ドッキドキマジックショー


<1>

「……いたいた! みんな、まだここにいたのね!」
 ライナーク王城内の広い食堂。そこに突如姿を現すなり、宮廷僧侶の彼女は駆け出した。
 食事も交代であり、そろそろ次に昼食を取る者たちがやってくる頃だった。正午はとうに過ぎている。今の食堂は、王国に仕える兵士や魔物の入れ替わりが多くなり、少しざわついていた。その中で、何事かという注目を浴びている一人――タムタム。しかしそれを意に介せず……否、それが全く見えておらず、気づいていないらしい彼女が向かったのは、ライナーク王国随一の部隊、勇者軍の元だった。
 彼女によく似合った、大きめのリボンと動きやすい法衣のスカートが、ためきそうなほど振れる、揺れる。おしとやかとは程遠く、疾走。
「タムタム、そんなに慌てて……何かあったのかい?」
 勇者軍リーダーであり、雷光の騎士の称号をもつ勇者リイムは、小柄な体格と優しい顔立ちから想像できるように落ち着いた人物だが――。その目を驚きに見開かせたり、口元を小さく苦笑させたりさせるのは、お年頃だがおてんばな彼女にはよくあること。
「……。えーと、ねっ……」
 駆けて来たから、少々息が荒い。慌てているのは確かで、言おうとしながら息も整えようとしている。
 一見すると傭兵部隊のような、姿形が不揃いで、人間と魔物の入り交じった一角――。
「ちょっと、時間があまりなくって……急いでるの」
 タムタムは共用の長い長方形のテーブルに両手をついて、そこにいる勇者軍のでこぼことした顔触れを見回した。
「えぇっと………」
 まず、既に会話を交わしたリイム。その向かいには彼の親友、牛頭人身の魔物であるミノタウロスのモーモー。斜交いにターバンを頭に巻いた、剣の魔人であるアラビアがいる。リイムにひしめいているは勇者軍の過半数を占める魔物たちの一部で、今いるのは大きな竜ドラゴンに、ウナギのイールマン、ウサギのラビットマン、ワニのクロコダイルだ。そして最後、固まりからひとつ椅子を置いた奥に、黒髪黒服姿のスカッシュを確認する。
 彼は――彼女の方を向かず我関せずといった姿勢だが、確かにその目は横目で、まだ何も言っていないというのに、胡乱だと決め付け差し向けていた。しかしよくある態度であるし、急いでいる今だから、タムタムは一睨みもなしで終えた。
「とりあえず落ち着いて話すといいでおじゃるよ、タムタム殿」
 見回していた間、言葉に詰まったと思ったのか、のほほんとアラビア。
「ええ。とりあえず、あのお花がいなくてよかったわ……」
 その場で彼女は小さくつぶやくと、視線を戻した。ライム姫のもとだろうと、溜息。とにかく黙っていられない性質の、あの精霊がいたらややこしいと懸念していたのだ。
 ひとまず小さく安心し、それから次へ。一応、彼らの後を確認した。
「ねえ……午後から予定はどうなっているの?」
「うん。今日は特に予定が入っていないから、互いに手合わせしようかなって思ってるんだけど。……余裕があるときこそ、しっかり鍛錬しておかないとね」
 少なくとも自分を見ておらず、誰に尋ねたものなのかと少し疑問に思ったリイムだが、答えた。昼食が済み、しばらく満たされた腹部を落ち着かせながら談笑していたとき、決めたことだ。
「――俺たち、じいさんが道を間違えた迷宮で迷って、落っこちて、トラップに引っ掛かって、狭くて暗くてカビ臭いとこに閉じ込められて、ひたすらぐるぐる回って……潜っていただろ? 無事に出てこれたんだが……まあ、その間は止まってるか、歩き通してるだけだったから、ちょっと体が鈍ってるんだよな……」
 横から。思い出すたびに顔を顰めるモーモー。苦いものは慣れているが、苦いものは苦く、甘くはならないのだと強調されている。
 話し始めれば長くなるが、まあとにかく、いつものようにライナークの色々な意味で高名な博士、ネズミのラドックのせいで酷い目にあった勇者軍である。
 そしてタムタムは、それを昨晩聞いたところだ。
「いや……一緒にいかなくてよかったな、タムタム……」
「確かにね……。でも、私だって城下町で風邪が流行したんだから、ずっと忙しかったし、大変だったのよ? やっと収まりを見せたから、私も今日は午後からお休みをもらったんだけど……」
 モーモーのお疲れ顔に、ついつい同情して聞く体勢に入りかかったタムタムだが、自分の言葉に引っ掛かり、頭を振る。
 彼女はここ四、五日、城下で風邪が流行ったため、勇者軍に同行せず、忙しい医師たちの手伝いに回っていたのだ。そしてようやく、落ち着いたところで……。
「……うん?」
 リイムが、モーモーが、みんなが続きを待っているが、長々とここで話せないし、かいつまんで話すのも時間がもったいない。
「タムタム、どうしたんだモー? 探してたんだから、俺たちに用事があるんだよな?」
 モーモーの問いに一瞬黙った後で。彼女は頷きつつ、勇者軍を探していた用件のみ言った。リイムの目を見て。
「……そうなんだけど。ねえ、手合わせって、別に今日絶対に!……しなくちゃダメってことはないわよね」
「まあ、そうだけど……?」
 何の確認だろうと、リイムが疑問に思ったところで、
「悪いけど、スカッシュを借りたいの。今は説明する時間があまりなくて。終わった後で詳しく話すから」
「「え?」」
 すらすらと流れたところに、完全に虚を衝かれた一声が複数。皆、穏やかに、一様に停止する。次にはモーモーが真っ先にぽかんと口を開け、リイムの側の魔物たちが目を瞬かせた。その後になって、責め立てるという切り替えを見せた露骨な視線が、タムタムに放たれた。
「……まて」
 さすがに振り向いたらしい。何を言っているんだと文句が九割の、相手にしては珍しく混じり気のない顔である。
「どういう事だ? それで頷けると……おい!」
 だが、まず渋ると予想していたタムタムは、彼に近づいて問答無用と腕を引っ張った。
 普段冷静で、分かり難い表情の持ち主である彼を面食らわせたあげく、明らかに惑乱させる事ができる人物もそうそういない。
「だから、ここで話している時間が惜しいのよ。いいから一緒に来て。その間に話すから」
 揉めることはなかった。突拍子に機先を制したのが彼女で、それについていけない者は止まるだけ。何から何まで彼女の一方通行で、向こうはどうなっているのか、こちらはどうすればいいのか、そのどちらでもなく真ん中で立ち往生だ。
 彼らにとっては、視界の人物の困惑が、まるで他人事のように見えた一時。
「あ〜……?」
 モーモーの漏れた声が、その場を表している。
 スカッシュも気が動転したのか、今や浮き足立っていた。その相手を振り返りもせず、黙々と引っ張っていくタムタムを、やはり呆気にとられたままリイムたちは見送った。

 腕を離しても、しぶしぶとだが付いてくるスカッシュを後ろに連れて、タムタムは城の外に出た。そして城下を突き抜ける、石畳の広い街路を行く。
 普通であれば、街中を歩くとよく声のかかる人気者のタムタムだが、すれ違う人や魔物は、たった二人分の空間にある、無言の下に圧搾された雰囲気の質が見えてしまうのか、怯んだように何も言葉をかけてこなかった。
 後ろからじろりと後頭部を見る視線。もちろんタムタムは気づいている。途中で話そうと思っていたので、ほどなく彼女は後ろを振り向いた。
「……俺を借りて、どうするつもりだ?」
 文句があふれ出そうな様子は相変わらずだが、話が早く助かる。
「うん……。一緒に行ってもらいたい場所があるのよ。城下町の孤児院でね、郊外に近いところなんだけど……そこで、力を借りたいの」
 それだけ告げて、タムタムはまた歩き出す。早く着いた方がいいので、止まって話すつもりはなかった。しかし彼は己の予感からか、止まったままで投げかけてきた。
「単刀直入に答えてもらおう。……具体的に、何をしろと?」
「――そうね、手品」
 仕方がないので振り返って答えたのだが。
「……!」
 スカッシュが絶句する瞬間を前にする。顰められた顔の口が開いて言葉はなく――。確かに彼は一瞬、硬直した。
 そして伏せられた視線。すぐにスカッシュはわななく。
「お前……」
 苦々しいが、口にしたのはそれだけだった。彼の場合、口を衝いてでる言葉がいくらでも喉元まで上がっているのだろうが、それを相等の力で我慢しているのが分かる。しかし後は許せないということか、タムタムに背を向けた。
「――ちょっと待って!」
 そう声をかけないと、そのまま戻っていくだろう。こうなる予感もあった、少しぐらいは。
「……真面目に言ってるの。とりあえず、最後まで聞いて」
 タムタムが訴えかけるつもりの気概で言うと、肩越しからの、細められた険しい目線だけが返る。
「……」
 些かも表情は変わらないが、スカッシュはそのまま立ち止まった。
 隙のないその視線を突き返すつもりで、タムタムは彼の目に向けて話す。
 冗談でこんな話などするはずもなく、告げたとおり真面目な話。ここからが勝負だった。時間は気になるが、この難所を越えなければ始まらない事でもある。
「話したけど……私、お城に戻るまで城下でお医者の先生の手伝いをしていたのよ。……それでね、その先生のところに今日担ぎ込まれて入院した、ライスさんって顔見知りのおじいさんがいるんだけど、ちょっとした手品師なの。私、そのライスさんからね……今日、孤児院で子供たちに手品を見せる予定だったって、聞いたのよ。やっぱり流行っていた風邪なんだけど、歳のせいもあって、かなり衰弱しちゃったみたい。さすがにしばらくは安静にしないといけなくて、もちろん手品は出来ないのよ……」
 城下には医師が何人かいるので、広がる流行り病の状況を調査して報告する必要もあり、タムタムは毎日別の医師の元を訪れて手伝っていた。幸い、それも思ったより早く落ち着いて、今日が最後の日となったのだが、その最後の最後で慌しく急患が出たのだった。
「……」
 一拍置いて様子を見たが、彼は一言も話さない。静かな威圧は鈍痛のような響きがあり、気後れを感じるが、それでも精一杯睨み返して後を続ける。
「楽しみにしている子供たちがいるのに、よりにもよって当日にダウンして、急に断わりを入れるなんて情けない……。子供たちに残念な思いをさせて忍びないって……」
 熱にうなされながらも意識がある老人は、子供たちに手品を見せる事が何より楽しみで、今日も孤児院に行って自慢のそれを披露するはずだった。しかし、その約束を破ることになってしまい申し訳ないと、謝らずにはいられないのか、タムタムに話して聞かせた。
 そして、風邪を引いて、しばらく手品ができなくなった事を伝えて欲しいと、頼まれた。
「ライスさん、すごく謝ってたわ……。手品ができなくなった理由の言付けを頼まれたんだけど、どうにかしてあげたくて……。だからね、私……!」
 意識しすぎたのか、声が震えかけた。油断した失態に思わず言葉が詰まり、止まったところで、相手の冷たく澄んだ表情がふいに揺れた。
 時折見せるそれを、タムタムは心底困った顔だと認識している。
「……お前の心情は分かった」
 しかしすぐ様変わり。次には目を伏せて聞こえよがしな溜息をつくと、遠慮などない嫌そうな顔。
「だがな、それをどうして俺に振る?」
「そんな、リイムたちに手品なんてできるわけないじゃない」
 言い切ったタムタムの答えに、スカッシュが声を詰まらせる。
 彼女にとっては当然の返答だった。リイムもモーモーも、ライナーク王国屈指の強者だが、手品の特技など持ち合わせていない。ましてや、突然花を咲かせたり、腕が伸びたり……星を落としたりする魔物のそれは、断じて手品に見える能力ではない。種や仕掛けがあるものとは、超越しすぎていて。
「他のみんなにだって……できないわ、手品は。……無理、絶対無理よ。びっくりするのはびっくりするけど、初めから手品じゃないってバレちゃうし……」
 タムタムが思い浮かべたその光景を否定していると、白い目が聞いてくる。
「だったら。なぜ俺ならできると思うんだ、お前は……」
「だって……奇術なら、あなた得意そうな感じがするもの。それに、小手先がききそうというか」
「……」
 スカッシュはまたわなないた。即、軽い憎まれ口でも返ってくるかと思ったのだが。
「……何よ、違った?」
 少し引っかかったが、このまま負けじと態度で表す。反論は受け付けないと突っぱねるように、タムタムは顔を横に背けた。
「色々、覚えがあるんだからね」
 半分冗談で用いたのだが、譲れるかと問われれば譲れない主張でもある。事実、勇者軍は身元を伏せた彼に、騙された過去があるのだから。
 最初は警戒していたタムタムも結局は気づけず、実に手痛い経験だった。一生忘れることはないだろう。ゆえに、口にしてしまった。
「……?」
 顔を背けて数秒。横を向いたまま、タムタムは変化を感じた。相手もいい加減に煮えて、何か言い返してくるだろうと思ったところで。
「……」
 無言にひやりとしたのは自分だった。気づいた自身であり、相手が冷たいのではなく。
 スカッシュは聡い人物だといえる。タムタムにとっては、事有るごとにやりこめられる相手であり、慣れ親しむリイムやモーモーとは違って、一口に言えば苦手だ。それを分かっているから、今回は初めから強気で行った。だから、攻勢に転じるための流れで口にし、自然に構えての態度だったが、それが強くなりすぎた。強調が過去を話の引き合いに出し、冗談にならない意味を含ませていたのだ。気づかない彼ではない。
 そんな彼に反論はなかった。不機嫌な様子は打ち消されたように引いていて。
 タムタムは焦った。
「ま、まあ……、もう気にしてもどうにもならない事だけどね。ううん、気にしてないのよね……人がいいのが、みんなの人となりだし、変えようもないし……」
 横を向いたまま、相手がどんな無表情をしているのか分かって、言い繕った感のある言葉を尻すぼまりに言い終える。
 強く出た言い分は確かであるし、彼女は被害者の身だが、自分が浮いたようなばつの悪さだった。
 全てが過去の事と割り切ることはできないが、それでも数奇なめぐり合わせの変遷を経て、彼が今ここにいる以上、いまさら使ってはいけない盾だった。相手が無抵抗な以上、それはもはや剣かもしれない。
「う、うんっ……」
 流れを早く戻さなければと衝動で、タムタムは彼女の恩師がよくやるように咳払いをした。そうして、ぐっと力んで前を向く。
「――とにかくっ。他のみんなは明らかに畑違いだから、あなたにしか頼めないのよ……! 私だって、他にいろいろ心当たりがあったから手を尽くしたけど……当日じゃあ、頼み込んでも予定が一杯で無理なんだもの! 手品だけじゃなくて、曲芸とか人形劇も当たってみたんだから……!」
 肩を怒らして言い切ると、そろそろとタムタムに見えてきた顔は、横を向くまでのそれだった。言葉に呆れつつも、理不尽だという不平は隠さない不満顔である。そして同時に、一際濃い溜息も。
「あ……」
 力が入る。
 ――何故か、ほっとしない。さきほどまでの沈みはどこへやら、一瞬でタムタムの感情は逆流した。
「なんなのよっ! わざとでしょうけど、失礼ね!」
「それはどっちだよ……」
 普段はさして顔色も変えず、不透明なたたずまいなのに、どうして今は全く隠すつもりもないらしい。
 つぶやきにかちんと来たタムタムだったが、そんな彼女に向かって、スカッシュはすぐに話を戻してきた。
「……リイムたちは畑違いだと言ったな。御多分にもれず、俺も門外漢だ。どうして俺だけは、手品を習得していると思う……?」
 気になる目の細め方をする。どうしてこうも無遠慮なのかと内心腹立たしいが、先ほどの配慮不足だった自分を棚上げするわけにはいかず、先に上がった言葉をなんとか飲み下す。表情は変えようもなかったが。
「まだ、話は途中なんだから……」
 タムタムは仕方なしに、見下してくる相手から少し顔を背けた。譲るだけでは気に入らないから、視線だけは苦情を送る。
 先に言ったのは、言い過ぎになったが半分冗談である。予感だけで出来ると決め付けたりはしない。むしろ、実際にスカッシュが手品ぐらい出来ると言えば、逆に彼女は驚いている。
 ライス老人のため、孤児院の子供たちのため、方方を当たり、肩を落とし。それは最後の最後で思いついた妙案だった。
「……もちろん、実際の手品ができるとは思ってないわよ。でも、似たようなことなら可能なんじゃない? 種も仕掛けもないけど」
 その言葉に答えが見えたのか、疑問となりかけた直後、スカッシュの表情が跳ねた。
「種も仕掛けも……。――まさか、お前!」
 そこではたと止まる。どんな顔になったかと言えば、苦しそうな顔だった。考え直そうとでもしたのか、視線が揺れて、悩ましい様子がありありと伝わる。
 タムタムは相手が正しく理解できていると、満足げに笑顔を送った。
「……。魔法……なのか……?」
「分かった? ほら、できるわよね。魔法で手品みたいなこと」
 タムタムは頷いて、躊躇した彼の答えを正解にした。
 ライナークに二度も侵攻してきた、強大な魔力を誇る魔界の黒魔龍――。それがスカッシュの実父である。その存在を考えれば、自分たちより魔力があるのは分かるのだ。それが今回彼を頼った理由。琥珀使いで、回復魔法しか使えない自分にはできないことだ。人間の身で、なおかつ魔導を扱う者だからこそ、より分かる。
「私たちじゃあ、琥珀がないと魔法が使えないし、魔法でできる事自体が限られているから、無理なんだもの……」
 そもそも人間の魔力は、魔物のそれに比べれば微々たるもの。だから人が魔法を使うには、琥珀の力を開放して行使するのが普通である。加えて呪文を唱えたり、印を結ぶなど一定のしぐさが必要であったり、何かしら条件がつく。誰でも簡単に使えるものではないし、かなりの素質が必要だ。しかし魔物の魔法は人間のそれとは違うようで、少なくとも己の魔力を使って何らかの事象を起こしており、労力については比べるべくもない。彼らの魔法は、見ていると手足を動かすような感じである。人間にとって魔法は異質な力を扱うものだが、魔物にとっては己の力そのものなのだろう。
「我ながら、いい発想だと思ったんだけど」
「なんて本末転倒な……」
 スカッシュはうな垂れかかったのか、顔に片手を添える。
「仕方ないじゃない。こういう時は嘘も方便なのよ。だって、みんなが喜ぶんだから」
「俺は喜ばない……」
 相手は相当の傷心であり、嘆きようだが、それに同情してしまっては手伝ってもらえるはずもなく。タムタムは極力、にこやかに話を進めた。
「でも、ほら。こういうのも案外、気分転換になるかもしれないわよ?」
「なるか。……。お前が俺のことをどんな風に見て、どう思っているのか、よく分かった……」
 当て擦りだと分かる言い方に、即、タムタムは眉根を寄せた。相手もそれを見るなり、彼女とは違う理由で眉根を寄せた。
「ずいぶんな言い方じゃない。確かに魔法で手品をするなんて変な話だけど、急な話しだし、他に頼れる人がいないから、こうやってお願いしてるんじゃないの」
「それが人にものを頼む態度なのか……? それにどうしてお前が拗ねるんだ……」
「だって、あんまりな言い方なんだもの、気になるわよ。それに、拗ねてるのはあなたじゃない」
 フン、とまた横を向く。困惑めいた様子でスカッシュが見ているのは分かるのだが、今のうちに切り返す気分にはなれなかった。
 そして、黙って様子見しても埒が明かないと思ったか、スカッシュは一方的に話し始める。
「……話を戻すが、魔法は得意じゃない。苦手なんだ……。分かるだろう?」
 ちらりと横目で見てから、タムタムは前を向いた。
「分かるわよ、あなたの戦い方を見ていれば。一番得意なんだろうけど、刀剣ばかりだもの」
 スカッシュが好んで使う得物は刀剣のようで、敵だった昔も勇者軍にいる今も、刀を帯剣している。黒魔龍ゲザガインが人の姿をとる時は、魔術師然とした老人だったが、息子の彼はそんな風貌ではない。軽装の見た目と武装で量るなら、誰が見ても剣士であるし、戦い方もそう。存在を気づかれないようにするためか、魔力も隠しているようだ。
 だからといって、魔法を使うところを見たことがないわけではない。
「でも、魔法を使ったことあるじゃない。半年前の時は……」
「――今とは状態が違う。意思のいかんにかかわらず、あの時は強い魔力が流れ込んでいて、支援を受けているような状態だったからな」
 途中で発言を読まれて、遮られる。
 スカッシュが今、勇者軍にいる身の上となった出来事――。約半年前、リイムに倒された彼が再び姿を見せたその時は、忽然と姿が消えたり現れたり、瞬間移動を目にしたし、大地に大穴を穿つほどの爆発を起こしたこともあった。
 だから言おうと思ったのだが。
 塞がれたタムタムは、うめきかけたのを我慢して、さらに以前にさかのぼった。
「じゃ、じゃあ……リイムと戦った時は? 確か剣から……」
「――どうして武器を変えたと思う? リイムのガラバーニュとは比べ物にならないが、あれは魔法剣だ。ラクナマイトに存在する武器の中で、最悪で括るなら指折りの魔剣を前にするとなれば、慎重にもなる……。立ち合った事のないお前には分からないかもしれないが、あの剣が獲物に対して放つプレッシャーも相当なものだ。うかつに踏み込めば命取りだからな」
 またしても。過去の決闘に触れようとしたが、タムタムから見れば冷ややかに彼は言う。はや、探せるものが尽きた彼女へ畳み掛けるように。
「……人間の限界に縛られる今の俺の魔法は、魔力を持て余す不確かで不安定なものだ。分かるだろうが、技量が伴わない魔法の行使は、体力も酷く奪う。無駄は多いし、効率も悪すぎる。これで思った効果が望めないとなれば、意義に欠ける。……よほどの状況でなければ実戦で使うつもりはないし、それ以外でもリスクを考えれば使う気になれない」
 言い訳のように述べたが、事実なのだろう。得意ならばもっと、使うはずであるし。
 だが、タムタムは頷かない。今は得意だろうと不得意だろうと、頼る者がいないのだから、はいそうですかと簡単には諦められなかった。だから色々と我慢している。それに、初めから理詰めの攻防になるのは分かっていたのだ。
 タムタムはスカッシュをじっと見やった。力の入ったそれは、睨みと言えなくもない。そして彼女に返る視線は、以前ほど単純でなく、強くはない。
「……お前も自分の変身能力については、制御できているとは言えないだろう? 力としては備えているが、望むままにはいかない。……俺もそんなものだ」
「んんん……っ」
 しかし、今度は説明に自分の能力を出され、タムタムは詰まってしまった。自分が実感できる喩えをされたのだから、実に分かり易かった。
 タムタムは優秀な回復魔法の使い手であるが、他にも極めて稀な能力を持っていた。それがスカッシュに言われた変身能力であり、彼女は人間が総じて魔物と呼ぶ、他の種族に変身する事ができるのである。ただし自分の意思で行える能力ではなく、それが出来るのは必ず、身の危険を感じた場合だけ。選んで望む種族になれるわけでもない。彼女の変身能力は身を守る術であるが、勝手にそうなってしまうだけで、扱えているとは思えない力だった。
「で、でも……」
 タムタムは振り払うように頭を振った。理解できるととたんにやり難くなるが、これは向こうの手口。実際は話の方向がずれていて、少なくとも今は関係ない。これは自分の話ではなく、相手はできるかどうかという話なのだ。
「……でも……使えるんでしょ! できないなんて言ってないもの!」
 苦手だなんだと、彼は散々長々と語ったが、その一言だけは言っていない。
 タムタムは再び、相手を油断なく注視した。すると、軽い溜息が漏れた。
 目を閉じて、それは観念したのかと思ったが。
「……。全く使えないとは言わない。たが、不結果となる要素が多くある……。なんらかの被害が出ても、責任はとれないぞ……」
 そんな懸念なら、タムタムには何度も経験があり慣れたものだったから、にっこりと笑えた。
 なにしろ彼女には、攻撃魔法を扱う、黒琥珀使いたる親友の痛い事例がある。
「それならたぶん大丈夫よ。魔法のトラブルなら、前例があって色々経験済みだもの。私自身もそうだけど……特に、シャルルなんて昔はほんと酷かったんだから。教授も黒焦げになりかけたし、研究所が壊れるのは日常茶飯事だったわ。でも、攻撃魔法を使って欲しいわけじゃないし」
「……」
 何を思って沈黙したのか分からないが、何も言わない今が押し切るチャンスと知る。
 タムタムは強気に出るのではなく、今度は拝み倒すつもりで言った。
「ね、お願い! 人助けだと思って」
「……」
 つと視線が逸れた。今では初めの冷然たる態度はなく、どこか葛藤している焦りがある。
 これで悩んでいないはずがない。タムタムは後一押しだと思った。
「……もちろん、私も言い出してお願いする側だから、助手としてでも手伝うし、できる範囲でお礼も考えるから……! 今回だけ、お願い!」
 下手に出て、両手の指を組み、祈るように待つこと数秒――。
 今までで一番長い吐息で決着が付いた。言葉は、呪いのようにも聞こえるほど、冴えなかったが。
「……。言っておくが、この貸しは大きいからな……」
「恩に着るわ!」
 スカッシュが不承不承、承諾を吐き捨てた。
 まずは序盤の関門クリア。だが、まだまだ先は長い。浮かれてはいけないが、タムタムは自然と笑みがこぼれた。


 
<2へ>

 
<語りまくる>

他小説も含めて、文章上げるの一年ぶりです。ぁあもう駄目だと思ってます。
本文読まず、ここだけ読む方もいないと思うので(苦笑)、遠慮もなく今回はいっぱい(ツッコミとか)書かせていただきます。2、3人に読んで貰えれば十分だろ……ってな代物だし。
……スカばっかりだから書かせろっ! って気分ですよもう(苦笑)
ついでに校正しつつ、書いてます(笑) 変な分け方ですが、三回で上げる予定です……。大雑把ですが、1:2:2ぐらいの量だと思いました。
もうほんと、推敲も校正も全くやる気がないです……。というか、やってるとやる気が失せます。強引でも、最後まで到達するだけでいっぱい。
とにかく早く更新しないとやる気が失せる一方なので、穴が見つかったら、後でこっそり修正するかもしれません(苦笑)
スカとタムなんで、意地は出して作ってますよ(笑) キャラは違うし、内容が良いとは言いませんが。
た……たぶんラブコメでいいと思う(汗) ちょっとびみょーですが。

ドッキドキマジックショー
タイトルですね。もう初見の時点で終わった感。
今までの私の文章読んでこられた方なら、またそういうのかっ!って物だと思います……。
余談になると、昔は(数年前)ドキドキマジックショーだったのですが、
某たまねぎソフトさまの同人でドキドキうんちゃら〜ってシリーズ?があるので変えました(苦笑)

リイム
今回はちょい役です。モーモーもその他の魔物もそーですが……。
ほんとリイムはラブコメには向かんな……。もっとキャラが面白くないとなぁ。
1から2でちょっとかわいくなったのは良しとしても、虹はまたがらっと変わったのでどうも……。
まあ、キャラをダブらせず、立てるためにも、私は虹のリイムで考えて作ってますが。

アラビア
自分で書いて勇者軍に含めておきながら「めんどくせぇな」と思っている。出すのが。
どうも私の中ではふっくらだけどがんばってもリイムぐらいの背丈しかないのですが
実際はモーモー並みにでかいのに気がついたのは、半年ぐらい前である(苦笑)
2の戦闘時の大きさがあまり大きく見えないため、誤解していたようです。
だってぬいぐるみより小さいんだもん……。すまんね、捏造ばかりしていて……。

教授
教授はずっとこういう役割ですから。不動。うちのヒマワリと一緒。

普段冷静で、分かり難い表情の持ち主である彼
もう私もやけくそになっているわけですが。
今さら断言しなくてもいいと思うのですが、私が一番捏造しているのは彼です。
なぜこんな人になったのか、今ではもうわかりません(苦笑)
昔は言葉使いぐらいは多少ゲームのスカを意識して書いたものですが、もうすっぱり止めてます(笑)
ゲーム中の頃より落ち着いてる……というか、これが素(笑)って事にしてますが、それでも同一人物ではありえないですかねぇ……。

ライナークの王城と城下町
ちょいズレた話ですけど、ライナークって田舎臭くて平和ボケイメージがあるです……。
私には、丘陵地にお城がぽつんと建っていて、町はちょこっと離れたとこにあるって感じが……。
お城と街がいっしょくたになって城壁に守られてる、城塞都市みたいな感じは全くないのですが、
それでもお城の側にはすぐ街があるほうがいいかなぁと。あんまり頭悪いのやだし……(苦笑)

「――そうね、手品」
金だらいが降ってきます。ゴン。
まあ、うちのスカは色々な意味で不幸です。
なぜなら好きなキャラは元から苦労人か、そうじゃなくても不幸にするのが私なので……!
ともあれ、魔法がある世界で、手品なんぞあるのか?という疑問でいっぱいなのですが(笑)
手品を超能力と称する輩がいたんだから、魔法を手品と称するのは構わんじゃろ(違う)
まあ、種と仕掛けがあって、芸の一種だと割り切るならアリかなと。
ジャグリングなんか普通にありそうですね。たぶんヴァイスは上手い(苦笑)
サーカスもあるかな……。

「俺も門外漢だ」
スカに漢という字は似合わんなぁ……。

スカッシュの実父
ゲザが実父と書いたのはこれが初だったかな……?
ゲームではスカが親父はゲザガインって言ってますが、逆にそれしかなく、詳細不明なんですよねぇ。
まあ、あのゲザが人間の子供を拾うことはおろか、利用しようとする事でも考え難いですが。
はは。息子でも駒扱いですよー。

「我ながら、いい発想だと思ったんだけど」
私も(スカッシュを不幸にするのに)いいネタを思いついたと思ったわけですよ。
ちなみに我が脳内で一番不幸なリトマスキャラはヴァイスなので……。次がスカね。

「お前が俺のことをどんな風に見て、どう思っているのか、よく分かった……」
気に入らないけど便利な人。

剣士
どうしても戦士というのは抵抗が……。
職業戦士=パワフルムキムキって感じがするのは、何のせいでしょうか。ドラクエかっ。

「あれは魔法剣だ」
何から何まで駄目っぽそうなのが……いい。そうだよ、弱そうなのがいいのですよ。
それでも一騎打ちしたぐらいだから、リイムに比肩するのは違いない……(苦笑)
鎧が堅いだけって言っちゃ駄目だ!

幾らでもあるけどここで止め……。



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