ライナーク王国
<1>
ライナーク王城の廊下を、三人の男女が話しながら歩いていた。一人は砂色のマント、白い鎧を着込み腰に帯剣している若い男の騎士だが、その姿はやや小柄で、やわらかな眼差しや顔立ちから、どこかにまだ幼さが現われそうな印象がある。
隣にいって、左右から挟まれる形で中央にいるのは、ひときわ体格のよい大男。しかし彼は、人間とは異なる姿の魔物――頭部に牛のそれがある、怪力の持ち主ミノタウロスだった。上半身は裸であり、白黒ブチの、鍛え上げられた身体がよく分かる。
そして残る三人目といえば、杖を手に持ち法衣を纏う、宮廷僧侶の娘。大きな瞳が明るく、利発そうな輝きを見せる。肩までの髪に、額から後頭部繋ぎで、大きいリボンをしている。
彼等の歩くスローテンポな足取りは一様で、そこまでだらだらとしているわけでもないが、きびきびとしているわけでもなかった。そうしたところで、まだ狭くなることもない広い廊下を横一列で進行し、互いの話しを聞いては頷いている。それもまた、はきはきとしたものではない。
騎士が肩を軽く竦めた。
「…今回の遺跡も結局、歴史的に価値のありそうな物はなかったらしいよ。報告書にざらっと目を通したけど、内部はずいぶん昔に盗掘されていて、ほぼ空っぽ状態。かろうじて見つけたのは土器らしい破片だけど、それだけでは現行での解明は難しく、成果はほとんど上げられなかったってさ。最後に書いてあったよ…今後、究明が進むことに期待する。この文句を見るの…何回目だと思う?」
ややくたびれたと、言葉に見つけられないこともない。それよりは、首を落とす仕草が明らかに事実を明瞭としているが。
「はあぁ…いくらでも遺跡を見つけてきちゃあ、いくらでもガラクタ掘りおこしてよ…ついでにいくらでも魔物を叩き起こしてくれんだよなぁ、あのじいさんは…」
騎士より僅差で肩を落とし、ぼやくように言ったのはミノタウロスだった。元の顔つき自体は厳めしいのだが、彼の表情は実に変化に富んでおり、よくゆがめど、よく笑う。…ただし今は、いかにも疲れたといわんばかりの顔が、全面的に押し出されている。
そして――その隣でも、同じようなものがあるわけだ。
「それでもめげずに次へチャレンジするあたり、頑張ってるって、言えばいいのかしら…」
僧侶の顔は、かなり沈痛の面持ちだった。笑顔の似合う彼女なのだが、今は口から、大きな溜息ばかりが吐き出される。
「まあ、良く言えばね…」
呼応するかのように溜息を吐いた騎士。肩を竦めるミノタウロス。
彼等は実際疲れてもいるし、何かと気苦労の面も多いわけだった。
三人は勇者軍と呼ばれる、正規ではあるが王国騎士団とは毛色の違う別隊、その主要メンバーだ。まず小柄な騎士が、今その名を遠方の他国にまで轟かせつつある、勇者リイム。彼の最も近しい親友であり、良き相棒がミノタウロスのモーモー。最後の僧侶が、勇者軍に普段随伴し、彼等を助けるタムタムだ。
その三人が、今、疼痛を表すにも近い困憊を言動に出している理由は、最近の主だった任務である、遺跡調査隊護衛の任について。はっきりこれ!と、該当するものがあるのである。
モーモーが言う。
「それにしてもよ…ヘタな鉄砲も数うちゃ当たるっていうけどなぁ…外れ過ぎだろ、さすがに…」
リイムもタムタムも揃って頷く。
「はずれを引くのは連続九回目だよね…最高記録は、引き続き更新中にあり…」
リイムが重く事実を返した。モーモーはやはり分かっているので、頷くしかない。
「ああ…。もう、次の遺跡が決まってるんだってな…。帰って来たその日に、計画練ってるモー」
そこで、横から出た。
「…あのね、そのまた次ももう、決まってるのよ。…知ってた?」
「うげ…マジかよ!? おいおい、それじゃあ俺達は休む暇もねえじゃねえか」
タムタムの実に苦々しい内容に、モーモーが堪らずうめく。彼もまた苦々しい顔で、
「まったく…。ちょっと王様に、ハリキリじいさんを何とかしてもらうように言うか?」
「そうよね…。教授ったら、最近立て続けに新しい遺跡が見つかったからって…年甲斐なく、子供みたいにはしゃいでるんだから…。もう、弟子としてほんとに頭が痛いわ…」
彼女はなんとも頭を支えたいらしく、杖を持たない左手を額に添えた。
そんな、彼等三人のぼやきは、言ってしまえば実に当然だった。ここのところの護衛任務は、期間は短いが、こなす回数だけはやたらと多かった。立て続けにハズレ――多くの場合、全くの見当違いや何も残っていない遺跡――を引き、さらに任務以外に生まれる失望感が、彼等を普段以上に疲れさせている。
そして、その原因となる中心人物が、ただいま遺跡調査隊の総責任者――ライナーク一博識な賢者である、ねずみのラドックなのだが。
「ラドック教授はまわりから賢者って言われても、やっぱり名乗る肩書きは考古学博士だし、考古学が本来専攻だから…仕方ないと言えばそうだけど…」
リイムが言葉を濁す。ラドックの知識は多岐に渡り、さまざまな分野に精通しているが、とりわけ考古学のたぐいは造詣が深く、本人も実に研究熱心で、好んで考古学博士と自称している。だだし、あまりにも熱が入りすぎて、とにかく先へ先へと急き、周りが見えなくなることすら、ままあったりする。
そして付随するように、護衛というものは調査に欠かせないのである。切り離すことは出来ないのだ。何しろ、遺跡には多くの魔物が住みついている。だから侵入し、派手に探索をすれば、嫌でも彼等と鉢合わせすることとなる。ところが…調査チームの構成員は過半数が人間、残りは魔物だが、その誰もが典型的な学者タイプだ。つまり、頭はすこぶる良いが、腕っ節の方はまるでからきし。戦いなどとても出来はしないわけで。
さらに加えれば、彼等全員は率いるラドックになぞらい、やる気と根性だけは人一倍だから――魔物にやられても失敗しても、それを続けても――あきらめることのない不屈の闘志?で、次から次へと見つかった遺跡を調査している。まさに手当たり次第と、言っていいぐらい。
かくかくしかじか。そんなせいあって、怒涛の勢いで最低な最高記録が更新されつつあるこの頃。勇者軍の溜息が増すばかりのこの頃である。
「まったく…暴れだす魔物を相手にする俺達が見えてないモー。それに、あいつらだってよ…あんなに調べなけりゃあ、もう少しおとなしくしてるってもんだモー…」
同じ魔物の身であるよしみ…そして、自宅を勝手に荒らされる事を気の毒に思って、モーモーは暴れだす魔物に少々同情的な思いを寄せた。
それにはリイムが頷いた。彼は人間の身であるが、彼にも同じ思いはある。誰にも優しく、魔物とも真に心を通わせることが出来る、彼だから。
「そうだね…立て続けに遺跡が見つかって調査が始まってから、魔物もまた騒ぎ出すようになった…」
「ええ。遺跡の側を通りかかった隊商が、魔物による被害をこうむったって報告もあったし…」
彼等の胸中は複雑だった。一方的に悪いとも言えない魔物達。しかし脅かされるかもしれない、平和。過去において、魔物の動きが活発化したときは、何か悪い事の兆しでもあった。――何か、起こるのだろうか? どうしても不安が生ずる。まだ薄い、しかしそれを消し去ることが出来ない。直接、誰も口に出したりはしないが。
それが、今の救いだった。
「まだ、事態は遺跡付近だけど…このままだといずれ広がって、町や村に被害がでるかもしれない。だから、調査を始めるのに十分な間隔をあけるとか、調査自体をもっと慎重に進めてもらうよう、献言した方がいいね」
リイムが、ややあってから言った。モーモーとタムタムは、少々の間をあけて頷く。
「ああ。それがいいモー。事があってからじゃあ、遅いからな」
「教授達、いつまでも熱くなってるままなんだから…。王様にきつく言ってもらわないと駄目よね」
それから三人は、国王のいる謁見の間へ――そうと決め合わせたわけでもないのに、進む歩調を速めた。
現ライナーク国王リチャード三世は、威厳のある白く長い顎鬚を、右手で軽く撫でつけた。
謁見の間で行なわれる通例。もはや馴染んだ玉座に深く腰を下ろし、頼もしい臣下の報告を受けるのは、日課というまで頻繁ではないが、まあそのようなものだった。
既に毎度となった報告がつい先ほど終わり、後は言葉を待っている顔が三つ揃う。形――慣れたとはいえ、王の前であるから覗える少々の緊張。心中――役目を終えた後の、ほんの少々の脱力と解放。事実――繰り返された事による、大きな疲労をそれらと混ぜて、なんとかどうにか攪拌する。彼等は。
一様である、そのどれもを一通り見て、リチャードは心中微笑しながら思案していた。彼等と顔を合わせることは、身近でありながら特別な感情、安堵感がどこか生まれる。単なる主従関係を超えた、親近感か。
いま目の前にいる三人に、リチャードはとりわけ信頼を置いていた。吹聴、豪語などしないが、彼の自慢だ。
――王国に最後まで尽くしてくれた、側近中の側近だった近衛騎士長ライトの息子、リイム。彼はライナークのため、ライナークの人々のために、父親以上に尽くしてくれる心優しい騎士。人望は厚く、誰にでも好かれる好青年。
ただし。誰に対しても優しい。人が良い。…そこが、少々難点でもあるのだが。
――付き合いも長くなった。モーモーはライトと共に仕え、今もなお王国のために戦ってくれる。口は少々悪いが、根は誰よりも真っ直ぐで、とても人懐っこい性格だ。
しかし。種族的なものもあるだろう。直情径行、わりと短気なのも事実で、何かと飛び出してしまう彼。
――勇者軍を上手くサポートする事が出来るのは、彼女をおいて他にはいない。タムタムは稀有な変身能力と、突出した回復魔法の才を持っている。何より、いつも明るい。共にいる者は元気づけられる。
そして。優秀なラドックの弟子である彼女は、皆の欠点を上手く補ってくれる…かは、心配どころ。年頃の娘ながら、在りし日のおてんばがまだ、抜けきれていないところも少し。
そう、各々上げられる不安要素は無くもないが、その欠点とは互いに支え合うことで補うものだろう。彼等は実に、良くやってくれているのだから。三人と勇者軍のおかげで、今でも王国が存続しているといっても、それは決して過言ではない。国民の誰もが、口を揃えても言うだろう。数年中に訪れた危機は、全て彼等がいたからこそ、越えられたのだ。それとなにより、彼等はまだ若かった。将来性がある。有望な若者達だ。これから先も、今以上に活躍してくれるに違いない――。
彼等がリチャードの自慢と楽しみに、ならないはずがなかった。疲れた感じの顔であろうとも、見れば微笑ましくも思う。対して少しばかり、悪いとも思うのだが。
「うむ…。それはわしも、思っておった」
しばらく思った後、ゆっくりリチャードは言った。
「いささか…教授達は調査にのめり込んでしまったようじゃな。既に九回も同じような報告書…もとい始末書を提出しておきながら、今日も熱く語っていきおった。…今度は何でも、世紀の大発見に繋がる可能性が高いと…。まあ前回のときも、同じような話を聞いたが」
リチャードは苦笑を禁じえなかった。いつもはとにかく、年のせいかくどくど長々世間話を交えて話すラドック。だが近頃は…そのしちくどい滔滔たる陳述に、勢いと熱意が加わってしまい、口を挟むことすらなかなか出来ない状態である。
ラドック教授はかなり高齢であるから、気力だけでも元気になるのは結構なことだとリチャードは思う。のだが…それに振り回される者は、どうにも気の毒でしょうがない。そして考えれば、紛れもなく自分も振り回される立場であり、さらには色々と他方から別問題も出てくる。
「そなた達には苦労をかける。教授が引きも切らず、調査の容認を申し出にくるからの…随分疲れておるだろう。それに教授達とて、こうも続ければ疲労が重なるであろうに…夢中で気付いていないようじゃ」
そこで三人も、控えめだが苦笑した。タムタムが、眉を潜めながら、
「教授…本当に夢中で、魔物と遭遇しても気付かないことがありました」
「そうか…今の勢いからすると、考えられぬ事でも無い」
「王様。なんかじいさん、ほんとに全然周りが見えてなくってよ…。たま〜に、俺達にも気付いてないんじゃないかって、思うこともあるモー」
モーモーの顔は呆れ気味。リイムは考え込むように、顔を下げた。
「そういえば、今回の遺跡調査の時、研究員のシープマンに真正面からぶつかって…」
相手が羊の魔物、ふわふわのシープマンだったこともあってか、さしたる怪我はなかったとのこと。しかも、倒れたのはシープマンのほうで。
しかしさすがに、リチャードも眉間を寄せる。
「うむ…やはり重症か。何か起こる前に、手を打って良かった」
「手を打ったとは…」
リイムが最後を聞き逃さず、すかさず尋ねてきた。
「何を教授に言われたのですか?」
「いい加減、わしが止めねばならんと思っておったのだ。…ラドック教授は頑固なところがあるからな、少しのことでは食い下がって諦めん。だから少々、強く言っておいた」
リチャードは大きく、溜息づく。
「今までの連続九回の実績を読み上げて批評し、三週間の謹慎処分を言い渡しておる。意気をくじく事はあまりしたくはなかったが、さすがにこうでもしないと、あの熱は冷めぬであろう」
聞き終えた後のラドックは、しょげて謁見の間を去って行った。一回り小さくなったような姿を思い出すと、リチャードには後ろ髪を引かれる思いが募る。
「…そうですか」
リイムは、同じ場面を想像したに違いない。僅かに面を俯けた。
「だが、理由はそれだけではない。リイム…そなたの申す通り、まこと魔物達による実害を考慮せねばならなかった。被害報告が増えた現状を、軽視するわけにはいかぬ」
「…はい」
「増えたとはいえ…確かに被害はまだまだ少ないが…」
リチャードは、そこで言葉を続けるのをためらった。あまり考えたくは無い。いや、考えたいはずがない。
彼等は十分それを、分かっている。リイムが言った。
「王様。調査は少なくとも、三週間内は行なわれないのですね?」
「うむ。わしとしては、少なくとも一ヶ月は様子をみたいところじゃ。魔物の動きがそれで収まれば良いが…」
敏感にならざるを、えなかった。僅かリチャードの顔に影が出来る。
その変化に、彼等は気づくことが出来た。同じ懸念を心中に留めている同士。不安という影が差した顔で、タムタムが口を開いた。
「王様も、やはり魔物の動向を気にされていたのですね…」
「どんな些細な事でも、未然に防げるものならば、それに越したことはない。だが、はっきりとした動きも掴めていないのに、軍を動かす行為は、民の中へ要らぬ不安を広げる。しかしこのところ…何か気になってな。このわしも神経質に……いや、臆病になったのか…」
静かな沈黙が落ちた。だが、モーモーがそこで笑った。
「なあ王様、ごたごた色々あったんだ。気にしすぎるぐらいが良いんだモー。俺みたいに、でかくても何も考えてない奴は、やっぱマズイぜ」
堂々と言う所が、彼らしいのか。
「やだ、モーモーったら」
タムタムは軽く笑ったが、
「でも……言うほど、考えてないわけじゃないんでしょう?」
「あ? う〜ん…まあ、身体が動いてる後には、たまに考えてるか……。なあ、リイム?」
「モーモー…そればっかりは、僕に振られても…」
人の良いリイムは、本当に困っていた。リチャードはたちまち可笑しくなって、相好を崩す。
「ほっほっ。すまなかった。…大丈夫じゃ、わしはこの国と、皆の生活を守ってみせる。…何より心強い、そなた達がおるからな」
するとモーモーが、自分の胸を――任せておけという意味だろう、拳で叩く。
「そうだぜ王様! 俺達がどんなことでもな、バーンと解決してやるよ! なあ、リイム!タムタム!」
「ええ」
「はい。僕達にお任せ下さい」
と、意気投合したそこまでは、良かったのだ。
「…でもな、王様。…くそややこしくて、頭が痛くなっちまうほど難しい事は、ちょっと勘弁してもらいたいモー」
「何言ってるのよ、モーモー!」
そこでのタムタムの突っ込みは、実に慣れたものである。
「よい。…タムタムよ、あまりモーモーをいじめぬようにな」
リチャードの顔には、今や柔和な笑みが戻った。タムタムはやや膨れるが。
「王様。私は別に、モーモーをいじめてなどいません…!」
「そうか。いや、勘違いをしてすまぬな」
笑いが収まらないリチャードだった。しかし、ふと見やったとき、リイムが自分とは別――隣側を見ているのに気づく。
「リイムよ、どうしたのじゃ?」
尋ねたリイムは、ほんの一瞬、逡巡したようにも見えた。
「あ、いえ。…ただ、いつもはこの場にいらっしゃるライム姫が、今日はお見えにならないので」
「おお、ライムか」
リチャードは納得した。彼の愛娘である第一王女のライムは、確かに謁見を行っている間、この場に大体居合わせているからだ。
日常の謁見はほぼ毎日、定時に行われていて、さまざまな者が王であるリチャードのもとへ訪れる。王女であるライムは、城から自由に出られないこともあるだろうが…多くの者の話しを聞いておきたいと、進んで謁見の場に居合わせていた。
だが今日は、その姿がない。
「なに、今日は愉快な客人と一緒に、庭園の方へ出ておるはずじゃ。天気も良いしの」
「ああ、そうだったのですか」
「ふむ。よければ、後で会ってやってくれぬか? しばらくは勇者軍にわざわざ頼む事もないじゃろう。行先で面白い話しでもあったなら、聞かせてやってほしい」
リチャードがそう言うと、リイムより、モーモーが先だった。
「よし、分かったぜ王様! じいさんの、そりゃもう変った奇行を、俺が姫様に…」
「モーモー。それじゃあたぶん、悪口になると思うけど…」
リイムが今度は突っ込む。本来、その役を進んで引きうけるはずの彼女は今、やや俯いている。
見ながらリチャードは、髭をひと撫でした。それに関して、見当がまったくつかないと言えば…嘘になる。
「だってよリイム。面白いって言ったら、やっぱじいさんの話しだろ。…そうだよなぁ、タムタム?」
「…えっ?」
話しを聞いていなかったらしいタムタムは、振られてやっと我に返ったようだ。
「なんだよタムタム…。もしかして聞いてなかったのか? じいさんの話しだけどよ…」
「えっと、聞いてるわよ。教授が偏屈だってことは、誰でも知ってるじゃない」
それにリチャードは、思わず噴飯しかけた。――彼女はこの場を、忘れているのだろうか? にわかに口元を押さえて、漏れを防ぐ。ひくつく腹部は、押さえて止めた。
「…これこれタムタム。そなたは、ラドック教授の直弟子であろう?」
「あ」
タムタムは慌てて、その口を片手で押さえたが。
「まあ、聞かなかったことにしておこう」
タムタムはどうにもし難い羞恥からだろう、俯いてたちまち赤くなった。
リチャードはまだ、緩む顔を戻せないまま、言った。
「さて…わしが話すことはこれぐらいだが…」
リイムに視線で尋ねれば、彼はモーモーと見合わせて、
「…では王様。僕達はそろそろ、失礼したいと思います」
「うむ。ゆっくりして、骨休めをするといい」
リチャードはかろうじておちつき、鷹揚に頷きかけ…しかし、思い出した事を加えた。
「そうじゃ、言っておこう。先ほどマテドラルから、使者が参られた。そなた達の知っている二人も、一緒に来ておったぞ」
リイム達は分かった様子で――タムタムはまだ赤いままだったが――それから一礼し、謁見の間を後にした。
姿を見送り、リチャードは背もたれに身体を、一時預ける。力を抜いた。
――やり取りは、ごく平和だった。気を抜ける、やすらぎだった。一時は、何もかも忘れることが出来る――そんなことが出来る間は、まだ平和だろう。
それからリチャードは、次なる謁見の相手を迎えるため、姿勢を正した。
神秘の体現。それを一手に引き受けた象形とは、例えばこのようなものになるのかも…しれない。
「嗚呼〜…白日のもとに俺は立つ〜♪」
天の恋煩い。摂理の落とし穴。…ミミズのしゃっくり。
世界には太古からそんな神秘があって、人々の手の届かないところで手を招いていた。
「こそっとくすぐらないで〜そよ風さ〜ん♪」
だがそれは、神秘と人々に認識されなかった。解明などされていないが…ただ、昔よりあるということだ。長年変わらぬ姿で、人々の記憶に固着される――常に人の世と隣り合わせで、彼等は歩んできた――だから何のことはない、そういうものだと。昔よりそうで、今でもそうで。
常識は通念であり観念であり。そこに不思議など、非常に残念な事にあまり受け継がれなかった…のか。
常識と取ってしまえば、神秘などたやすく薄れてしまう。何かとありがたみが失われる。
所詮神秘とは、認識上のものでしかないのか。
当てはめる――常識こそ、ある意味恐ろしいものかもしれない。
「降り注がれる恵み〜びっしょぬれ〜♪」
神秘ならざるもの。超自然的でたらめ。
「おかげで俺は背が伸びた〜♪」
神秘は、神秘のままでいい…?
王宮の庭園は、やわらかな陽光のもと、とりどりの花木であふれかえっていた。
「変わった、歌…? ですね」
そして今ここに、果敢な事か…疑問を投げかける人物がいた。興味あって――。無知だから――。そんなものではない。これはただの、ただの素朴な、純粋な疑問だ。
繊手に銅製のジョウロをもって、今、目の前にある花に水を与えている女性は、非の打ち所が無い整った――つまりは美しい顔を、僅かながら歪めていた。しかしそれにすら、気品がある。
それもそのはずだった。ライナーク王国の、王女である彼女。白いドレスに身を包み、誰もが目を奪われる美しい容貌は、どの仕草ひとつにおいても損なわれない。白皙の透けるような肌。エメラルドの瞳に艶やかな紅唇。腰元まである長いブロンドには、丁寧に櫛が入っている。
「えーそうかぁー? 伝統的で歴史ある、由緒正しい歌だぞ。所要時間がかからないぶん、随分とお手軽で広がってるじゃん?」
水を与えられている花は――もといヒマワリに似た植物の精霊は、太陽に向かって振っていた頭を止め、王女の方を振り向いた。
「?」
王女が小首を傾げると、
「あ、分かんない? …う〜んとだな、つまりスキップな歌だ。ほら、国際的に匍匐前進は辛いが、スキップは楽しいだろ〜。るんタッタ♪ 暗黙の了解で万国共通になってるよ。民族、種族を超えた、実に崇高な歌でさ〜、誰でも知ってるんだ」
何やら意味不明の無茶苦茶なことを言っているが、何となく。
「もしかして……鼻歌、ですか?」
「おおっ、さっすが姫様。良く分かったな。まるでつーかーだよ、そのとーりっ!」
植物の精霊――サンフラワーは、嬉しそうに頭を振った。王女はさらなる疑問を口にした。
「ところで、出来るんですか? スキップ…」
「うん、その疑問は実に的確で正しいな。そう…俺、足っつーか、茎一本だし。それにほふく前進もできねーんだ。…だって手ぇ葉っぱだっから」
「背が伸びるって…本当なのですか?」
「おおっ、その疑問は実にあんたらにとって当然だな。何なら、測ってみりゃーいい。おおよそ一ミリは伸びたと俺は予言する。…ただな、知ったあとのリスクはおおきいぞ。覚悟を決める勇気はあるかい、姫様?」
サンフラワーは、まるで脅すように言ってきた。しかし、何がそうなのか、分からない。
「どうしてですか?」
サンフラワーは、仰け反った。至極当然のように。
「なんつったって、元の身長がわかんねーんだ、これが! だって俺お花だしー、そんなの測ったことないもーん」
「そうですか…」
別に、失意などない。まともな返答を期待するのは間違っている…そんな考えもあるが、まあそんなところだろうと、そう思うようにもなった。彼はそんな精霊なのだ。たぶん、自分以外の誰が考えようとも。
「でもな…伸びてるのは間違いねーんだ。だって毎日、姫様が水をくれるからな…」
サンフラワーは、王女の俯きかけた顔を見上げた。しかしその顔が、いつものニコニコとした、嬉しいか楽しいか、そのどちらともなのか――そんなご機嫌の顔から一変して、笑みの無いものとなっていた。
「…ミラクルさん?」
それがその、サンフラワーの名前だった。しばらく前から、ごたごたとあったのだが…王国の客人としてライナークに滞在している不思議な精霊。花をどこでも咲かせる、珍しい、変わった植物の精霊だ。
サンフラワーは、そのままの顔で語った。
「…気づいてくれねぇかな? 俺は日々成長しているんだよ…一日一ミリとして、後四ヶ月もすれば…かなり身長高くなって、姫様とも立派につりあうようになる…」
今、このサンフラワーは、王女の腰よりさらに低い位置に頭がある。つまるところ、彼が言うことは、茎が伸びて長くなることだろうか?
王女は眉根を寄せた。何か、想像すると奇妙である。にぱにぱと笑う顔が、自分と同じぐらいの位置にある。ヒマワリだと思ってしまえば、そうでもないかもしれないが…彼はこのままのほうが良い。
少なくとも自分はそう思う…。王女が考えていると、サンフラワーは何やら赤くなり、もじもじとし始めた。
「そ、その時はさ…その、その…その時は姫様…。ひ、ひめさま…俺と―――ぶっちん!」
王女が驚いたときには、サンフラワーは既にうつ伏せとなって地面に倒れていた。
何故かスコーン!と音がした。王女が不思議に思って側を見ると、矢が一本落ちていた。ただし、先端に尖ったやじりはなく、丸いゴムがついている。
「やー? な〜んか詰まってないような軽い音だったね。はりぼて造花かな?」
声の方を見やる。と、そこには歩いてくる、魔物のラビットマンとゴーレム、チキンマンの姿があった。ロビーにミッキー、それにジョージだ。それぞれ勇者軍に所属しており、リイムの友人である。
ラビットマンはウサギの小型魔物、ゴーレムは意思を持った岩の大型魔物で、チキンマンはニワトリの小型魔物である。それぞれ、ライナークではよく見かける魔物種族だ。彼等はもっぱら下位の魔物とされ、昔からラクナマイトに存在し、数が多く、人間と友好的な者達も多い。
「何さらすーぅそこのラビットぉーっ!!! おりゃー地面とチューしちまったじゃねえかよっ!」
ミラクルは起きあがるなり、突っかかっていった。ロビーは弓を持っている。彼は優秀なアーチャーだ。
「何って…だってボク達は、可憐な蝶の如き姫様に、悪い花!がつかないように急遽結成された、ライム姫の特設身辺警護隊だから」
すました顔でロビー。ミラクルは怪訝そうに揺れた。
「なんだとう? 急遽結成?」
「ん、ついさっきね。…君が姫様に無礼を働かないよう、よくよく注意してくれって、言われてるんだよね。…まあ確かに、彼が何度も何度も何度も…しつっこく念を押したのがわかるような気がするよ。万が一、たとえほんの少しでもね…悪いものが移ったら困るから、君の監視は必要だよね、うん」
ミラクルはうめいた。ロビーが言った事に関する、心当たりはあるらしい。
「ぐっ…。さては、城の表裏金属コアラの手回しだな…」
勇者軍がそうであるように、ライナーク王国に直接仕える者は、何も人間ばかりではない。王城内にも、魔物の姿はちらほら見える。
ミラクルが苦々しく口にした存在は、そのうちの一人であるわけだ。
「くっそぉ。…せっかく奴が動けない時を狙って、姫様を誘ったのに…」
「え?」
つぶやきが届き、王女のライムが、疑問をあげる時もあらばこそ。
「――うっわー姫様、見てくれよぉぉい! なんかちょっとここら辺にたんこぶがあぁぁっ!?」
ミラクルはライムのもとへ戻って、さっと横を向いて、葉っぱを上に向けて動かした。しかし、
「あー当たったのそこじゃないって」
と、言われるなり反対を向く。
「じゃあ、こっちっ!?」
ロビーは呆れ声を出した。手を振りつつ、軽く笑って肩を竦める。
「あー…花にたんこぶなんかできないんじゃないの…? いやさ、サンフラワーにさっきの打撃でダメージを与えられるはずがないんだよね、そもそもさ」
ミラクルはたじろぎを一瞬見せたが、次には一気に迫っていった。
「くそぅ…気付いたか。…いや、だがしかーしっ! 今のは紛れも無い攻撃だな!? 何もしていない俺に矢を放つたぁ、軽率な暴挙と言えなくも無い! 違うかっ!? しかも俺は民間精霊だ! 軍人じゃねー! 責任とらねーと、何かと社会がだまっちゃいないぞ! 世の中の流れは、まるで旬の如くぱりぱりとそうだ!」
ロビーは怯まないが、心底怪訝そうな顔を前面に出した。
「なに? その、民間精霊って…?」
「民間の、ただの精霊に決まってる!」
「…そう?」
「そうっ!」
ロビーは一瞬、沈黙しかけたが。気を取りなおしたらしい。フッと笑って。
「まあとにかく。君は確か…以前、罪をおかしているよねぇ? 起訴猶予が認められたわけだけど…。なら、おとなしくしていたほうが、いいんじゃないのかい…?」
ミラクルは倒れそうなほど後ろに仰け反った。葉っぱを揺らして。
「くわぁー! コアラがよこしたのが分かった…! 内心忸怩たる思いの俺はへにゃ…」
倒れ、完全に仰向けになった。こころもち、しおしおとしなびる。
ロビーは、にやりと、これ見よがしに笑みを湛えた。
「やっぱりね。言動が怪しいと思っていたら…君は本当に前科もちなんだー?」
聞くなり、跳ね起きるミラクルだった。一気に捲くし立てる。
「――なっ、ハメやがったなっ!? 何つーふてえやろーだ! 俺は善良だぞっ、俺ほどいい奴めずらしーって! いやね、俺は無罪なんだっ! 姫様に許してもらったんだっ! うん、無辜の精霊だよっ!!! …ぷちぃ!」
が、そこをチキンマンのジョージに突付かれた。音と共に、再び仰向けに倒れる。
「これはまた、変な音がしたね…」
ロビーが何か、気味悪そうにつぶやくさなか、ミラクルはパッと仰向けからうつ伏せ状態になった。
「ひ…姫様…助けて…。奴らが…奴らがいじめる…か弱い俺をいじめるのぉ…」
ずりずり葉っぱを動かして、ライムの方に這って行く。しかしそのときだった。後ろの巨体が悠然と動いたのだ。
「…お?」
ミラクルは、周りが突然暗くなったことに顔を上げた。が、遅かった。
「――うわあぁぁっ!?」
ゴーレムのミッキーが、ミラクルの上にいた。
絶叫が上がる。
「わああああっ!!! ぐわああああっ!!! ぎゃああああっ!!!」
とにかく、ひとしきりうるさく叫んで…まるで力尽きたかのように、はたと止まる声。
「……」
ミッキーは、終始無言だった。もとより彼等ゴーレムは、言葉を話せないのだが。
そして、周りの誰もが皆、無言だった。悲鳴などは上がらなかった。逸らす事などしない。じっと見る。
『……』
何しろ、彼はミラクルの上にいるだけなのだから。…ミッキーは後ろからミラクルに迫って、ただその上をまたいでいるのである。
「ああ…やっぱりお花畑が見える…。俺もとうとう、あの世にいっちまうんだな…」
何やら、下ではつぶやきが聞こえるのだが、誰も言葉はかけにくかった。
「なんか悲惨な最期だよな…さがない悪辣な連中に、徹底的にこれでもかっ!ってぐらい苛め抜かれたあげく、しまいにゃ狂暴で短気極まりない、無分別な岩野郎に潰されて死ぬんだもんな…」
「……」
ミッキーは、微動――ごくごく腰を落としたようだった。ミラクルはその下で、頭をじたばたした。
「お…お…オイコラッ! い、いわおミッキー! のっかるなっ…重い…。ぐ…ぐるじい…やめぇ…! ギブ、ギブギブっ! お、押し花になってしまうっ! そりゃ…そりゃあ、さぞかし立派で素敵な、ビューチフル押し花ができるだろうがっ…!!!」
必死めいた叫びに、ミッキーはまた、ごく僅か腰を落としたようだった。
「ま…マジだめっスっ…! こ、ここは…儚さあって輝く命という…その尊さを、わかって…いただきたい…」
ミラクルがさすがにおとなしくなると、ミッキーは腰をあげて、その上から離れた。
解放されたミラクルといえば――起きあがるなり突っかかっていった。
「くぉのぉぉっ! マジ潰れるかと思ったよー俺!? 俺が大変丈夫なサンフラワーだからって、こんな横行が許されていいものかっ!? 今こそ問う! ウサギのてめえに詰問すーっ!!!」
ロビーは、実に面倒くさそうに答えた。
「どう間違っても、ミッキーが君を押しつぶすわけ無いじゃん。…だってこんなツラが押し花になったら、可笑しいから」
「ぐわっ! お前、そのセリフ超悪っぽいぞー!? そ、そうだ姫様…!」
後ろを振り返る。ミラクルはそれが、唯一の光明であるかのように、声をあげた。
「姫様…! なんか…なんか言ってくれっ!!!」
ライムは訴えかけるミラクルに、しばし考えた後、こう言った。
「あの……出来ましたね、ほふく前進」
彼は――。間もなく、後ろを振り返った体勢のまま、ぱさりと地面に倒れこんだ。
そして、ちょうどそのころだった。リイムとモーモーの二人のみが、回廊から姿を見せたのは。
「――と、言うわけじゃ。これでまた、謎がひとつ解き明かされるのじゃよ。遥か太古の、我々など知る由もなかった出来事がこれから解かれ、その長き歳月をようやく実感し、その古代に思いを馳せることができる…。これは現在までに発見され、残っている物としては最古の文献なのじゃ。しかし、今の今まで誰も解読できなかった…。じゃが、この、こたび発掘された石碑に刻まれた碑文と、そして、このわしが数年前に発見した古文書を照らし合わせていけば、それが可能となる! 全く、これは最初発見されたとき、随分騒がれたのじゃが…何しろ、今まで見つかったどの古代文字にも似つかぬ代物でな。…長らく、長らく解読できぬまま、放置よぎなくされ、今に至った。…だがの、この新たに見つかった碑文の文字は、実に良く似ておるのじゃよ! しかも、それを解読した、推定280年前の経典が一緒に見つかったのじゃから、何という僥倖か! …今、今、ここにようやく解けるのじゃ! 長かった…ほんに長かった…。こうなれば当時の苦労も、今となっては良き思い出じゃよ。うん、あの頃は若くてな、同じ学者連中と、日夜絶えぬ論争を繰り広げておったもんじゃ…もちろん、これについてな。しかしなにぶん、皆、少壮者ばかりでのぅ…それは激しいもんじゃった。…熱気に包まれ、上気した連中が冷静に討論できると思うかな? 出来るはずがないんじゃよ。終始その場は、さながら喧嘩腰の取っ組み合いが始まりそうなほどにヒートアップして、ずっと保たれておったんじゃ。驚きじゃろう? 何せ、知恵者であるはずの学者連中がじゃぞ? これがどれほど価値のあるものか、皆わかっておったわけじゃ…」
――誰もが口を揃える。誰に聞いても、その誰かに誰が聞いてもだ。この、ライナーク一博識の、近隣諸国でも随一の知識を持つねずみの老賢者は、非常に分かりやすい人物ではあった。
「まあ、ほぼ同じ時期に、これまた最古の物と噂された石棺も発見されたのじゃが…これが惜しまれることに破損がとりわけ酷くてのぉ…周囲が貴金属で装飾されておったもんじゃから、墓泥棒にみな削り取られてしもうた。悔しい思いをしたもんじゃて。おかげで彫り込まれた文字や文様も、確認できたものはごくごく一部。誰が納められておったのかもわからんかったし…棺の中も、みな持ち出されたようで空じゃった。いや、これも思い返せばひどく悔しいし、当時がまた、懐かしいのう…。悔しい思いをしたのは、そのとき、まだまだあったからのう…。だが、あのときはわしにとっては冒険の時でもあったから、そりゃあ夢中じゃったよ。もちろん、決して飽きることはなかったし、諦めもせんかった。…今もそうじゃがな。思えば命を落としかけた事もたびたびあったが、遺跡の奥で新たな発見をする喜びに比べれば、危険など、どうということはないんじゃ。それを乗り越えねば、わしらは古代の謎や神秘を解き明かすことなど不可能じゃからな…畢竟、試練なんじゃよ、与えられた試練じゃ。乗り越えてきたから、今もわしはこうして健在なのじゃ。うむ、やはり、若い時の苦労は買ってでもするもんじゃな。お前さん方も今のうちに色々学び、苦労しておくのじゃぞ。まあ…言わずもがな…十分苦労はしておるかの? ふぉっふぉっふぉっ」
一度、語る話しをその口から聞くだけで覚るのだ。この教授について、もっとも特徴的なことは…その並外れた知識などでは無い。確かにつまびらかに話しをすれば長くなるのは当然だろう、しかしじきに、それは際限無く、取留めがなくなっていくのである。つまり――
話しがくどい!…これに尽きる。ただそれに尽きる。とにかく…尽きるといったら尽きる。
「えー、ですから教授は…シャルル達が持ってきたその碑文と、それの解読された経典、それとご自分の発見された古文書を参考書や副読本として、この長らく未解読であった、現在にして発見されているものとしては最古のものと思われる文献を、これから解読されようとしているわけですね…?」
タムタムは止め処の無い、軽く半分以上が無意味な縷言を聞き終えた後で、そう言った。
…座る椅子には、腰掛けた直後より負担が増えた気がする。始まってから、何分経ったか…?しかし今日はまだ、短いほうだとも自覚する。
いつもながら、むやみに長かった。その長談義をやめれば、もっと研究にゆとりがでるのではないか…?そう思うときもあるぐらい。
もう必ず、だ。教授がひとたび口を開けば、必ず余計な話しやら――主に昔の話だが――が、加わるのである。そして年のせいか、職業がら特有のものか…偏屈なところがあるので、機嫌は窺わなければならない。下手に、話しの腰は折れないわけで。
つまり、かなりどうしようもなく、全く困ったものだった。
「うむ……そうじゃな」
一人そこに立つ、当の賢人。白い髭を揺らしたネズミの博士ラドックは、呆れる面々の心中など気にもかけず、彼等の前で実に機嫌よく頷いたが。
その場――いや、一角には、ラドックを含め四人の姿があった。ライナーク王城内の図書室である。様々で貴重な蔵書が保管された、知識の間の片隅で起こった長話。他の三人は、それを否応無しに聞かされていたことになる。さしずめ運の悪い彼等は…タムタム、シャルル、ヴァイスの三人。
「…教授。これからそれの解読を始めるって、他の仕事は良いんですか?」
聞き終えた後で、まず口を開くなり、そう普通に質問をしたのはシャルルだった。隣国マテドラルの宮廷司祭(見習い)の少女で、リチャードが話していた、二人のうちの一人だ。
「教授のことだから、その前にスケジュールがいっぱいだと思いますけど」
かくいう、タムタムの座る真向いに机を隔て、座っている彼女もまた、ラドックの弟子だった。当然ながら慣れたものでもあり、師の長話については耐性がある。場の転換というか、話しの切替えは早い。
「………」
そして、彼女の隣――タムタムの位置からすると、斜交いに黙って座る青年がヴァイス。半年ほど前から、こもごもあってマテドラルに仕えるようになった彼は、普段から鋭い眼差しで今はかなり複雑そうな顔をしている。遠慮あってか、顔色以外、特に口を出そうという気配は無い。辟易して、しばらく、しゃべりたい気分ではないのかもしれないが。
「それがの、シャルルや…。実は専心できるのじゃ!」
グッと、握り拳など見せるラドック。かなりしょぼくれていると思われた老人が、妙に生き生きしている理由は…これだった。タムタムは心の中で、長い嘆息を禁じえない。
「なんと、三週間もヒマがあるからのぅ。ふぉっふぉっふぉっ。十分可能じゃて」
「へえ…教授がそんなに、ですか。今まで働きずくめだったから、思いきって長期休暇でもとられたんですか?」
「違うのよシャルル…」
タムタムが沈鬱な面持ちで言うと、シャルルは不思議そうに目を瞬いた。
「違うのよ、それは……」
そこで、シャルルとヴァイスは、タムタムの妙な変化に気がついた。顔を俯き加減にした彼女は、何やら背後の方がこう…見る限り…渦巻いているというか、沸きあがっているというか…。
ラドックの方はというと、机に並べられていた書物…繙かれ、開いたままのスクロールやらコデックスを、いそいそとまとめ始めていた。
「…では、わしは早速取りかかることにしようかの…!」
「――お待ち下さい教授…」
タムタムの静かなその一声で、ラドックは荷物を抱えた姿でぎこちなく止まり、シャルルとヴァイスは互いの顔を見合わせ、再び彼女を見た。息を呑んで。
「教授…お忘れですか? 今は謹慎中なんですよ…。だから、おとなしくしていて下さい!」
机をバンッ!と両手で叩き、タムタムが勢いよく立ち上がった。
「いやな…しかしのタムタムや…」
ラドックは愛弟子の変わり具合に、やや肝を抜かれたらしく、しどろもどろに言い始めたが…しかし、
「その、のんびりしては…おられんのじゃよ。これが解読されればな、ライナークの歴史について、さらに分かるはずなんじゃ…。何せ、王宮の大規模な改修を行ったときに偶然、地下深くから発見されたものじゃからな…。それにの…実に興味深いことに、この文献の一枚に、絵がひとつ描かれておってな…それは鏡の絵なんじゃが…これがなんと、なんと精霊の鏡にそっくりなんじゃ! ほれ、見てみるがよい!」
ラドックは話していて興奮が押さえられなくなったのか、一度はまとめた古めかしい紙のようなもの――どうやら動物の皮のようであったが――を、机の上に置いた。
「あの、精霊の鏡にですか…?」
タムタムの気色ばんだ顔が、緩やかに変わる。そうなった要因を自ら言葉にして、机に置かれた文献に視線を注ぐ。
確かにその古びた一枚には、彼女も知っている鏡に似た、ひとつの絵があった。
「精霊の鏡って…確か、精霊界を映し出す、不思議な鏡…だったか?」
ヴァイスがようやく口を出す。彼は直接見たことなど無いだろうが、その知識は元の稼業あってのものだろう。
「へえ…そんな鏡があるんだ?」
こちらは、全く知らなかったいう感じのシャルル。
「まあ、精霊の鏡については、あまり他言無用じゃからのう。悪用する輩がおるとは思えんが…とにかく、貴重品じゃからな」
精霊の鏡は、実際は歴史的にも価値があると思われていたし、細工や装飾もなされていて、美術品としてもそこそこのものだった。しかしラドックの言うことが最もであり、その鏡はとにかく、貴重なマジックアイテムではあった。
「精霊界とこの世界を自由に結ぶ…。他に、そんなアイテムは聞いた事が無い。もしかすると、これしかないのかもしれん。世界のどこかには、精霊界に繋がる場所もあるとは聞くが…そもそも用事がある者など、おらんじゃろうて。むやみに足を踏み入れれば、精霊の怒りを買うだけじゃからの」
精霊界とは四元素の――つまり、地、水、火、風の属性を持つ精霊達が生まれ、住まう世界だ。そこには精霊王と呼ばれる王がいて、彼等を束ねている。
知られているのは、その程度のことだった。何しろ身近な世界などではなく、精霊界からこちらの世界へ干渉してきた事も、過去の記録においては無いからだ。
ただし、逆はあったが。つい数年前、勇者軍が精霊王の力を借りるために一度、向かったことがある。そのときに、精霊の鏡は使用された。そして今鏡は、城の宝物殿に保管されている。
「ふむ…お前さん方で最後になるとよいがのう…精霊の鏡を使うことは…」
ラドックはつぶやいてタムタムを見ると、別の文献を机に置いた。
「うぉっほん…。とにかくじゃな…。少しじゃがのう、例の物が届いた時点で、早速解読を試みたのじゃよ!」
タムタムの顔が、たちまち呆れ顔に変わった。
「聞きなさい。実に興味深いことが書いてあったのじゃ。まず、ここライナークには、四元素の精…火の精、水の精、風の精、地の精達の上にあたる…上位精霊という存在がおるらしい」
「上位…精霊ですか?」
「うむ。名も記してあった。炎のサラマンダーに、水のウンディーネ、風のシルフに、地のノームとな。これだけでもう、大発見じゃ!」
そこに書いてあった事なのだろう、ラドックは文献の文字に指を添えて、白い眉毛をしきりに振るわせ興奮気味に話す。しかしシャルルが、
「…でも教授、それって大昔の話じゃないですか。今はもう、いないかも」
横から意見が出ると、ラドックはピクリと眉を上げたが…やがてゆるりと首を振った。そして、ゆっくりだが確信に満ちた声で言った。
「いや…いや、おるよ。今でものう」
「どうして、そう思われるんですか…?」
「それはなシャルル…ライナーク特有の、不思議な風土じゃ」
「…あっ」
声を上げたのは、タムタムだった。ラドックが、深いしわの奥で笑った。
「分かったかの? まず分かりやすい例をあげれば、タイフーン地方じゃな」
ライナークには他では見られない、とりわけ珍しい、独特の風土がある。ラドックの言うタイフーン地方とは、年から年中激しい風が吹きあれる所で、毎日頻繁に竜巻が発生する地域だ。おかげでライナークの竜巻発生率は、だんトツでラクナマイト一。
「なぜあの地方では、ああも風が吹き荒れ、竜巻が頻繁に発生するのか…? それは全くの謎じゃったが、風の上位精霊がいるとするなら、納得もできるかのう?」
聞いた後で、タムタムがラドックに考えを述べる。
「じゃあ、教授。地のノームがいる場所は…もしかするとクルクルの森なんでしょうか。あの辺りにしかない、クルクルの木々…。どうしてくるくると回り出すのか…それも、全く解明されていませんでしたよね?」
「うむ。だからおそらくは、地の上位精霊がいる影響だと思われる…。木は大地に生え、育つからのう。…しかし、ほんにあそこの木は面白い。…ああ、面白いと言えば、思い出すのう。ほれ…昔、初めてクルクルの木を見たシャルルが…」
ラドックの長話が再開される寸前だったが、シャルルがすばやく立ち上がって、身を乗り出した。
「――教授っ! 他の上位精霊が関わる場所はどこですかっ?」
「うん? おお…そうじゃな、考えられる場所は…危険でとても近づけないが、有史以来、常に噴火しているカッカ火山帯に…これはかなり昔、お前さん達にも話したかのう。オーサムとジャブジャブ付近の山奥…霊水が湧き続ける湖じゃが…うん、話したはずじゃな。何しろあの時も、聞いたシャルルが…」
「――教授っ! これはもう、凄い大発見ですね!」
「ん…ああ…うむ。そうじゃろう、そうじゃろう! よーくわかったかの、シャルル」
「はい! それはもうっ!」
ご機嫌に笑ったラドックに、シャルルは身を乗り出したまま頷いた。しかし横では、怪訝そうな彼がいる。態度を不審に思ったらしい。
「お前…何そんなに力んでるんだよ…」
「ええっ? 別にそんなことないわよ! ええ…ぜんぜんっ!」
すばやく振り向き、かなり凄絶な笑みを浮かべた彼女。ヴァイスは口を開きかけたが…覚ったのか、程なく沈黙した。シャルルはそれから椅子に座る。その後、ラドックが絶妙のタイミングで堰払いをした。
「うぉっほん。あー、よいかの?話しを続けるぞい。とにかく…精霊の鏡と上位精霊には、何かしらの関係がありそうじゃ。それに、精霊の鏡がライナークにあり、ライナーク王家がその所在を語り継いでいたことを合わせると…王家と密接な関わりがあることも考えられる。それも解読していけば、じきに分かるじゃろう。だからわしは、これからリチャード王に早速報告して…」
「…まってください教授」
再びタムタムが止めた。彼女は忘れてなど、いない。
「さっきも言いましたが…今教授は謹慎期間中です。そう急がなくても、歴史と文献は逃げません! 大体…」
深く吐息する彼女。肩も落とす。
「大体教授、少しはご自分の身体のことを本当に心配してください! もう若くはないんですからね!」
それから見据えて、ピシャリと諫言する。
ラドックの行住坐臥は、まず、この図書室か自宅の研究室で研究等に没頭しているか、遺跡調査に自ら足を運んでいるかのどちらかだ。いつも何か考え、いつも何か行動している。休むところを、ほとんど見たためしがない。不摂生。いつも彼は、忙しかった。
彼女はそれを常々注意しているが、当然常に付き添っているわけではなく――ラドックはろくに就寝も取らず、食事もおろそかにしていることがあるだろう。しかしなにより最近は、調査がひっきりなしにあったのだ。たとえ自覚はなくとも、老体に堪えないはずがない。
だから、きつく言う必要があった。
「解読作業は、しばらくお預けですからね! 幸い私達も、しばらく用事がなくなりましたから…久しぶりに、教授のお世話をさせていただきます」
ラドックはさすがに、一瞬うめいた。だが、彼がそうそう諦める人物ではないことは、紛れもなく事実。愛弟子を諭すように見返す。
「わかっておる…わかっておるよタムタムや…。お前さんの気持ちは嬉しい。だが……だからこそなのじゃ! 今やらねば、いつやるのじゃ…。もはや余命幾ばくもない、この老いぼれネズミたっての願い……どうかわかっておくれ…」
タムタムは首を横に振った。また見返して、さらに一言一言強く。
「…いけません。そこはご心配なさらなくとも、教授はまだまだ、ご壮健ですから」
「ほっほっ、ならば何も問題なかろうぞ」
白髭を揺らしたラドックに、タムタムは前に進み出て言った。一挙手一投足、力を込める。
「いーえ! 油断は禁物です! たとえ今は健康そのものでいらっしゃっても、教授ほどのお年になると、ちょっとした無理で何が起こるか分かりませんから、絶対に…駄目です! 私は弟子として、渇仰する教授にご無理はさせません!」
ラドックは迫力に、一度は身を引いた。しかしそれから、何かわざとらしく首を捻った。
「うっ……なにか、今日はちときついのう…。はて……何か、あったのかのぅ?」
眉で隠れてしまってはいるが――彼は上目遣いに弟子を見やった。
「…ありません」
タムタムは一瞬だけ、目を逸らす。些細な仕草も、隠す態度も、師は良く分かっていた。それに、上手だった。穏やかに笑って言う。
「ほほっ、隠さんでよい。分かりやすいからのう、お前さんは」
「ありませんってば」
「ふむ…まあよいとするかの」
タムタムがあくまで否定しても、わかりきったことだった。ラドックもあくまで笑うにすませ、それを流した。…勝負が、あった。
だが、それとこれは別問題――。タムタムもその点よく鍛えられている。溜息をつきながらだが、しっかり告げた。
「…教授。とにかく、これはお願いですから、たまには本当に休んで下さいね」
ラドックは苦笑して頷いた。
「ああ、わかった…約束する。ほどほどにして、たまにはゆっくりするとしよう。弟子に、こうも心配ばかりかけさせる訳にはいかんからのう」
ラドックの言葉に、タムタムはようやく肩の力を抜いた。
それから、机に手をかけ彼女が再び椅子に座ろうとすると、そこで問いが返った。
「…しかしタムタムや、リイム達はどうしたのじゃ? てっきり、一緒にいるかと思ったが…」
今更ながらのそれに、タムタムは眉根を僅かに寄せた。
「一緒にいましたよ…。でも教授が、私だけを呼び出したんじゃないですか…。ピーコックから、すぐ来るようにって。だから私…リイム達と別れてきたんですよ?」
リイムとモーモー、タムタムの三人が謁見の間を出た直後の事。ラドックの助手でもあり、ヴァイスの弟分でもあるピーコックが、城の中であるにも関わらず――息を切らして走ってきた。それから、その彼が言ったことは『教授が呼んでるっスよ。タムタムさん』だった。
だから彼女は、リイム達と別れてここに来たのだ。ライム姫に旅先の話しを聞かせるということは、何も決して、三人でなくてはならない事――では無いから。
ラドックは、実に意外そうだった。
「なんじゃ、そうなのか…? いや、いち早くお前さん達に伝えたかったのじゃよ。ただ、お前さんを呼び出せば、どうせ一緒にいるリイムとモーモーも、ついてくると思っておったからのう」
その通りで、確かに普段ならそうなっていた事だろう。タムタムが勇者軍に同行し、ついていくようになって以来、彼女は彼等と共にいることが普通になったし、彼等もまた、彼女と共にいることが当たり前のようになっていた。たとえ任務がない時にしろ――いつ何時、何が起こるか分からないのだ――有事に対し、いつでも動ける体制を整えるため、特別な理由がない限り、三人でいる時はかなりあった。
もはやこうなれば、三人で一組…そう既に認識されてしまっても、仕方がない。それに当の三人すらも、それが当たり前なのだと…もう無意識ながら、思っているのだから。
「しかし…これではまた、リイム達に同じことを言わねばなるまいな。まあ、わしは一向に構わぬがのう。…してタムタムや、リイム達は今、どこにおるのじゃ?」
尋ねてくるラドックに、タムタムは目を逸らし、まるで気が無いように答えた。
「…さあ。…もしかすると、まだ王宮の庭園なんじゃないですか」
「おお、庭園か。…はて?確かそこには…」
ラドックはつぶやきかけて、にやりと笑った。
「は〜ん、なるほどのう。…そういうわけじゃな? どおりで機嫌が悪いわけじゃ」
「…! な、何がですか…」
傍目で分かるタムタムの態度に、ラドックはさらに笑った。別に、からかう傾向が彼にあるわけではないのだが、彼女の場合だと、つい面白くなってしまうのだ。
「ふぉっふぉっふぉっ。わかっておる、よ〜くわかっておるよ、タムタムや。…いや、すまなかったのう。折悪しく、呼び出してしまって。…なんなら今から、わしと一緒に行くか?」
「け…結構です!」
ラドックの眉が上がる。すぐ戻った。
「そうか、わかった。ではわしは、今からライム姫様達のもとへ行ってくるからの」
提案を断わられたラドックは、そう言って笑ったまま、図書室を後にした。
それから。ラドックの姿が消えると同時――今度は待っていましたと言わんばかりに、シャルルが笑う。
「なるほどねぇ、わかったわ。今ごろ勇者殿とライム姫は、仲良くしゃべってるかもしれないわね。話しに花が咲いていたりして…それを思うと…」
周りには、とくに鈍いごく一部を除いて、分かりきったことなのだった、それは。
「もう、シャルル! 言わなくてもいいでしょ!」
「あ〜あ、せめて勇者殿が気づいてくれてればねぇ…。どうして気づかないのかしら? 不思議なぐらいだわ。見え見えなのにね」
「……」
押し黙るタムタムだったが。にやつくシャルルから視線を落とし、机に両手をついて大きく吐息すると…まるで観念したように顔を上げて、疲労感濃く言った。
「…シャルル、ヴァイス。あなた達、今日はこれからどうするの…? 教授に例の碑文と経典を届けに来たんでしょう? それからは?」
「ああ…用事がすみ次第、戻る予定なんだ」
ヴァイスが答える。その言葉は彼女にとって、意外な返答だった。
「え、もう戻るの? でも、まだ来てから数時間程度でしょ? ゆっくりしていけばいいのに…。私、一泊ぐらいしていくものと思っていたわ」
しかしヴァイスは、席を立った。シャルルも次いで立ちあがる。
「それが、最近マテドラルで魔物の動きに変化があるんだ。別に、町や村が襲われた訳じゃねえが…まあ、用心に越したことはねえからな」
「マテドラルでも…? ライナークでも、ちょっと魔物が動きを見せているわ。…もしかすると、最近、遺跡調査が頻繁に行われたせいかもしれないけど…」
タムタムは言いながらも、内心のざわめきを押さえずにはいられなかった。
そして――その彼女の不安とは関係なく。昼下がりの、にぎやかになった庭園では、
「こぉりゃーっ! モーモー! わしの悪口言っておったなー!」
モーモーが耳聡いラドックに、杖でバシバシ叩かれたりもした。
<つぶやき…>
■1より
白黒ブチの、鍛え上げられた身体
なんかモーモーのこれでシリアス度-5%って感じです。
■2より
威厳のある白く長い顎鬚
さわってみたいもの。…ふわふわ? それともごわごわ…。
■3より
ミミズのしゃっくり
んな事あるか〜!と思いつつ、しかしあの世界ならあるかもしれない…。
だがそれは、神秘と人々に認識されなかった。
100年後ぐらいには生物学者がさまざまな種族の謎を解き明かす!ことができるでしょうか…。あの世界はおかしすぎて常識ってなんだろ〜って感じですが。いや、だからまともなの考えるの大変なんですが…(苦笑)
銅製のジョウロ
実はちょっと欲しい物…しかし高い。なんかで見たとき、2万ぐらいした…。諦めた。職人技の値段がかなり…?
サンフラワー
どっかから連れてきました(苦笑)。名前いい加減に決めたのが悪かった…。いや、初期段階からいましたがね。なぜまたここに登場かは、終わりまでいってないにしろ、話考えてあるんですが…なんか作る意欲が…。
ロビーにミッキー、それにジョージ
2の名前。バランスの良いメンバー。
城の表裏金属コアラ
やはり私が書いたやつのどっかから出してきました。むーん。相変わらず変な確執があるのです。
■4より
ねずみの老賢者
ちょっと強調しすぎたかしらんと思う事もあるけれど、まあこんなもんかとも。
どうやら動物の皮のようであったが
ついつい羊皮紙なんて書こうとして、やばシープマンとか思って直した自分は、ちょっと奥ゆかしいと思います(苦笑)
炎のサラマンダーに、水のウンディーネ、風のシルフに、地のノーム
俗っぽくなってきた感じが自分を苛みました。しかもこの後ときたら…。
カッカ火山帯
どこにあるかとつっこまないでください。だって、勝手に作らないと話が出来ないんですもの…。ぼふ。どっかとの国境沿いぐらいにあるかもしれないなぁぐらいしか考えてません。
話しに花が咲いていたりして…
うるさい花が側に咲いてますがねぇ。
どうして気づかないのかしら? 不思議なぐらいだわ。見え見えなのにね
主人公とはなにかと鈍いもの。…決着はつくのか!?
もどる