海賊ガンナー物語――勇敢なる海の男

「第1話    〜大輸送船団〜」


・・・・・・・レシフ海、午前2時・・・・・・・。
昼間とは違い、真っ暗な闇が辺りを包んでいた。
聞こえるのは波の音と、船が進むスクリュー音だけ。
「ブオォォォォォン」
と、船の汽笛が鳴った。
それは、海上よりももっと暗い・・・海中深くまで響いていた・・・。
「コォン・・・・コォン・・・・」
巨大な影が、船の後を付いていくように進んでいた・・・。
海の狼、潜水艦である。
「潜望鏡上げろ」
「グイィィィン」
船長と思われる男は、潜望鏡を覗いた。
「前方距離1200、今日の獲物だ・・・・」
「・・・・ピコォン、ピコォン」
「!!、後方よりスクリュー音2、高速で接近中!!」
「なにっ!!!」
男はあわてて潜望鏡を後ろに向ける。
そこには、水しぶきを上げて全速で向かってくる2隻の軍艦が見えた。
「くそっ!!駆逐艦だ!!、魚雷発射中止!!急速潜航!!!」
「バラスト開け!!!、急速潜航!!!」
副長が繰り返して伝えた。
潜水艦は一気に海中深くに潜っていく。
「現在深度50、敵艦は今真上です」
「機関停止、音を立てるな・・・・・」
一気に艦内が静かになる・・・・・。
「バッシャン・・・・バッシャァン・・・」
「着水音・・・・数5・・・・」
かすかに聞こえるような声で、ソナー員は言った。
「・・・ゴポポ・・・ゴポ・・・・・、・・・・・・・ドッカアアァァン!!!」
「ガッシャン、ギュイイィィイィィン」
真上で爆発が起こった、潜水艦の艦体が軋む。
「ドォンドォン、ドッカアアアァァァン」
「バキッ、ブシュウウゥゥゥ」
と、艦内のパイプが裂けてしまった。
「全力で修理しろ!!」
「爆雷まだまだ来ます!!!」
「面舵いっぱい!!!、機関全速!!!」
潜水艦は駆逐艦のま反対へと逃げ、海中深くその姿を消した・・・・。


・・・・・・・午前7時、リーヴ・・・・・・・・・。
天才的犯罪者ヴァントルが起こしたリーヴ博覧会事件から、早2年が経った。
街は前よりも活気付き、人口も増えた。
そして、現在も健在しているガンナーカフェでは、あの2人が朝食中であった。
もち、朝からでも大盛りスパゲティである。
「もぐもぐ、なぁシエル、昨日の依頼は簡単だったな」
「そうだね、空賊も数が少なかったし」
「でもつまんねぇよなぁ、あ〜あ、あのおっさんも姿見せないしなぁ」
「ヴァントルのこと?、もうあれで懲りたんじゃない」
シエルはそう言った。
たしかに、あれだけコテンパンにしてやったんだから、懲りてないはずはないだろう。
コパンはそう納得した。
「ん?、シエル、この記事読んでみろよ」
「どれどれ・・・」
コパンが、見ていた新聞をシエルに手渡した。
「え〜っと、海軍の駆逐艦が海賊を撃退・・・・・」
「これおもしろそうじゃないか?」
「コパン・・・・僕達、海の中に攻撃できる?」
「うっ・・・・それは・・・・・」
正論を言われ、コパンは黙り込んでしまった。
「ジリリリリリ、ジリリリリリ」
と、カフェの電話がやかましく鳴った。
シエルが受話器を取る。
「もしもし・・・・・・・・・」
シエルが真剣な表情になった・・・・・・・・・。


・・・・・・・・レシフ海、モロコシ島・・・・・・・。
リーヴの南にあるこの小さな無人島に、昨晩の海賊潜水艦の姿があった。
彼らの名は「明けの明星」、最近レシフ海に出没するようになった海賊である。
昼夜問わず海軍の輸送船を襲っては、物資を根こそぎ盗っていく。
そのため、アソシエやリーヴに向かう輸送船の被害が急増している。
ただ、死者もなく、物資といっても鉄屑や戦闘艇の余った部品などであり、
被害といってもそれほど気にするものではなかった。
だが海軍は、陸軍や空軍からの面目が丸つぶれとなっているため、
海賊退治に躍起になっているのである。
で、その結果、輸送船1隻に付き最低でも1隻の軍艦が護衛することになり、
昨晩の例がまさにそれ、彼らも予想してなかったのである。
「くっそ〜、まさか護衛がいたとはな・・・・・・」
「予想外でしたね」
海賊のリーダー、クロトは、砲撃手であるシャニと話していた。
「修理にはどのくらいかかる?」
クロトが、そのへんにいた整備士に言った。
「燃料タンクに亀裂が入ってます、それに艦体のダメージもひどい、
修理には徹夜しても3日はかかるかと・・・」
「海軍も本気か・・・、ま、しょうがないか・・・」
クロトは手に持っていたコーヒーを飲み干す。
「ジリリリリリ」
と、クロトのそばの無線電話が鳴った。
それは、海軍の無線を傍受するための電話だった。
「来たっ!!!」
「ピピッ、ピピピピピー」
「暗号を変えたな、でも無駄だ」
クロトは懐からメモ帳を取り出し、暗号に照らし合わせる。
「・・・・・!!!、こりゃあ大収穫だ!!!、みんな集まれ!!!」
クロトが、作業をしている仲間に叫んだ。
そして、数分後には全員が周り集まっていた。
「たった今海軍の通信を傍受した、奴らは一週間後に大規模な輸送作戦を計画している、
しかも、護衛には戦艦や巡洋艦、さらにはリーヴからガンナーも来る」
「リ、リーヴのガンナーっていやぁ・・・・」
「あ、ああ・・・・・あの2人だ」
彼らが不安になるのも道理。
シエルとコパンの実力は、2年前のリーヴ博覧会事件で世間に知れ渡っている。
それ故、いくら屈強な海賊でも震え上がるのである。
「海軍の奴ら・・・・本気になったな・・・・」
「ああ、よりにもよってガンナー、しかもあの2人に護衛を頼むなんて・・・・」
海賊達は次第に弱気になっていく・・・・・。
「ふ・・・・ふざけんじゃねぇぞおまえらぁ!!!」
クロトが怒鳴った。
情けない海賊の面々にイライラしていたのが、ついに爆発したのだ。
「いつもの自信満々なお前らはどこに行った?、大丈夫だ!!!、
この潜水艦とお前達がいれば、どんな強敵だろうと撃退できる!!!」
クロトの励ましの言葉に、皆感動した。
中には涙を流して男泣きするものもいた。
「船長万歳!!!、船長万歳!!!」
「さぁ、一週間はあっという間だ!!!、気合入れてけ!!!」
「「「オーーーーー!!!!」」」
海賊達は、さっきとは別人のように張り切っていた。


・・・・・・・・・ガンナーカフェ・・・・・・・・。
「まさか海軍から直々に依頼を受けるとは・・・・・・」
コパンがそう言った。
いままで2人は、警察や一般人の依頼で動いていた。
だが、軍隊から直々に依頼が来るということは初めてだったのだ。
「一週間後か・・・・・いろいろ準備しなくちゃね」
「そうだな・・・・・」
シエルとコパンは、そう言ってカフェに入っていった・・・・。


・・・・・・・一週間後・・・・・・・・。
一週間とは早いものだ・・・・・と、ほのぼのしつつ話を戻そう。
海軍の輸送船団は、現在リーヴ旧市街で燃料の補給をしている。
輸送船約30隻、停泊しているその姿は、まるで湖で休む渡り鳥の様である。
彼らが運んでいるのは鉄や銀、そして特殊鋼などであった。
彼らはこれをネージュまで運ぶ、そう、これは軍用機や軍艦の材料なのだ。
ネージュにはオルロジェ以外にもメーカーはたくさんあり、
軍用機や軍艦の製造を専門とするメーカーも存在するのだ。
つまり、今回の輸送は、軍にとっては最も重要なものなのだ。
そして、港より少し沖に停泊している数十隻の艦隊。
これが、この大輸送船団の護衛艦隊である。
新鋭の戦艦や巡洋艦、さらに駆逐艦も多数見える。
戦艦「ドンジョン」の艦橋で、男がコーヒーを飲んでいた。
「ったく・・・お偉いさんはなにを考えているのかねぇ・・・・」
この艦隊の指揮官であるマクロだった。
彼は、輸送船団の護衛とともに明けの明星の撃滅という任務も受けている。
そのため、彼の乗艦であるドンジョンには今回、爆雷とソナーが増設された。
だが、戦艦とは本来敵艦をその圧倒的な砲撃で撃破するものであり、
その設備は適切ではなかった。
そのために、今の彼は非常に不機嫌なのである。
「戦艦に爆雷とソナーって・・・ちゃんちゃらおかしいぜ、あ〜あ・・・」
軽く背伸びをすると、マクロはイスにどしっと腰掛ける。
「大寒巨砲主義はどこにいったんだ、ったく・・・・・」
その後数分間、マクロは愚痴っていた。
「大佐、リーヴから2人が到着しました」
「よし、ここに通してくれ」
艦橋に案内された2人とは、もちろんシエルとコパンである。
「ようこそ、私が指揮官のマクロだ、君達の話は聞いている」
「ありがとうございます」
シエルが一礼する。
「君達には今回護衛をしてもらう、もっとも注意すべき点が・・・・」
「明けの明星・・・だろ?」
コパンがマクロに問いかける。
「その通り、今回の輸送は海軍の威信と名誉挽回の作戦だ、
もし今回もやられるようなことがあったら・・・・・・」
「海軍の面目丸つぶれ、お偉いさんの首もあぶないってことか」
「その通りだ・・・・」
コパンの言ったことは的中、マクロの顔が下を向く。
「大丈夫です、僕たちが輸送船団を守ってみせます」
「ああ、俺達を見くびるなよ」
「おお、頼もしい、よろしく頼む」
改めてリーヴのガンナーの強さを感じ取ったマクロであった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・第2話へ・・・・・・・・・・。


<解説>

「駆逐艦」
砲と魚雷で武装した小型の軍艦。
その速力を生かしての一撃離脱戦法を得意とする。
爆雷も標準装備されているため、対潜攻撃に用いられる。


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