなれば、内容はそれに近いものと変わるだろう。傍目には、最期の思い出話のようにとられても、おかしくないのかもしれない。
「まあ、待つのが暇とはいえ、世間話はほどほどにしますか……」
 くつろぎすぎるのも悪影響かと、バンピーは再び下を見やった。
「ところで、敵について気づいたことは? 見てきたのだから、敵の構成も大体分かるでしょう」
 声を掛けられたバットマンたちは、怯える反応が甚だしかった。戦いを恐れているだけではないのだろう。早く下がれと言われるのを、ひたすら待っていたのだろうが、なかなかそう言われないため、縮こまることしかできないようだ。バンピーにとっては、どうでもよいことであるが。
「は、は……。特に偏りのある編制ではないと……。やはり寄せ集めのような顔ぶれで……」
「強いて言えば、我々のような飛べる者たちが、少し多いかと……」
 実際、寄せ集めなのだから、そんなものだろうと頷く。
「今も降下しているとはいえ、まだ天空魔城は浮いていますからね……。まさか、我々を崩す前に、突入するつもりがあるのか……?」
 空にある限り、天空魔城に入れる者は、飛べる者か『道』を知っている者だけ。襲われたことがあるのかバンピーは知らないが、極めて攻め難く、ゲザガインの存在を知らしめているだけではない難攻不落の城だ。そのため、守衛はさほど多く配備しておらず、現時点では全て連れ出しているため、中には一兵もいない。つまり、今なら飛べる者に対しては、やすやすと侵入を許してしまう。しかし城内に兵を残さなかったのは、スカッシュが不要だと言ったからだ。
「どちらかと言えば、先の砦を攻略するために多く連れてきたんだろう。もし向こうが、天空魔城に侵入できれば勝てると思っているなら、そうさせればいい」
 まず雑兵の中で、ゲザガインと直接戦いたいと思うものは皆無であろうこと。ゲザガインは四魔将ですら寄せ付けない、強力な魔力の中心にいること。そして、兵を集める前にスカッシュが言った言葉――魔王は守られる存在なのか?
「悪くはない。飛べる兵だけでも城に向かってくれるなら、数が減る分、早く片付く」
 諌めるつもりなどまったくなかったが、バンピーは口にしていた。
「それでは、ゲザガイン様が囮のようですが……」
 ゲザガインに対する不遜な揚言は、彼が息子だからできるというわけではない。ゲザガインは息子であろうと、容赦しない。だからバンピーも気にかけてきた。
「捉え方しだいだな。……お前も先ほど言っただろう。本当の敵は多くなく、むしろ一人だ。その元魔王が、城内の兵を気にしているとは思えない。……ゲザガインは何も言わず、勝手に一人でこもっている。向こうは勝手にやってくる」
 今度は向こうの愚痴である。スカッシュも悪びれない。うんざりした様子もある、皮肉ってもいる。言いたいことを言っている。しかし彼は、ゲザガインにまったく依存せず、阿ることもなく、己の意志のみでここに立っている。だからこそ、バンピーはにやりと苦笑した。
「……親父には自分の城くらい守らせろ。そうでなければ、お前たちもわりに合わないだろう。もしも落ちることになれば、黒魔龍もその程度ということだ。今まで反乱らしい反乱もなかったようだが、いざそれが起こったからと倒れる魔王など、高が知れている。俺には仕える意義があるとは思えないな」
 ――魔王は支配者であり、庇護が必要な者ではない。
 城内の兵をゼロにするとスカッシュが言ったときには、一瞬、バンピーは面食らった。城を無防備状態にする意味が、分からなかったからだ。しかし、直後に問われた。四魔将はなぜゲザガインの下につくのか。何に仕え、何をよすがとするのか。お前たちは何だ、と。そして、まさか忠義をつくすためではないだろうと、彼は笑った。
「そうですねえ……。我々は……抗えない魔界の掟に従い、強者に、その力に仕えるだけですよ。ゲザガイン様が絶対的な君主であると、魔王と思うからこそ従っているだけ。そうでなければ用はありません。……確かに、足下にも及ばない我々が手助けするなど、おかしな話。お怒りを買うでしょうね。我々はただ、ゲザガイン様の振るう力の一部であればいいのでしょう。敵をなぎ倒し、打ちのめす力であれば……」
 バンピーはそこまでつぶやいて、苦笑をさらに強めた。
「……おっと。スカッシュ様と話していると、ついつい余計なことまで言ってしまいますよ。まったく……もしゲザガイン様のお耳に入ろうものなら、機嫌次第では殺されかねません」
「そうだな。お前は少々しゃべりすぎだ」
「……そうですかねえ」
 お互い様のようなことをお互い笑って、話が終わった。
 そして、待ち構えていたように時が迫りくる。段階が進んだことを示す声。
「あと僅かだな……」
「来ますッ、来てます!」
 スカッシュがつぶやくと同時に、上からも聞こえてきた。それは空を飛ぶ翼、そこに長い首と尾。慌てながら降りてきたのは、陣の上空を飛び、旋回していたドラゴンだった。危うく潰されそうになったバットマンたちの側で、巨体をやや無様に着地させる。
「て、敵軍、空から確認しました……! ここから見えるのも、間もなくかと……」
「いよいよですか」
 バンピーはもはや、あれこれ言う気もなく、頷くだけだった。
「……では、どちらも下がりなさい。もたもたする時間はありません、すぐに出番となりますよ」
「「は、はイっ……!」」
 ドラゴンとバットマンは、裏返った声をあげると、解放されたとばかりに急ぐ。逃げ出すように後方へ下がり、ざわめきを強めた大勢に紛れる。
 それを一顧だにせず、バンピーは前を睨みながら、顔をしかめた。
 残るは数分程度だろう。敵軍が視認できるまで待つのが、残された時間だ。しかし距離にすればもう側であり、こちらが動くその時となっても、さほど違いはないと思われた。
「やはり、近づいたところでそれらしい気配は掴めないようですね……」
 嫌そうな声に反応してか、スカッシュがちらりと視線をくれる。
「……何が不満だ」
 言うべきかどうか一瞬迷ったが、バンピーは口にしていた。
「……盛り上がりに欠けるところ、ですかね。死闘を繰り広げる一大決戦のはずですが……いまだに向こうのボスは姿も実力も分かりませんから。この終盤にあって、ですよ」
 もしくだらないと言われれば、それまでなのだが、バンピーは気にしないで続けることにした。
 戦いはもう目前である。状況からすれば実にのんきな考えかもしれないが、今話さなければ勝敗に関わらず、その機会は失われるだろう。それにゲザガインが城にこもって以降、蟠り自体はいまだ胸に閊えている。思ったことはこの際、吐き出すように話してしまおうかと、そんな気分になっていた。
「些細なことかもしれませんが。……この戦い、力で決める魔界の姿であるようで、そうではない。そういう気持ちがあるのでしょうか」
「……向こうの思惑が気がかりか?」
 問いかけがあって、そう捉えられる言い方をしたのだと気づき、バンピーは否定した。
「いえ、器の小さな魔王だと思うだけですよ。ここまできて、堂々と出てこないとは……」
 おかしく思う。自分の気持ちが、だ。バンピーは自分の馬鹿な考えを笑い飛ばすつもりで言った。
「本音としては、力押しで正面からぶつかり合うなど、能がないとは思うのですがね」
 悪く言えば、単純なゲザガインと比較するのも馬鹿らしいのだが、ここにきて、妙な感情がどうにも治まらない。それも話を続けた要因だった。
「しかし確固たる……純然な力の前には、本来小細工など通用しないという気持ちもあります。……おかしなことですよ。どちらが優れているか有利か、決めることではないのですが」
 しかし、口にしてますます今の感情が分からなくなる。そんな溜息をバンピーはついた。
「まあ……そのおかげかどうか分かりませんが、負ける気も今のところありませんが。これは慢心からくるのか……。油断なのでしょうかねぇ」
 それに答えたのは、口元を歪め、不機嫌そうなブラックだった。
「てめえ……! 分かんねえのか? やり口が気に入らなくて、単純にイラついてるだけだろうが。何を小難しく考えてんだブモー。見てるこっちがイラつくんだよ……!」
 一瞬、溜飲が下がったところで、バンピーは堪えられず自嘲を漏らした。
「はあ、いらだっていると……。なるほど、それは近いのかもしれません」
 素直な感情を心裏の奥底まで沈めて、表層に浮かび上がったもやに引っかかりを覚えたのだろう。それは勘繰る癖がついているだけではなく、同じような深い底に、気丈に振る舞い、落ち着こうとする虚栄があるからかもしれない。押し込めておいて、気づかないほうがいいのだと。
「なんでそこでにやけやがる。こっちのほうがイラつくぜ……。もうそこまで来てやがるのに、どれだけ暢気な奴なんだ、てめえはよ! くだらねぇこと考える暇があるんなら、せめて敵をぶちのめす算段でもつけやがれ……!」
 率直に短気に、言葉のまま怒鳴るブラック。そんなことで怯むはずもないが、なんとも気持ち悪いことに、清々しいと思うほど気持ちが、気分が吹っ切れてしまうのを感じる。ようやく閊えたものを、気にしなくてすむような。
「すみませんねぇ……。気づかなかったのですが、肝心な部分が吹っ切れていなかったようです。私自身が、もっと単純にならなくては」
「単純だあ……!?」
「もう未練がましく考えずに、自分が馬鹿になって戦えということですよ」
 己に答えたところで、残り時間も切れた。
 睨んでいたブラックが一瞬で振り向き、後方からはざわめきが広がっていく。
 荒地を踏み抜く音、雄叫び、撒き上がる後塵。そして朧な景色の彼方に、押し寄せる軍勢が浮かび上がっている。
「さて、時間ですね」
 不思議と、待ちわびていたように弾んだ声がでる。その直後、普段と変わらない淡々とした声に呼ばれた。
「バンピー」
「はい」
 臨む気概や感懐が伝わってくることはなかった。ただの自然体で、彼は前だけを見ているようだった。張り詰めた様子、改まった雰囲気ではない。だからバンピーも、そちらを向くことはしなかった。
 前方に迫りくる狂欄の気。それを受け、こちらの後方で膨れ上がり、昂る戦意。個々は瞬く間に掻き消され、飲み込まれ、共に大きなうねりとなる。その流れを通り過ぎていくような、何気ないやり取りだった。
「倒れるなよ。お前がいかに不死者の身であっても、後が色々と面倒だからな」
「スカッシュ様こそ、御身を軽々しく擲つのは慎んでくださいよ。ひょっこり戻ってきてあっさりやられたなどという顛末では、実に滑稽な笑い話。聞くに堪えません」
「……肝に銘じておこう」
 返るとは思わなかった、言外の視線と薄笑みが側を掠めていく。だが見えた一瞬のうちに、付き従う黒い大きな影が多い尽くし、視界を完全に切り替えた。
 ――戦場へと。
 バンピーも前に出る。自分も、これ以上ない昂りだ。
「心するように。ここで好き放題やらなければ、もう後はありませんからね」
 そして吹き荒れる風すら巻き込んで、ひとつとなった咆哮が張り上がる。
 乾ききった大地が崩落するような轟音を響かせて、戦いがそこに始まった。


 
<3へ>

 
<ひかぬこびぬかえりみぬ>

というわけで、短い真ん中です。
話しかしとりません。
もう直すの面倒なんで、さっさとあげちゃうヨ。

スカとバンピーが仲良すぎてブラックは空気。
ブラックはスカといるときはほとんど話さないけど、スカは話しかけられると普通に話すし、バンピーはいつでもしゃべりたがりという脳内なので、この結果は仕方ないのかもしれぬ!!!
ブモーはバンピーのことあまり好きではありません。そりゃ(俺の)スカッシュ様に近づくんじゃねえ的な。
じゃなくて、基本的に嫌いなタイプなのですヨ。
はい次。

バンピーがスカ好きすぎすぎ……。
まあ、バンピーにとってスカは清涼剤のようなもので(苦笑)、ゲザとスカとバンピーとブモーくらいしかキャラでないので仕方なかろうよ!!!
ぶっちゃけ、スカのパパンはゲザじゃなくてバンピーなのれすよ……。
教育係ですよ、別に任命されたわけじゃないけど、なんか率先して勝手にやってる(苦笑)
構いそうなのバンピーしかいそうにないと思うんですよねえ。
バンピーは魔界キャラ中、かなりの世話焼きですよ。スカは嫌々めんどくせーめんどくせーと動くけど、バンピーは嬉々としてやってます。もー楽し!
ほら、四魔将で動いてるのって、バンピーくらいなもんですよ、きっと。
嬢は動かんしヒドラはただのマスコット?だし、デーモンは豪華な椅子座って笑って頬杖とかついちゃって、「むっは〜」とか言いながら四魔将の地位を満喫してるイメージしかないです。
スカはぷらぷらしてる遊び人です。ブモーはストーカーで馬鹿です。
とにかく、だから私の書くバンピーはスカに超甘いです。なんつうか、何もせずほっついてるだけの駄目息子でかわいいんでしょう……。これって母性のような気がしますが。……育て方間違ってるー!?
でもね、普通は何もせず、ぶらぶらしてるのが久々に顔出してきた時点で、何やっとんじゃゴルァ!ってヤクザキックが飛びますよ、そうでしょう!?
まあ「スカッシュ様の子供の頃はかわいかったなぁ」とか、「おしめ替えてさしあげましたっけー」とか言い出さないだけマシだと思ってください。
とりあえず2でも仲良しなのでいいじゃろう。



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