とんだパーティー 〜飛行機械博物館竣工祝賀会事件〜 | 4

「着いた!!!」
 張り付いた極度の緊張を一気に弾き飛ばす時。シエルは歓声でもあり雄叫びでもある大声で、まず一声を放った。
「よし!」
 どれだけ押さえ込んで殺してきたか。鼓動が爆発するのが聞こえる。寒さに凍みた身体が燃える熱さ。昇ってくる思い。溢れて、突き動かす。
 下方に望む――。アヴニールを乗せたオルディネールは、もはや自分の視界から消える位置ではない。その姿を逃がさない。
 シエルは息を吸い込んだ。
「――行くよ!」
 意志のままに下降開始。
 コパンとファムも左右にいる。彼らから上がったのは、歓声だった。
「おい、向こうの上空を見たか? うじゃうじゃときてるじゃねぇか! ヘヘヘッ、残りものじゃなくて安心したぜ!」
「これからって事ね……!」
 オルディネールとの距離が近づくにつれ、気分はなお昂る。極度の興奮状態であるのが自覚できるが、しかし思考は冴え渡っている。
 空賊の姿も鮮明になってくる。自分達の機体の十倍はあろう船が、見た目のバランスを気にせず、徹底的に武装している。その周囲を、数十の戦闘艇が従うように飛んでいた。
「空中戦艦もいるじゃない。数といい、大盤振舞ね」
 ファムの声は、半分感心していた。空中戦艦を所有している空賊はそういない。動かすとなれば目立つものであるし、小物が多い中だから、そこまでの規模を持たない空賊がほとんどだ。
 コパンは呆れるが。
「豪華客船は、下手すりゃ他の船の何十倍の値段だからな。総力出してでも欲しいんだろ。だが、こっちとしては……」
「数が多いほど落し甲斐があるんだけど、ね……」
 今は見ることのない互いの顔。しかし言葉が繋がるほど、一様に強い自信が表れている。
「全くだね」
 シエルが同意したところで、通信が入った。
『君達がリーヴのガンナーだな!? ネージュ市南部警察のグラーヴだ! 既に気づいているだろうが、空賊にも増援が現れた……! こちらは残念だが、迎え撃てるほど余力がない…出来る限りサポートに回る。頼む!』
 疲弊した声に、シエルは即答した。
「任せて下さい。すぐに片付けます」
『……。う、うむ…。よろしく頼む……』
 向こうで相手が一瞬絶句したのに気づいて、コパンは自然と、相棒に向かって笑いかけた。
「言う時は、ほんと言うやつだな。ま、俺達が来たからには、その通りだけどな!」
 それから毎度のコパンの豪語が始まろうとしたが、忙しなく再び通信機に呼ばれた。
 コールに邪魔されて、コパンは一瞬機嫌を損ねたが、
「ん? ははぁ…」
 察し、シエルが応答するより早く受話器を掴み、向こうが何か言う前にしゃべった。
「安心した。あんたの残りじゃなくて良かったぜ!」
 間に、苦笑が満ちる。
『いきなりそれとは随分だな』
 リヴァル。言葉と違って、特に気分を害した様子はない。
『増援がくるとは思わなかったから、我慢して落とさずにいたのだが、その必要もなかったようだ』
 向こうの顔もこちらの顔も見えるはずもないが、コパンは勝ち誇った顔を見せてやった。
「そいつはご苦労さん。だが、もう我慢する必要もないだろ。これからは俺達がやってやるよ。つまらないって言うなら、あんたはさっさと帰っていいぜ」
 聞き流す事が出来ず、ファムも受話器を取る。
「コパン、言いすぎよ」
「どうせ向こうはこれっぽちも気にしないんだ。これぐらい言ったって構わないさ」
 それも向こうに聞こえるように言ったので、再び苦笑が聞こえた。
『まぁ、せっかくでしゃばって出てきたのだからな。このまま帰るのもつまらん。もうしばらくは見ているつもりだ』
「――リヴァル」
 通信が切られる前に、シエルはすかさず告げた。
『なんだ? まだ何かあるのか』
「助かったよ」
 怪訝な声にひとつだけ。三人と一人の中で、ごく僅かな沈黙。
 リヴァルは何か考えたようだが、聞いてきた。
『……そう思うなら、どうする?』
「そうだね。……今度、勝負を受けてたつよ。この前は、返事もしていなかったしね」
 シエルがそうであるように、リヴァルもまた笑った。
『クククク…よかろう』
 そこにすかさずコパンが割り込むが。
「おいこら、そこ! 二人でなんか静かに盛り上がるなよ……って、切りやがった!」
 通信はあっさり切れてしまった。吹き出してしまった二人の中で、コパンはまた受話器を乱暴に置く。
 そんな三人だったが、ほどなくして目の色が変わる。
 敵は目前だ。
「……さあ、二人とも。ここからは勝負だよ!」
 シエルは機体のEXアクションの切り替えをオンにし、機銃とオプションウェポンのセーフティを解除した。
 準備も気概も十分。
「おう!」
「ええ!」
 敵の群れに接触する寸前、三機は三方に分かれた。

 シエルとコパンから離れ、まず、空中戦艦の様子を窺ったファムは気づいた。動きは、オルディネールの前に着くように速度を合わせている。
「…もしかして、引っ張るつもり?」
 何のための空中戦艦かと言えば、一番の役割はオルディネールの牽引か。たとえ高速船仕様であっても、あくまで荷物や人を運ぶ貨物船、客船の用途で設計されているのだから、戦闘艇のスピードとは比べようもない。すぐに追いつかれないよう、より速い空中戦艦の速度で逃げるつもりなのだろう。
「だろうね。でも、牽引するのが豪華客船だから、できるだけ傷つけないように調整してるんだよ」
 シエルもすぐに気づいたらしく、返答を返す。
「どの程度スピードがでるか分からないけど、最大速度はこっちより速いだろうね」
「させない…というところだけど、このままじゃ無理ね!」
 ファムは視線を空中戦艦から外す。
 周囲を巡られ、取り囲まれた気配は空中戦艦と共にやってきた戦闘艇。少人数に対するその数の多さから、機銃の攻撃が弾丸の雨となる。
「――っ」
 マシンの状態を考えて少し躊躇してしまったが、思い切り、機体を回転させるパワースライドで間一髪さけた。
「ファム、大丈夫!?」
「ふぅ。うん…思ったより、大丈夫みたい……」
 シエルの位置からは良く見えたため、ファムの身を案じる声が聞こえてきたが、彼女は我が身ではなく、違うことを考え、安心していた。
 判断の躊躇いのせいで軌道がズレたものの、機体に損傷はなく、パワースライドを行ったことによる異常もなさそうだ。
 目的地に向かって飛行するのと、戦闘中の飛行は違う。実際戦闘に入って機体が耐えられるものか、ついさっきまで心配だった。
 しかし、大丈夫という実感を得た。扱ってみると、自分の最新マシンであるブランシェほどではないが、このリュクスも扱いやすい機体であるのが分かった。
「行けるわね」
 つぶやいて、ファムは今までの無理を避けた飛行を止め、負荷の高いひねりを加える。
 突然動きが変わったものだから、ファムの後をつけていた空賊の動きが乱れる。機銃の攻撃も完全に外れた。
「よし!」
 空賊の攻撃は単純明快で、ガンサイトに入った相手に撃ち込むことしか知らない。しかしそれでも数の多さから、このままずっとさけ続けるのも限界がある。
「とりあえず、周りを落とすわね!」
 確実に。ターゲットを決める。まずは落とせるものを狙う。
 空賊のほうがスピードが上だが、手練ではない。ガンサイトに捉えるのは難しくなかった。見事に機銃の攻撃がエンジンにヒットし、まず一機。
「おっ。なんだ、ファムが一番かよ!」
 爆発を見つけたか、コパンが少し悔しそうに言った。自分が一番を取りたかったと聞こえた。
「さあ、私は次々行くわよ! コパンはどう?」
 落ちゆく戦闘艇を見届ける暇もなく、ファムはリュクスを大きく翻す。
 届く声にコパンは苦笑して、通信機の向こうから意識を周囲に戻した。
 空賊の動きは、たまに攻撃してくるが見定めているよう。彼にとってそれは、なめられているものと同じである。
「あぁ…! 遅いと思って見下してやがる。そんな連中には本来ローリングで突っ込んでやるところなんだが……」
 今コパンが乗っているヴィグルーという機体の特殊機能、EXアクションは、シュバリエのような機体を回転させて攻撃するローリングではない。
 違う機体でも、慣れてくるとどうしてもシュバリエの感覚になってしまいがちで、それも一緒に苦笑していたところだ。
「仕方ないから花火ミサイルだ。派手に打ち上げてやるぜ!」
 基本の攻撃である機銃以外に搭載した兵器で、広範囲を攻撃できる花火ミサイルを3ロック。戦闘艇三機の中心である機体に発射。――命中すると、花火が見られるオマケつき。
「ビンゴ!」
 夜空に鮮やかな色とりどりの火の粉が散った。
 そして数回花火が上がったのちに、さらにまた数回の花火が弾け散る。
 すぐにコパンはそれに気づいた。
「…んっ! チッ、シエルやったな!?」
 コパンは三機を落とした、追加の花火ミサイルを発射した相手を見つけた。
「最大ロックでも、花火ミサイルは一回じゃ落とせるまではいかないからね」
 涼しげな言葉を返して、シエルは飛び去る。
 花火ミサイルは効果範囲が広いが、威力は低め。見ていたシエルが、直後すかさず同じ花火ミサイルを撃ち込んだのだった。
 つまり、コパンからすればいいところを持っていかれたのである。
「そうかよ、今日のシエルは一段と抜け目が無いときたか……っと!?」
 予感で機首を下に傾け、空を滑りぬける。
「……火の玉?」
 赤い砲弾を見た気がして、それを思わず追うと、コパンの後方にいた警察の戦闘艇が赤く――炎を上げ、燃え上がっていた。警察官が慌ててパラシュートで脱出したのが見える。
「機体が燃える? さっきのは焼夷弾か? って、どっから…」
『……分からなかったのか? 空中戦艦からだ。牽引の準備に時間が掛かると思ったか、攻撃を開始したようだな』
 リヴァルに見られていたことに粟立って、コパンは通信機相手に噛み付いた。
「ぐ…悪趣味な奴だな! いちいち行動見てるほど暇なのかよ!? ……チッ、物騒なモン積みやがって!」
 言い返すのもそこそこに、二発目をパワースライドでさける。
 戦闘艇が炎上する激しさが目に付いたか、ファムが飛んできた。
「コパン大丈夫?」
 コパンは真顔ながら、笑みを浮かべた。
「あれはマズイ。あんなものもし、喰らったら……なぁ、ラルジュマンさんに泣かれちまうぜ?」
「……絶対そうね。穴が開く程度じゃすまないものね」
 ファムが苦笑で同意する。彼女に向かって親指を立ててから、コパンは空中戦艦へと向かった。
 前からは、空賊の戦闘艇が迫ってくる。
 普通ならそのまま攻撃するのだが。戦闘艇の翼の下――両翼にぶら下がっている何かが気になった。
「何を積んでるんだ?」
 形は円筒形のように見えるが、どうやら穴が幾つも開いていて、中に何かが入っているような――。
 その走った答えにぎょっとする。
「…って、ミサイルポッドかよ!?」
 叫ぶより早く、コパンは軌道を大きく変える。そのとたん、二基のポッドから黄色い、蜂を模したミサイルが七発ずつ発射された。
 リヴァルの声が届くものの、コパンは口上を聞くだけでいっぱいだった。
『七連装ミサイルポッド、WASPだな。形から蜂の巣と呼ばれている』
「「コパン!」」
 シエルとファムの声が重なる。
 出せるスピードを超えて飛ばすが、その後ろから蜂型ミサイルが追い上げてくる。
 明らか。――このままでは追着かれる。
 コパンは状況に焦るよりも、むしゃくしゃした。
 叫びたい。
「なんか俺……ついてないっ!」
『クク…日頃の行いではないのか?』
「――っっ! 好きなこと言うな!!!」
 聞こえた声で一気に熱が沸騰し、蒸発。叫び返してから、さらにスピードを上げる。
「見てろよ!」
 熱いからこそ、マグマを自分の型に流し込む。
 前に空中戦艦が迫っていた。ミサイルも迫っていた。
「よし、行くぜ!」
 コパンはターゲットを目指した。空中戦艦の上部ある、赤い砲台に狙いを定める。
 突き進むそのスピードと軌道に、ファムは思わず叫んだ。
「コパン! そのままじゃ……」
 ――ぶつかる。
 だが、彼女の心配よりも遥かに速い。ヴィグルーは砲台目掛けて、吸い込まれるように突進する。
 砲台がまるで驚いて振り向くように砲門を向けた。コパンはそれに笑い返した。
「すっかり忘れてたぜ。あるものは使わないとな!!!」
 ファムの口から悲鳴が出る寸前、直進していた機体が突然に思わぬ方向へ曲がる。
「あ…!」
「さすがだね、コパン」
 ファムはその時理解し、シエルは際どい判断に感心した。ヴィグルーという機体には、ターンブーストという急旋回を可能とする特殊機能があったのだ。
 すぐ後ろにまで迫っていたミサイルの群れは、曲がりきれるはずもなく、砲台にぶつかり爆発する。
 戦艦が揺れる。ダメージは結構なものだろう。
「成功! これが天才ガンナーコパンの実力だぜ!」
 コパンのガッツポーズに、ファムは話しかける。
「EXアクションね!」
「その通り。でも、これは天才の俺だから出来たんだぜ。…っと、ファムの後ろ、付いてるぜ」
 返しに指摘されて、ファムはちらりと後ろを見やる。先ほどから気づいてはいたが。
「二機ね…」
 こちらはスピードも速くない。ずっと執拗に後ろを取りたがっていたのを、ようやく取らせたのだ。
「ちょっと緊張してたから、私も忘れていたわ。数も少ないし、試してみるには十分ね」
 ここぞと、リュクスのEXアクションを発動させてみた。バックファイア――後方へ、機銃の攻撃を見舞う。
『っひゃぁあ!?』
 通信機から素っ頓狂な空賊の悲鳴が聞こえた。まさか攻撃を受けるとは思っていなかった悲鳴である。当たりも良かったらしく、後は驚いたまま、ろくに回避も出来なかった二機が落ちていく。
「これって分かっていれば結構使えそうね」
「上手いね! ファム」
 狙いのよさに声を掛けたシエルに、ファムも返した。
「シエルこそ。よく私たちを見ているけど、今一番落としてるでしょ」
 話している間にも、シエルが数機に向けて放った花火ミサイルが、夜空に大きく輝いている。
 さらには落ちていく戦闘艇の一機が、空中戦艦にぶつかって爆発した。
 それを頃合と見て、シエルは呼びかける。
「ファム、コパン! 空賊も取り乱してきたし、そろそろ一気に叩こう! 空中戦艦はまだ飛べるみたいだし、オルディネールを繋ぎ終えたみたいだ」
 対し、コパンは苦笑で聞いてみた。
「おいおい、さっきの、そのオルディネールに当ったらどうするつもりだったんだよ?」
「もちろん気をつけてやったよ。僕たちの機体も乗ってるしね」
 普通に返答。
「はぁ、やっぱり計算通りなのかよ。…やってくれるな!」
 軽い溜息の後に、コパンは前を横切った空賊の戦闘艇を素早く追いかけ、機銃で撃ち落し、そのままスピードを上げて行く。
「じゃあ、数も減ってきたし、でかいのに取り掛かるか!」
「分かったわ!」
 コパンもファムもシエルも、機首を空中戦艦へ。
「――攻めるよ!」
 この時だけはと、シエルも言われたレーヴのリミットを超え、飛ばす。
 ターゲットとして三機に狙われた事を察した空中戦艦は、格納していた機銃や砲台を次々と出してくる。
「連中、いま凄く焦ってるな。だが、いまさら出しても遅いんだよ!」
 コパンの声が聞こえる間に、シエルはさらにスピードを上げた。空中戦艦の上に舞い上がり、弾丸の中を上から下へ。ファムのリュクスを追い抜いて、小型の並んだ機銃を撃ちぬく。
「あっ。いいところをとられちゃったわね……」
 爆発が爆発を呼び、被害を縦横に広げた。
「まだまだだよ!」
 空中戦艦の底を越え、今度は下から上へ。襲いかかってくるのは、五機もの編隊。
 シエルは一時的にライトを消灯。上昇を開始するなり、中央の隊長機に、攻撃や飛行を阻害する猟犬ミサイルを発射した。コパンを襲ったミサイルポッドを封じ込め、もたついている間に花火ミサイルを3ロック。
「まず三機…」
 花火が上がると、既に何度も被弾している敵戦闘艇が落ちた。しかし、それは見やるものではない。花火の火花が鮮やかな間に次へと移り、ダメージが弱く落としきれなかった両端の二機を待ち伏せて、空中に僅か滞空できるEXアクション、スチームブレーキを行う。
 両者間には、先程の機銃の爆発による煙が流れていた。
「よし…」
 狙いは外れない。シエルは火花から飛び続けるままに逃げてくる空賊を、煙の向こうから、スチームブレーキ時のみ使える強化された機銃の攻撃、ヘビーバレットで撃ち落す。
 上を取り有利だった空賊だが、レーヴが再び動きだし位置が逆転する頃、戦闘艇はバラバラとなり、パラシュートで舞っていた。
『回る前から計っていたな。さすがだ』
 既に傍観者になっているリヴァル。シエルには位置が分かっている。
「余計なことだろうけど、そっちにも行ったよ」
『逃がしてやるつもりはない。私も一応、巻き込まれた口だからな。くだらんが落とすまでだ』
 我が身可愛さに、その場から逃げ出そうとする空賊の戦闘艇が、上空で舞っていたファントゥームの強襲に遭い、ヘビーバレットで撃ち抜かれた。
 シエルはごく小さくつぶやく。
「アルティザンの証明……。やっぱり、そうなのか……」
 ふいに考えが回りだす。以前、ラルジュマンに聞かされたとき、現れては消えた――アヴニールの兄弟機という未知の機体の姿が、今度は確かにファントゥームへ重なった。
 ヘビーバレットはアルティザン独自の技術であり、それが使えるということは、少なくともベースはアルティザン社製のガンナーマシンであることを裏打ちする。そして、リヴァルの機体はかなり改造されているのがシエルには目に見えて分かるのだが、普通は改造にも限度があり、何から何まで手を加えられるわけではない。
 元の面影も無い改造を施されてなお、バランスを崩さず飛び続けるのは、基本設計が優れた名機に他ならない。
『何か言ったか?』
「なんでも……」
「――ある!」
 と、突然コパンが割り込んだので、シエルが驚いた。
「コパン!?」
「いいから言わせろよ」
 コパンは通信の質の悪さを知っていてか、わざと険のある音声を送る。
「聞いてりゃあ…何が一応巻き込まれたクチだ。好きで突っ込んできたんだろ! あんたがでしゃばる必要がどこにあったって?」
 それに対する返答は、実に素だった。
『シエルがアヴニールを失って、私と戦えなくなるのは困る』
「な、なんだそりゃ……」
 呆れるよりも、意表を突かれるコパン。
 そこへ今度はファムが通信に割り込んできた。そして今度は、コパンを驚かせた。
「私がシエル以上に強くなったら、私と戦っていただけますか?」
「はあ?」
『それは、もちろんだ』
 即答で終わる。ファムはそれだけで何も言わない。シエルも何も言ってこない。
 コパンは残る空賊の戦闘艇を落としながら、リヴァルに向けて言った。
「……。少しでも怪しい素振りをしてみろ。俺が落としてやるからな!」
『ほう?』
「そうならなくても、あんたはいつか俺が落とす!」
『ククククク…。それは楽しみだな』
 通信が切れる。
「……これでフィニッシュだぜ、シエル、ファム!」
「分かってる。こっちはオルディネールを繋ぐ牽引機を破壊したよ。もう空賊に攻撃の手段はほとんどない。空中戦艦を落とせば僕らの勝ちだ!」
「じゃあ狙うは機関部ね!」
 三人は一路同じ場所を目指す。武装をことごとく破壊され、空中戦艦にもはや攻撃の手段はない。逃げ出す前に厚い鋼をレーヴのヘビーバレットで打ち砕かれ、三機の集中攻撃を受けた機関部はあえなく爆破。空中戦艦は夜の海へと落ちて行く。
 巻き込まれないように、三人はその場を離れながら喜んだ。
 ファムは声を弾ませる。
「やったわ! 一時はどうなることかと思ったけど、取り戻せて本当に良かった」
「ああ。この天才ガンナーコパンあっての戦果だな。マシンが変わっても惚れ惚れするような操縦テクニック! 俺ってやっぱり天才!」
「ほんと、良かったけど…でも、僕達の機体は無事かな? オルディネールの損傷は少ないみたいだけど」
 シエルはそわそわしている。それを二人に笑われた。
「シエルは、アヴニールを自分の目でしっかり確認しないとダメみたいね」
「もう逃げないから落ち着けって。……お、オルディネールに乗っていた連中も、みんな逃げだしてるぜ」
 オルディネールを見やれば、奪い乗っていた空賊が次々と、パラシュートを広げて落ちていく。
 それでシエルは思い出した。
「少し、戦闘艇が残っていたはずだけど……」
 周囲を見渡すと、やはりパラシュートで舞っている空賊が数人いた。
 鼻をフンと鳴らして、コパンが言う。
「あいつが片付けたみたいだな」
「もういないわね……」
 見える全面の空を確認するが、黒い機体の姿は既になかった。
 代わりに確認できたのは、三機ばかりの警察の戦闘艇と、遠くから近づいてくる光の群れ。
「あの光は……」
 つぶやきかけたとき、通信が入った。
『我々が呼んだ、ネージュ西部警察の部隊だ。戦闘はもう終わってしまったが、我々にはまだ仕事があるのでな』
 警察のグラーヴが、ようやくといった風に話しかけてきた。
『凄いな、君達は…。こちらは見ているだけだった。声をかける余裕もなかったよ』
 コパンがしっかりアピールする。
「俺達はリーヴで一番のガンナーだからな。当然さ!」
 向こうでも笑い声がした。
『ともあれ、協力感謝する。海に浮いている空賊の捕縛と、豪華客船オルディネールの移送は我々が責任を持って行おう。話では、君達も無理をして駆けつけてくれたそうだからな。後処理は任せたまえ』
 しかしシエルのそわそわは、まだ続いている。
「あの、オルディネールには僕達の機体が積まれているんです。できれば僕は、一緒に戻りたいんですけど……」
「心配性だなぁ…おまえ」
 コパンは笑うが、それ以上のことは言わず、また違う笑みを見せた。
「けど、それがいいかもな」
 それをファムに笑われる。
「コパンもやっぱり、シュバリエが心配なんじゃない」
「う。俺達だけで先に帰るより、オルディネールと一緒に戻ったほうが絵になるだろ! どうせ記者がうじゃうじゃ集まってるんだ。カッコよく決めないとな!」
「そうだね」
 言葉が早くなるコパンに、シエルも笑い返した。
「まぁ、自分のマシンだし、気にならないほうがおかしいしな……」
 それからぼそぼそとコパンがつぶやくと、ファムもシエルも言葉を止めたので、彼は慌てて話題を変えた。
「それにしても、今回はさすがに疲れちまったぜ。考えれば、パーティーの料理は食べ損ねたし、新調した服も汚れちまったし、終わってみれば身体は冷えてるし。散々だったな」
「まぁ、こんなこともあるよ」
 シエルが宥めるものの、コパンの愚痴は止まらない。
「あー! 残っている楽しみといえば取材だけだぜ、もう。それからすぐに帰らないといけないだろ、三日後仕事はいってるし。それに俺、明後日デートの約束があるんだよなぁ、もちろんリーヴで。オルディネールで戻るのは無理だから、高速飛行船の席を取らないと……」
 昂揚がいつもの調子に戻っていく瞬間だった。シエルもファムも、目が丸くなる。
「え? 依頼に備えてすぐ帰る予定にしてたけど、前日にデートの約束もしてたの? それなら、朝一番の席を取らないと厳しいんじゃあ……。取材受けるのは無理なんじゃない? そもそも、席に余裕があるかも分からないし……」
「いーや、取材は絶対受ける。もちろんデートにも間に合わせる! 天才の俺がなんとかする!」
 意気込みからして、本気だ。
 笑いが絶えることはない。
「ふふふ。忙しいわね」
「というわけで、グラーヴさん? 俺達も出来るだけ手伝うからさ、そっちも急いで欲しいんだけど」
『ん。う、うむ……? うむぅ……』
 返ったのは、困ったような苦しいような呻きだった。
 一際大きな笑い声が、通信機を通し、しばらく寒空の中で響き渡った。

 そして全てが片付き、シエルたちが博物館に戻ったのは深夜。その時間帯にも関わらず出迎えは盛り上がっていた。帰りを待っていたラルジュマンや社長達、パーティーの客人の他、新聞記者達が押しかけ、歓声とカメラのフラッシュが眩しい。
 熱烈な取材を受け、戻ってきた自分達の機体に飛びつき、まるでお祭りのような騒ぎは朝方まで続いた。
 ラルジュマンに手配してもらった高速飛行船の中で、彼らはくたくたの身体をようやく休めたのである。


 事件の夜から二日経った朝。シエルが普段どおりにアヴニールの整備を始め、近くのテーブルについてデートの時間を待っているコパン、コーヒーを飲んで彼らの話を聞いているファムの元に、ひょっこりと客人がやってきた。
「あっ。ラルジュマンさん、セルヴィスさん! あれ、じいちゃんも?」
「ついでにな、連れてきてもらったんじゃよ。もうわしはほとんど隠居じゃからの、少しぐらいは滞在できる」
 にこにことする顔触れには、アルティザン社の会長も混じっていた。
 シエルは整備を中断してアヴニールの側から離れ、客人達に駆け寄る。
 コパンも立ち上がりながら、挨拶を兼ねて尋ねた。
「今日は、上から降ってきてなさそうだな」
「ええ。外装が痛んだため、オルディネールは修理に出しておりますので。今回リーヴへは定期便で参りました」
 セルヴィスが律儀に返すので、ファムは近づきながら笑ってしまった。
「本日のご用件はなんですか?」
 ラルジュマンは手持ちのカバンから一葉を取り出して広げる。
「アヴニールのレプリカ作成の承諾書にサインをいただきたくて。アルティザン社のほうは既にいただいておりますので、後はシエルさんの了承として、サインを隣に記入してもらおうと」
「おぉ。そういえばそんな話しだったよな」
 事件のおかげで忘れかけていたコパンは、承諾書を覗き込んだ。
「忘れてもらっては困りますよ。ハハハッ」
 ラルジュマンは笑ったが、疲れた表情も見せた。
「まぁ、皆さん大変な災難でしたが……。シエルさん達のご活躍で、なんとか事なきをえましたな。こちらも助かりました。旧式のマシンも無事でしたし……」
 その言葉に、少しだけ罰が悪いシエルだ。
「僕たちが乗った機体は、不調はでませんでしたか? レーヴにはちょっと、無理もさせてしまったんですけど……」
 嬉しそうに答えたのは会長だ。
「大丈夫じゃよ。後でまた点検したからの。それより、ずいぶんと調子が良いから、あの三機も博物館のアトラクションでまだまだ飛ばすことになったそうじゃぞ」
「本当!?」
 今度はラルジュマンも嬉しそうだ。
「ええ、そうなんですよ。旧式のガンナーマシンのファンもいますし、活躍してもらうことになりましたよ、あの後で」
「そうか、良かったじゃん。俺たちが乗って、さらに箔が付いたってところだよな」
 何でも得意になるコパンに、シエルは苦笑する。
「うーん、そうだといいね……」
 そうこう笑い話をしている途中で、エンジンの音。シエル達は特に聞きなれているので分かるが、複座の飛行艇、飛行タクシーのそれだ。
「おやおや、我々以外の客人のようじゃの」
 カフェで音が小さくなったから確実だ。
「今日はお客様が多いわね……」
 ネージュからやってきたファムも、今はすっかりカフェの状況が分かっている。
 シエルも頷いた。
「事件じゃなきゃいいけどね」
 ガンナーカフェは閑古鳥が鳴いているわけではないが、満員御礼ということもなく、普段はのどかなものである。リーヴ新市街から海を隔てた場所に位置するから、新市街の空港で降りた観光目当ての客がそうそう来るでもない。また、来たとしても観光の一環として船舶の水上バスや水上タクシーに乗り込むことが多いから、自家用ではなくわざわざ飛行タクシーでやってくる人物は、シエル達に用事がある事が多いのだ。
 誰が何の目的で来たのか? それを探るために、シエル達はしばし会話を止めて待つ。
「カフェの宿泊客か……」
 待っても彼らを呼び出す電話は鳴らず、直接やって来るにしても少々遅いと思われたので、コパンはそう判断しかけたのだが。
「げ」
 言った端に現れた人物を見て、半歩後退った。
 驚く目を気にもせず、ゆっくりと歩み寄ってくる人物に、コパンはやはり呻く。
「またあんたか……!」
 銀髪の貴公子は薄い笑みで応える。
 口を思わずぱっくりと開けていたラルジュマンが、いかにも珍しいとつぶやく。
「リヴァル公とこんなところでお会いするとは……」
「私もラルジュマン殿とお会いするとは思いませんでしたよ。用事があって、リーヴに宿泊することになりましてね」
 リヴァルは問われる前に話した。
 それを聞いたコパンは、表情をさらに歪める。ぞわぞわと背筋を走る予感が、彼をさらに半歩下がらせた。
「宿泊って、まさか……」
「思い出してこちらに来てみた。予約はしていなかったが、空室があって良かった」
 澄ました答えは思ったとおりで、コパンは今度前に出た。
「嫌がらせかよ!」
 同時に、シエルとファムが酷く驚いた。
「リヴァルが!?」
「ガンナーカフェに宿泊されるんですか!?」
 取り巻く反応が面白いのか、リヴァルは微苦笑する。
「今夜一泊だけだ。しばらくしたらまた市街へと戻るから、ほんの素泊まりだな。朝は早々にチェックアウトする」
 それに対する言葉はもうない。シエル達三人の他、ラルジュマン達も唖然としている。
 だから、リヴァルから話した。
「先日の話だ……と言いたいところだが。残念ながら私も忙しい身でね。また今度だな」
 誰に言っているのか、何のことかも分からないラルジュマンだけが尋ね返す。
「はぁ…? あ、シエルさん達に御用なのですか?」
「いえ、ここにはただ顔を見に寄っただけで、特に用事はありませんよ。ラルジュマン殿こそ、シエル達に用事があってリーヴへ来られたのでは? あなたも忙しい身であることは分かっています。私の事は気にせず、用件を済ませると良いでしょう」
 返されて、ラルジュマンは少し焦り、緊張した。
「そ、そうです! あまり時間はありませんが……」
「予定を変更しても、あと三十分でございます。長くはお話できないでしょう」
 すかさずセルヴィスが時計をチェックした。
 ラルジュマンはリヴァルの視線を気にしながら、承諾書をテーブルに置いて、カバンからペンを取り出す。
「では、リヴァル公もああおっしゃいますし……とりあえずシエルさん、内容を確認して記名をしていただけますかな?」
「分かりました。見せてもらえますか」
 シエルも、視線をラルジュマンほどではないが気にして、承諾書を確認し始めた。
「えーと。その……これは、シエルさんのガンナーマシン、アヴニールのレプリカ製造承諾書です。そろそろ製造に取り掛かって、開館の時にはさっそく展示したいと思いまして……」
 リヴァルが気になって仕方が無いラルジュマンは、尋ねられてもいないのに説明する。
「アヴニールの……」
「はい。名機と言われておりますから。かなり古い機体ですが、まだまだ第一線の現役で活躍できるとはなんと素晴らしい……」
「本当に、アヴニールは傑作じゃ。受け継ぐ相手もシエルで良かったわい。これが、たとえばどこの誰かも知れぬ相手に渡ってしまえば、今でも問題なく動く保証はないからの」
 語りだすことでクセが出てきたか、緊張の色がなくなってきた。それに、アルティザンの会長も加わったものだから、熱が急に上昇した。
「あ〜あ……」
 コパンが肩を竦めて、さらに数分。
「……えぇ、シエルさんがどれだけ大事に思っているかは分かります! 本当に、空賊などに奪われなくて良かった! あぁ、良かった!」
 このまま嬉しさと高まった感情で泣いてしまいそうなラルジュマンに、シエルは承諾書を差し出した。
「あ、ありがとうございます……。承諾書、書きましたから」
「確かに……!」
 ラルジュマンはシエルのサインを確認して、がしっとシエルの手を掴んだ。
「ありがとうございます!」
「い、いえ。どういたしまして……」
 シエルは少し身を引いた。目頭が熱そうなラルジュマンは、カバンに承諾書をしまいこみ、
「はぁ。これでアヴニールの兄弟機も一緒に展示できれば、もう最高なのですが……」
 小さな囁きが、リヴァルの耳にも届いたようだった。
「アヴニールの兄弟機、か」
 こちらも小さな反芻だったが、まだまだ話し足りないラルジュマンは、また説明をしだした。唸りながら、顰めながら、溜息をつきながらも。
「ええ。あったらしい…いや、あるのですが、どこにいってしまったのか全く謎の機体でして。なぜか、アルティザン社にすら製造に関する資料や記録などが残っていないのです。アヴニールの資料の一行に、同時期に造られた機体があるという一文があっただけで……。その当時アヴニールを造り上げた方々も、今では会長ただお一人でして、ご存知ないとのこと。しかしおそらく、アヴニールに勝るとも劣らない名機に違いありません。……もう、どんな情報でも構いません! リヴァル公は、何かご存知ではありませんか?」
「――ぁーあー!」
 リヴァルに振るラルジュマンへと、シエルは思わず身を乗り出していた。
「? シエルさんどうかされましたか?」
 シエルへと振り向いたラルジュマンの向こう側では、リヴァルが実に小さな笑みを浮かべる。
「えーと……。なんでもないです……」
「はぁ…?」
 訝しがるラルジュマン。思わずの事だったので、言葉に詰まったシエルの間に、助け舟が入った。
 会長は頭を振る。
「まあ諦めなされ。行方は誰も知らん。記録がごっそりと無くなったことはあるかもしれんが、ここまで綺麗に情報がないとすれば、元々違う場所で個人的に造っていたのかも知れんからの」
 ラルジュマンの反応は、がっくりと肩を落とす。
「……そうですな。はぁ」
 それでも、次には苦笑を見せる。
「まあ、見つからないつもりで気長に情報を探すことにしますよ」
 それから姿勢を正した。
「では…シエルさん達には本当にお世話になりました。こうして協力していただいたばかりか、オルディネールも取り戻していただきましたからな。ご迷惑もお掛けしました」
 返事はまっさきに、自慢そうなコパンが返した。
「まぁ、俺達の実力があってのことだからな! ラルジュマンさんは運が良かったぜ。慣れてないマシン、時間がない、スピードは出せない、数は多いときて、さらに空中戦艦まででてくるとなると、並のガンナーじゃあ持っていかれるのがオチってもんだからな」
「ハハハ、そうですな。あれから色々とご活躍は聞きましたからな。しかし、そういえばあなた方以外のガンナーが先にいたという話なのですが、本当ですか? しかもとんでもないスゴ腕だとか……」
「えっ、と…!」
 方向が戻ったのでシエルはまた反応してしまった。
 少々顔に出やすいタイプであるが、この事に関しては、しらばくれるのはコパンが上手かった。
 それは分かるものからすれば、全く嫌そうな笑みであるが。
「そうだなぁ、なんかいたかもしれないが、俺は覚えてないぜ? ガンナーだったらみんなお友達ってわけじゃないしな。面識のない相手が闇夜の中で飛んでるんじゃあ分からないって」
「うん、確かに暗かったから、慣れた夜目でも良く確認するのは難しかったわね……」
 そっと、嘘ではない事をファムも添えた。
 それから三人はラルジュマンをこっそり、ちらりと窺ったが、どうやら不審には見られなかったらしい。
「そうですか。いえ、どこのガンナーかと思いましてね。警察で流れた話しでは、ネージュに登録されたガンナーではないということで、無登録のガンナーではないかと」
「まぁ……そんな変わり者も世の中いるだろうな」
 ラルジュマンの後ろで、静かな苦笑を止めないリヴァルを睨んで、コパンはさらりと言った。
 既に興味を見せないラルジュマンは、ハハハと笑って流し、時計を見やった。
「ふむ…では、バタバタとならないうちに、私はこのぐらいで帰らせていただきますか。水上バスがもうくるはずですし」
「おっ! もうそんな時間か。俺も待ってたんだよな」
 それはラルジュマンだけではなく、コパンも待っていたものだった。
「? 何か待っていたの? ただ、デートの時間まで待っているんだと思ってたけど」
 尋ねるファムに、コパンはにやりとして見せる。
「新聞さ、新聞」
「新聞? って、今朝読んだんじゃあ?」
 首を捻るシエル。今朝食事の前に、思いっきり新聞を広げたコパンの姿を目撃しているのだから。
 さらに問われて、コパンはさらに嬉しそうだった。
「新聞って言っても、普段読んでるリーヴのじゃなくて、ネージュのさ! 頼んでおいたんだ。俺達の活躍がきっとでかでかと載ってるはずだからな!」
 客と荷物を運ぶ船の水上バスには、ガンナーカフェで消費される食料や大きな荷物の輸送も頼んでいるので仲が良く、注文すれば色々と融通を利かせてくれる。
「それを持ってデートに行こうかと思ってるのさ」
 ファムは思わず苦笑した。
「なるほどね……」
 コパンはつまり、自分が活躍した記事を見せて、彼女に自慢とアピールをするつもりなのである。
 周囲が彼の思惑に気づいたところで、水上バスの船員である青年が、走ってやってきた。
「コパンさーん! 例のもの持ってきましたよ! おや、みなさんお集まりですか」
「待ってたぜ! 早く見せてくれよ!」
 はいはい、とテーブルに置かれた新聞は三部。同じものではなくて、新聞社が違うようだ。
 コパンは早速大きく広げて、確認し始める。めくってめくって、
「……」
 無言で違う新聞を取った。先ほどより早くめくり、
「な……」
 うめいて最後の新聞を取る。
 周囲は不思議な顔をして、それを見守っていたが、焦るようにめくっていた手が震えると新聞が唐突に閉じられ、コパンが顔を突き出して叫んだ。
「う、嘘だろ!? 俺達が全然まともに写ってねえ!!! リーヴのガンナーがわざわざネージュで旧式のマシンに乗ってピンチを救ったってのに!」
「そ、そうなの……?」
 あまりのショックらしく、コパンのふらふらと混乱した様子に驚くしかないシエルだったが、投げ出された新聞を自らも確認してみた。
「どれどれ?」
「私も興味がありますな。昨日今日は忙しくて、新聞はまともに確認していないのですよ」
 ラルジュマン、そしてファムも会長も覗き込んでくる。
「この新聞の一面は……」
 一通り目を通し、そして気づいた。
 まず、新聞に記事が載っていないわけではないのだ。むしろ、大都会であり事件が多いネージュで、かなり取り上げられているほうではないか。それは間違いない。……のだが。
「飾ってるのは、じぃちゃんや、社長さん達だね…これ」
「なんだか照れるのう…。若い頃は多少顔もでたが、こんなに大きく載ったのははじめてじゃ」
 大きな写真はなんと、アソシエ社とオルロジェ社の社長、そしてアルティザンの会長という顔触れだった。
 衝撃を隠せないままのコパンを前にしているので、なんとも言えない表情で小さく、ラルジュマンは言った。
「これってつまり、シチュエーション的に珍しかったからでしょうなぁ……」
「確かに、ガンナーが困難を乗り越えて危機を救うより、有名なガンナーマシンを製造する会社の社長達が、自ら手を汚してマシンを整備したって事のほうが珍しいですよね……」
 溜息をつくファム。
 日頃から活躍して紙面を賑わせるガンナーが、また活躍して手柄を立てたことよりも――既に会社経営で忙しく現場を完全に退いたはずの社長達が、苦労してガンナーマシンを整備し、ガンナーを送り出した事実のほうが、世間では珍しく驚くといえば驚く結果なのである。
 ちなみに、三人は端の下のほうに小さめの顔写真が出ていた。加えて少し、三人が乗った三機の写真の方が大きい。
「じゃあ、こっちの新聞は……」
 別の新聞を確認すると、これは凱旋もとい、シエル達がオルディネールや警察の飛行艇部隊と博物館に戻ってきた時の写真で、全体を写しているものだから、個々の姿は小さいもの。さらにネージュ南部警察の飛行艇部隊を率いていた警部補の、グラーヴの会見が記事の半分を占め、彼が初めて見たという、イレギュラーのガンナーのことも少し載っていたりした。
「……こっちも、似たようなものだね。ガンナーが活躍する話は、確かに世間ではありふれているわけだから、違う方向で載せたってわけだね……」
「う、う……。思いっきり彼女に自慢するつもりだったのに……もう言ってあるんだぜ!? 見せるから、楽しみにしててくれよなって……!」
 そう言われても、救いようがなかった。このまま前に倒れそうな様相を見ていると痛ましい。
 新聞を持ってきた青年など、非常に体裁が悪く困って何も言い出せない様子だ。
 同情する顔で、ファムは優しく声をかけるのみだった。
「仕方ないじゃない。そんなに目立っているわけじゃないけど……私達が危機を救ったガンナーであることは書いてあるんだし、これは紛れもなく私達が関わった事件の記事だもの。コパンが頑張ったことも事実なんだから、自慢してもいいと思うわよ。ほら、ネージュでリーヴのガンナーが活躍ってあるし、写真だってないわけじゃないし」
「うっ……」
 全く納得できずの顔。彼にとっては、まず派手に大きく目立たないといけないのだろう。
 雰囲気が雰囲気なだけに、動けないと周囲が思ってコパンを見ていたところ、救いが差し伸べられたように、電話のベルがけたたましく鳴った。
 シエルは急いで駆け寄り、壁掛けの電話の受話器を上げた。
「はい、もしもし? …………えっ!?」
 困って様子を滲ませていたシエルの表情が、とたんに厳しく変わる。
「新手の空賊ですか!? 旧市街……わかりました、すぐ出ます! 詳しくは向かいながら伺いますから!」
 受話器を置いて、シエルは浮かべてあるアヴニールに走った。それをコパンとファムが、言葉で追いかける。
「なんだよ、出撃要請かよ! こんな時に……」
「空いているから、私も出るわ!」
 ファムも浮かべてある自らのガンナーマシン、ブランシェへと駆け出した。
 空気が颯爽とした風となって流れ始める時。
 応援の声も上がった。
「また忙しくなってきましたな。今日は自分達のガンナーマシンですから、思う存分活躍して下さいよ!」
「がんばってくるんじゃぞ!」
「空賊なんて、いつも通り蹴散らして下さい! しかし俺、皆さんが出撃するところ目の前で見たかったんですよ! やぁ、感激だなぁ!」
 周囲も高まってくる。手を挙げ、拳を固めて送り出そうとする。
「……。え〜い! 俺も出るっ!」
 そして暫し停まっていたコパンも、シュバリエに向かって駆け出し、勢いよく乗り込んだ。
 イグニッションガンを取り出し、構えたシエルが問う。
「…デートはいいの?」
「飛びながら謝る。ガンナーなんだから、こういう急な事もあるって。きっと許してくれるさ!」
 隣でやはりイグニッションガンを構えたファムが、ちょっと意地悪く笑った。
「それだけ? 実はどさくさに紛れて、今回の新聞の事を流そうと思ってない?」
「うっ……。そんなことないない! ないって!」
 慌て振りが苦しい、コパン。
 つかの間の笑いに挟まれ、突付かれた後、彼もイグニッションガンを構えた。そこで後ろから、声が掛かる。
 期待する顔がそこに揃っていた。しかし最期に声を掛けたただひとりは、静かな口元の笑みをシエルに向けている。
「結果は分かりきっているが、期待しているぞ」
「もちろん、負けないよ」
 その二人の間に、振り向く事もしないコパンが言い放った。
「言われなくてもな。忙しいあんたは、後で俺達の活躍を聞いて驚いてろ」
 それは数人の顔色を少し可笑しそうに変えたが、すぐに戻る。ぴたりと、笑いが止んだ瞬間。
「……じゃあ、行こうか!」
 手慣れた手つきで、シエルがキーをアヴニールに差し込む。ファムもコパンも、ブランシェに、シュバリエに差し込む。
「飛ばすわよ!」
「今日も派手にやるぜ!」
 トリガを引き、エンジンオン。いつでも飛べる状態の機体は、絶好調である唸りと振動を持って主たちを迎えた。
「違うマシンでも天才ガンナーは務まるが、やっぱり出るときはシュバリエだな!」
「違う機体に乗ったせいかしら。こうして出ると思えば、不思議と久しぶりに乗ったような感じ。でも、これがしっくりくるのよね」
 自分達の機体に乗ると、改めて喜びと実感が湧き出してくる。初めて乗った時を思い出したような懐かしさがあるが、伝わる手ごたえは全て自らの一部となる。
「異常なし。いつものアヴニールだ……」
 応えるために、操縦桿を取る。
 飛び立つ時を待っていた機体が、いよいよ頼もしい咆哮を上げた。
「アヴニール……みんな…出るよ!」
 颯爽とした風に乗って、海面を走り、空を目指す。
 こうして、白い飛沫を上げた赤、青、白の三機は、今日もまた大空へと飛び立った。


おわり


<あとがき>

まああれです。今回の反省点はリヴァルさんが良い人過ぎたのと、シエルな話で考えていたのに、結局コパン目立ちまくっていてシエルなんかいまいちで、ファムちょい出番なさすぎかも、やっぱり戦闘はしょぼいし落ちはコパンかよギャーな。
読み返すとぐはー!な、胡散臭さが要所要所にちらばっていますが、気にしてはいけません……。
とにかく、こんなもんでも最後まで読んでいただけたら嬉しいですはい。
昔からお越しの方、いらっしゃったら遅れまくってすみません……。

で、一応これも今までと同じやり方で終わらせていただきますです。
最後なんで、あんまりないけど……。

「そうだね。……今度、勝負を受けてたつよ。この前は、返事もしていなかったしね」
シエルの言うこの前は…14年の11月……っ。自分で書いて泣けそう。

ターンブースト
お約束のような機能でありきたりなことしかできない自分が可愛くない(涙)

「これって分かっていれば結構使えそうね」
いや、卑怯です(苦笑)。しかしこれも、つまらん出し方だった。
分かっていて直せるかといえば、それは未熟ゆえできない……。

『シエルがアヴニールを失って、私と戦えなくなるのは困る』
こんなこと本当に言い出しそうではあると思う……お方。

「嫌がらせかよ!」
半分は嫌がらせかも。

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