ドッキドキマジックショー


<2>

 建物もまばらになってくる郊外手前の孤児院まで、寄り道なし。結局、立ち止まって話さざるをえなかったため、時間を気にして足早に向かった。済ませなければならない話はその間に聞かせたつもりで、道中、口を完全に閉ざしてしまったスカッシュを気にしなければ、早い道のりだった。
「着いたわ、ここよ」
 相手と同じように無言で歩き通していたタムタムだったが、前に来ていったん停止する。
 孤児院は、民家とは異なる礼拝堂を備えた造りの、やや大きな建物だった。煤けた壁は可能な限り補修した跡があり、老朽化が目立っているが、できるだけきれいにすることに努めていて、その周辺もまた手入れに抜かりはない。地は庭であって荒地でなく、続く小道はよく踏み固められている。
 そして建物が注目を浴び、歳月と生活の染みが目立つのは、外に誰もいないから。
「けっこう時間がかかっちゃったわね……。みんな、首を長くしてるかしら……」
 普段なら遊ぶ子供の駆け回る姿があるのだが、今は一人も見えない。それは中で待っているからだ。
 タムタムは、自分の後ろで同じく止まった相手を振り返る。
「……ねえ、あまりむすっとしないでね。どうしてかは、言わなくても分かると思うけど」
 立ち止まったのは、ここに来るのは初めてだろうスカッシュに、一応説明するためだった。加えて、その相手の機嫌を見るため、そして念押しのためもある。
「……顔色を変えているつもりはないが」
「まあ、そうね……」
 愛想のない返事、表情。なるほど、挙動すら少ない普段の態度。
 彼に、にこやかに笑えと言うのは無理だろう。
 これから、この相手が子供たちの前で手品を見せるわけだが――。今更ながら、不釣合いな場面の予測に少々不安を覚えつつも、後戻りできるはずもなく。考えないようにして先を行く。
「……? どうかしたの?」
 と、スカッシュがついてこないので、タムタムは振り返った。
「まさか、いまさら嫌だとは言わないわよね?」
 真っ先にそう思ったのだが、その相手は彼女を見ているわけではなく、どことも言えない場所に視線を向けていた。
「いや……。ここは教会だったのか?」
 それは唐突な問いだったので少々面食らったが、知っていることを話す。彼女が生まれる前の話なので、詳しくは知らないが。
「え? ……うん、元々はね。ずいぶん昔に預かる人がいなくなったらしくて、長い間放置されてたみたい。今は王国の建物になっていて、教会の造りではあるけど、孤児院としてしか使ってないわ。……でも、どうして?」
「孤児院として使うには、立地が悪いと思っただけだ」
 振ってきた割に、さして興味もなさそうな返答。
 タムタムには、それがわざわざ立ち止まって聞いてくることなのかと、少し不満。さらに言えば、中途半端な答えはもっと不満。
「あのね……聞いてきたんだから、ついでに立地が悪い理由も教えて」
 突っ込んで尋ねてみれば、どこかを見ていた視線がじっと向けられた。
「……」
「な、なに……?」
 たった数秒間、無防備な瞳を覗き込まれてタムタムがひるむと、すっとそれが外れる。
「教会が建つ以前……かなり昔は墓所だろうな。ゴーストなどに魔物化する一歩手前の亡霊が多い。やはりお前にも見えていないか……」
「――えっ?」
 さらりと。スカッシュはつまり、このあたりにはお化け予備軍がたくさんいると言っていた。
「ぼうれい……?」
 普段でもたまに、悪さをするお化け――ゴーストやナイトメア、ファントムと呼ばれる魔物と遭遇するものだが、それらは誰でも見ることができるほど力をつけた悪霊で、半実体化しており、普通に武器などで攻撃もできる。だから魂魄、霊というよりは、やはり身近な魔物の感覚だ。油断はもちろんできないが、警戒こそすれ、不可視で身の毛がよだつ存在とは少し違う。
「多いって……そ、そこら辺にいるの?」
 自身はそれが見えないし、感じたわけでもないが、タムタムは思わず生理的な恐れで振り返って退る。どう見えているのか知らないが、スカッシュが向けた視線が、自分より向こう――背後だったからだ。目を凝らしたところで、やはり何一つ変わったものは見えないが。
「ああ。霊を沈めて還すために教会を建てたのかも知れないが、目的を果たす前に廃れてしまったようだな」
「……でも、今まで何かあったとか、聞かないわよ?」
 少々驚かされたが、それでもタムタムはすぐに考え始めた。夜中に何かを見たとか、不気味な音がするとか、物がなくなったとか、そういう気味の悪い話は聞いたことがない。ここにおいて、あまりにも突拍子な話ではないかと。
 だからもしや、人を脅す悪い冗談で、この期に及んで腹を決めず、逃れるために企んだのではなかろうかと、彼女は向こうを見ている相手の顔を窺った。
「もう何年も前から、たまにここへ来てるけど、変な話は何も聞いたことがないわ」
「……魔物化の一歩手前と言った。今のところは分かるような悪さをする力もない。実害を感じなくて当然だ。すぐ対処しろとも言っていない」
 そこで相手とぴたり視線がかち合う。
 露骨な一瞥をくれたスカッシュ。何を疑っているのかと。
「……ここでお前を脅してどうなる? それでこの話がなしとなるなら、もっと気が利いた話を言うが」
「――うっ」
 読まれたと思って、タムタムは一瞬たじろいだ。
 昔からこの相手に警戒感を拭えないのは、そんな見透かした言葉や読めない態度。言い回しも回りくどいと思っているし、彼と出会うまでタムタムの周囲には全くいなかったタイプだ。ひねくれているとしか思えず、どうも反射的に突っかかってしまう。
「……あのね、あなたがこんな時に変な話をするからじゃない」
「見えたものは仕方がないだろう。終わった後で話すつもりだったが、より突っ込んできたのはお前だぞ」
「なによ。後で話すつもりだったなら、ちゃんとそう言うか、初めから分かるように全部言ってくれればいいじゃない。いつもそうなんだから……!」
「……俺の性格がよく分かっていて、気を回すほど思考が冴えるなら、あえて今は聞かないという選択肢でも選んでみたらどうだ」
「だって、中途半端じゃ気になるじゃないの!」
 そこまで言うとスカッシュは黙り、代わりに長い溜息だけを吐いた。呆れ果てたと言わんばかりの。
「むっ……」
 その毎度の態度は気に障ったが、これ以上言い合ってもなんら得はないので、タムタムも一度睨みつけるだけで引き下がった。
「……まあ、いいわ。とりあえず、みんなに害がないって言うなら」
「……今はいいとしても、先は分からない」
「分かってるわよ……。あいにく、私の力じゃどうしようもない事だから、報告するわ。いつか誰かに危害が及ぶ前に、なんとかしないとね」
 タムタムがそうであるように、人間が扱える魔法は決して万能の力にはなり得ず、一人が得意とし、使える魔法の種類はまず決まっている。この場合の、未練など訳あって現世に残る霊を解放、浄化し、あの世へ還す力というのは、呪いを解く行為に近い。琥珀使いで言えば、白琥珀使いが扱う魔法で、司祭見習いである彼女の親友が得意とするものだ。回復魔法では不可能。
 霊を浄化するのに、魔法しか手立てがないわけではないが、少なくとも現時点では手も足も出ない。至急を要する状況でないことが幸いだ。
「でも、たくさんいるなら、ちょっと大変かしら……。なんにしろ、早めの対処は必要よね……」
 悩みつつ、そっぽを向いて仕方なく話していると、タムタムの後ろでドアが開く音がした。
 振り向けば見える。建物の正面に当たる礼拝堂、その両開きのドアが開いたのだ。
「……あら、タムタムさん」
 出てきたのは、三十を少し過ぎた頃と思われる、落ち着いた感じの柔和な女性。タムタムに声を掛けるなり、近づいてくる。
「何か声がすると思えば、やっぱりあなただったのね」
「アリア先生。すみません、ちょっと遅くなりました」
「いいのよ。無理をして探してくれたのでしょう? 少しぐらい遅れたって、私も子供たちも気にしないから」
 穏やかに笑う。
 女性は、孤児院で身寄りのない子供たちの面倒を見ている保護者のうちの一人で、名をアリアと言う。タムタムは何度も孤児院を訪れているから、既に親しい間柄である。
 それに今日はもう、一度会っていた。
 アリアはタムタムと軽く会話を交わした後に、無言で佇んでいるもう一人の存在を確認した。
「そちらの人が、ライスさんの代わりに手品を披露してくださる方?」
「はい。名前はスカッシュ。私たちの仲間で、勇者軍の一員なんです。……スカッシュ、こちらはアリア先生よ」
 タムタムの紹介に、アリアは愛想のないスカッシュを気にすることもなく会釈した。
「初めまして、スカッシュさん。タムタムさんが手品師に当てがあると言っていたのは、あなただったようですね。勇者軍の一員ということだから忙しいと思いますが、趣味で手品をなさっているの?」
「違う……」
 アリアの言葉を聞き、静かにタムタムへ抗議の視線を向けた彼は、流れに即否定。
 何か違う空気――。それにアリアが驚く前に、タムタムはスカッシュを無視して身を乗り出し、にこやかにフォロー。
「……あ! 彼、ちょっと無愛想なんですけど、腕は確かなのでご心配なく!」
 乾いた笑いが白々しい。しかし、状況を推して察してくれたのか、あるいは雰囲気から躊躇われたのか。事情を追求する様子はなく、アリアは話を先に進めてくれた。
「そうですか……? とにかく、スカッシュさん、今日はよろしくお願いしますね」
「ああ……付け焼き刃だ、あまり期待しないでくれ」
「とっ、とにかくがんばりますから……!」
 二人を見ながらどこか腑に落ちない様子のアリアを前にして、こういう時こそ気が利いた言葉を出せないものかとタムタムは睨んでみるが、相手は全くの無視。
 そして次には、アリアに苦笑される。
「……まあ。とにかく中へお入りください。こちらへどうぞ」
「は、はい……」
 今のは失態だったと落ち込みつつ、タムタムはアリアの後に続く。心配して振り向けば、数歩遅れてスカッシュもついてくる。そして三人は、礼拝堂ではなくその横を抜け、別に増築された奥の建物の入り口へと進んだ。
 近づくと壁越しに賑やかな声が聞こえてくる。木製のドアの前で一旦立ち止まり、耳を傾ければ、ずいぶんと派手に騒ぎ立てているのか、笑い声だか泣き声だか分からない。
「おとなしく待っていなさいって言っておいたのに、少し離れていたらもう騒ぎ出して……」
 言葉だけならば呆れた物言いだが、元気な証拠だとアリアは嬉しそうだった。
 それからドアを押し開く。
「みんな、タムタムさんと手品師さんが来ましたよ」
 入ったそこは、ある程度広い部屋だった。教室として使っているもので、文字の読み書きや物の数え方など、生活するのに最低限必要と思える事や、他にも出来る限りの知識を保護者のアリアたちが日々教えている。
 だから勉強机として長方形の机が幾つか並べてあるのだが、今は勉強時間ではないためか、二十名近い子供たちは騒ぎながら待っていた。性別も歳も様々だが、年齢は一番年上でも十歳程度だろう。
「おねえちゃぁぁあん!!!」
「わーい!」
「おそいよぅ!」
「やった〜てじな〜てじな〜!」
 椅子に座っていた子供たちは、一斉に飛び降りるなり、蹴倒すなりして各々立ち上がり、転がるように押し寄せてくる。
 部屋の中を走り回っていた子供たちは、そのまま勢いを変えずにターンして、飛び込むように押し寄せてくる。
 転んだか、叩かれたのか、泣いていた子供たちもピタリと泣き止んで、一緒になり押し寄せてくる。
「……みんな、危ないから押してはだめよ」
 アリアの制止も、各々歓声を発し、群れをなす子供たちの前にはほとんど効果がないようだ。
 それが微笑ましくもあり、また歓迎されているのが嬉しくて、押し合い寸前の子供たちにタムタムは微笑んだ。
「みんな、待たせちゃったわね」
 今日は既に一度来ているが、一ヶ月のうち二、三回は顔を出すので、みんなと面識があり、どの子供も懐いてくれている。
「まった! みんな、すごーーーーーくまったんだよっ!」
「まだかな、まだかなって。おねえちゃん、このままこなかったらどうしようかって、しんぱいしたんだもん」
「そっか……遅くなって、ごめんね」
 子供たちはまず、知り合いの大好きなおねえちゃんに突撃したわけだが、本来新しいものには興味津々である。タムタムが構うとキャーキャー言うが、早くも視線はもう一人を見上げている。
「……ねえねえねえー! いっしょに来たのって、おにいちゃんなんだ? おじいちゃんじゃないや!」
「知らないの? おじいさん風邪ひいちゃったのよ。でも、お兄さんはだあれ?」
「オレしらねー。まさかこのにいちゃんが手品師なのかよ? そんな感じしねーけど」
 元気で明るい子も、おとなしく人見知りをする子も、珍しく思うのは一緒で、じろじろちらりと初見の人物を観察している。
 そして、思った通り、にこりともしなければ僅かな変化の兆しすらない不言の相手にタムタムは呆れたが、衝動を抑えて子供たちだけに向かった。
「みんな、ライスおじいさんはしばらく手品をするのは無理だから、代わりに今日は……」
「なぁなぁ〜? りいむでも、もーもーでもないおとこじゃん」
 と、一人の男の子の声に、思わず言葉を止める。
「……。リイムでもモーモーでもない男って……」
 その言い方に少しだけ引っかかりを覚えて、タムタムは発言者を探したのだが、目の前の女の子が元気よく手を上げたので、ついそちらを見やる。
「わかったっ! おねえちゃんのカレでしょ?」
 子供の言うことだからか、その一瞬だけは意味が分からなかった。
「かれ? 彼って……」
 単語が示す意味がつかめず、つぶやきながらのろのろとタムタムが考え始めると、また別の女の子が嬉しそうに両手を上げた。
「あのね、カレシー!」
「――はっ!?」
 その瞬間、純粋な笑顔の前で凍りつく。
 何のことはない、難しくない意味の単語だった。理解は容易かった。だから耳元まで一気に、タムタムは赤くなった。
「なっ、ななななっ……!?」
 意味は、当然分かる。が――、何を言っているのか。何が起こってこれは一体どうなっているのか。
 日頃、年頃の娘並みにリイムを気に掛けるタムタムも、自分が受け身で話の的にされる事にはからきしだった。それを親友や恩師にからかわれる時もある。だがそれは、自分に対する理解が深い相手。言い返すのに遠慮も要らない。しかし、今回彼女の前にあるのはみんな、幼く邪気のない笑顔、笑顔、笑顔だ。
「〜〜〜!?」
 思わぬ初めての遭遇に全く対処できず、絶句したタムタムを差し置いて、悪気のない子供たちは和気藹々と自分たちの談議を咲かせる。
「なにいってんだよ、おまえー。タムタムねえちゃんのカレシは……ほら、リイムだろ」
「それうっそだぁ。だって、タムタムおねえちゃんとリイムおにいちゃんって、一緒にいるけど、ケッコンしてないでしょ」
「そうよね。それに勇者のお兄ちゃんって、ライム姫さまのこともあると思うの! やっぱり簡単には決められないと思うわ!」
「じゃあ、やっぱりーこのおにいちゃんはー、おねえちゃんのーあたらしい彼ってことなのー?」
「わかんね。きめつけはよくないんじゃないか。もしかしてもしかすると……フタマタだったり!」
 利発な子供たちは、自分たちの持つ、より大人びた最新と思われる知識を用いて悪気もなく考え、好きに発言している。楽しそうに。
「み、みんな……」
 聞けば聞くほどクラクラしてくる。先ほどからずっと、思考が受け止めることを拒否している。タムタムはとにかく子供たちの言葉を止めようと、回らない頭で待ったをかけた。
「あ、あの……ね……!」
 しかし相手は子供。口から即飛び出しそうな熱を抑えて、できるだけ穏やかに、自然に、ゆっくりと、理解できるような言い回しをしようと思ったのである。
 そして、それを働かない頭で考えられるほど、彼女は場慣れしているわけではなく、器用でもない。
「ねーぇ、おねえちゃん! リイムお兄ちゃんがカレシなの? それともそこのお兄ちゃん? それとも両方? もっともっといっぱい?」
「――うっ……!」
 真っ向からのつぶらな瞳に玉砕。子供たちの問いは増すばかりで。
「おねーちゃん! だれだれ? 誰と付き合ってるんだよー?」
「おしえておしえて〜」
「……あ、あ……あの、だから……」
 とにかくなんとかしなくてはと、気はせくが上手くいかず。たどたどしい声が漏れるばかりの彼女の横で、何度も聞いた溜息が聞こえた。
「……盛り上がっている話の腰を折って悪いが、お前たちの案件は見当違いだ」
「……えー? それって……えっと、えぇっと……おねえちゃんは、リイムおにいちゃんとも、おにいちゃんとも、だれとも付き合ってない……のかな?」
 自分たちの前で初めて口を利いた相手に向けて、子供たちは期待外れで不服そうな視線を送った。端々に残念だと、隠すこともない。
「なんかーつまんなーい」
「なーんだ。本当に相手いないのかよ」
 もう半ば放心するしかないタムタムを気遣って、アリアがいよいよ口をだした。
「もう……。みんなダメよ、好き勝手な事を言っては。ほら、タムタムさんが困っているでしょう? ……ごめんなさいね、タムタムさん」
 子供たちに代わって謝るアリアの後に、今度ばかりは呆れを通り越したらしく、スカッシュが聞こえるか聞こえないかのつぶやきで哀れみを見せた。
「子供にまで、からかいの対象にされているとは……」
「――ち、違うわよっ……!」
 即、抗議を上げようとしたが、無数の好奇に輝く視線の前では、力なくしぼむしかない。
「ううっ……。あ、アリア先生……! どうして子供たちの知らない人を連れてきただけで、こんな流れになるんですか……。今日、一度来た時は、何もなかったのに……」
 タムタムは情けなくて泣き出したい気持ちの先を、苦笑を忍び、なにやら事態を理解しているらしいアリアにずらした。
「ほんと、ごめんなさいね……。つい昨日だけど、昔、ここを出たミモザが彼氏を連れて一緒に顔を出したものだから、それでだと思います。どちらも若い男女だから、余計ね……。 ミモザは面倒見が良かった子で、出た後も頻繁にみんなの顔を見るために来てくれて、よく慕われていたから、子供たちも楽しそうに聞いていたんだけど……」
 タムタムにとっては、タイミングの悪い話だった。孤児院の子供たちの前に、よく世話を焼いてくれた大好きなおねえちゃんが、久しぶりに顔を出した。しかしそこには、恋人も一緒だったのだ。
「何を話していたのかと思えば、馴れ初めから始まって……つまりおのろけだったみたいで」
 二人が仲睦まじく、まだ純粋で何でも興味津々な子供たちにあれこれと吹き込んだ結果、子供たちの輪で恋愛話は流行りとなり、カップルと近い年の若い男女はその対象になってしまったらしい。
 むろん、熱々カップルに聞いた話を全て理解しているわけではなく、子供たちにからかうつもりはない。しかし好きな相手はいても、恋愛話は大の苦手。とかく自分の事になると顕著で、その方向に全く免疫のないタムタムにはたまらない攻撃である。仲間や友人はよくても、男女は駄目なのだ。周囲には圧倒的に異性が多いのだが。
「そ……そーだったんですね……」
 聞いて力がどっと抜ける。消耗してガックリと肩を落としたタムタムを心配して、子供たちは再び群れた。
「おねえちゃんどうしたの? だいじょーぶ?」
「なあなあ、オレたち、変なこといったかナー?」
「そうそう、先生が言った、なーれーそーめっての、聞きたかっただけなの! よくわかんないけど、ごめんね!」
「ミモザおねえちゃんからきいたのよ。おねえちゃん、ここで結婚式したいって! 式の日取りとか、先生とお話ししてたのも聞いたんだから。だから、タムタムおねえちゃんもそういうお話ないのかなって」
「う、ううん……」
 子供たちのせいではないと分かっても、やはり聞いているとやるせない。注意するものでもないだろうし、しかし、答える気にはとてもなれないし。それに、聞いているとどうにも恥ずかしくて。
 一向に顔の赤みが抜けないタムタムを見て、アリアが軽く頷いた。ぽんと、軽く手を打つ。
「はいはい。みんなお話はそこまでにしましょうね。ほら……今日お二人に来てもらったのは、手品をしてもらうためでしょう?」
 困っているのを気遣って、話題を逸らす、もとい戻してくれたのだ。子供たちもやはり、まだ分からない色恋沙汰より手品の関心が高いようで、あっさりと流れが変わった。
「そうだそうだ! て〜じな、早くみーたーいー!」
「あたし、もういっしゅうかんも前から、待ってたんだから! いっちばん早くから待ってたの!」
「すごいの見せてね! ……えーっと?」
「……スカッシュだ」
 見上げてきた視線に対しスカッシュが名前を答えると、一段と歓声が上がる。
「スカッシュおにーちゃん! 手品いっぱいいっぱい見せてね!」
「ボク、じいちゃんとちがうのみたいよう」
「ねえ、スカッシュはどんな手品するのー!」
「まってよ、先に聞いたらつまんないじゃん!」
 話は完全に切り替わっている。タムタムはひとまず胸を撫で下ろした。
「……とっておきの手品をするからね」
 言って、この盛り上がりに水を差したりしないだろうかとスカッシュを窺うが、アリアの時のような一言はなかった。ただ、ここからどうするんだと、投げかける視線が返る。
「……えっと。もうちょっとだけ待ってね。準備しなくちゃ」
 半分はスカッシュ、半分は子供たちへ伝える。魔法で手品をするにしても、いきなりできるものではない。種と仕掛けの手品道具は必要であるし、子供たちをさらに待たせてしまうが、準備を省くわけにはいかない。
「うん。もうちょっと待ってるから、早くしてね!」
「しってっかー? ほら、てじなって、魔法じゃないからタネもシカケもあるんだぜー! ぜったいにみやぶってみせるんだからなー!」
 得意そうなその発言には、辛うじて笑って。
 横では、軽い溜息とともにスカッシュが視線を送ってきたが、タムタムはそちらを見ないようにした。元気よく握りこぶしを振り上げた男の子の頭を撫でて、誤魔化すように、先に向かう。
「じゃ、じゃあ、できるだけ早く準備をしてくるからね。……アリア先生すみません。奥、お借りします」
「ええ、どうぞ。……あ、そうだわ。もしも奥の部屋にルースとヒューゴがいたら、連れてきて欲しいのだけど」
 するとアリアは直ぐに頷いたが、思い出したようにそう付け加えた。
 出てきた名前は、ともに男の子。孤児院の子供では最年長で、十二歳になる二人である。
「二人がどうかしたんですか?」
「ええ、それがね……。二人とも、もう大きいでしょう? 子供だましの手品なんか見ないんだって、どこかに隠れてしまったの。……そういう年頃なのね。私も、わざわざ連れ立って見に行くんじゃなくて、せっかく好意で来てくださるんだから、一緒に楽しみましょうって誘ってみたのだけど……」
 アリアの苦笑はどこか寂しそうだった。理由は分かっている。それは巣立ちであり、ほとんどの子供は十歳になると少しずつ働き始め、十二歳になれば孤児院を出ていくことになっている。二人は既に住み込みで働く場所が決定しており、近いうちに出て行くことが決まっていた。
「タムタムさんたちが来た時もね、探していたところだったのよ。外には出ていないと思うけど、なかなか見つけられなくて。……困った子たちね。みんなと一緒に過ごすのも、もう少しなのに……」
「じゃあ、一緒に探しましょうか?」
 その申し出には、寂しそうなままで首が横に振られた。
「いえ、後は私ひとりで探します。他の子供たちはみんな早く見たがっていますし、タムタムさんたちの時間の都合もあるでしょう?」
「でも……」
「さすがに、無理やり見せるものではないでしょう。あなたたちの準備が終わるまでに見つからなければ、諦めますから」
「……そうですか」
 確かに、無理に見せるのも不安がある。前々から背伸びしたがっていた二人だ。分かっている性格から考えれば、相当いこじになっているはず。誰が説いても素直に見ると言い出すことはないだろうし、梃子でも動かないかもしれない。隠れてまで嫌だと言い張っているのだから、叱り付けて無理やり見せようものなら、騒ぎ出すのは目に見えている。
「あのね、にいちゃんたちねえ、手品はこどもだましだから見るもんか〜ってずっと言ってたよ。おもしろいのに、どうしてかな?」
「あたし、てじなだいすきだからよく分かんない! いっしょに見ればいいのにって言ったら、おまえたちは見ていいんだって。へんでしょ、ほんと、よく分かんないの!」
「そうよね。楽しいのにね」
 子供たちに微笑みつつも、やはりアリアの表情はすっきりと晴れない。
 それでもアリアが二人の意思を尊重するつもりである以上、タムタムは軽く頷いて、やめた。
 心配ないとは思うのだが、デリケートなお年頃である。もしも自分が必要とされる以上にでしゃばって、二人がここを出るまでの生活に響けば、それは迷惑にしかならず全く意味がない。
「うーん。……分かりました。見つけたとしても、私と先生の二人がかりで臨んだら、二人ともよけいにへそを曲げそうですよね」
「ごめんなさいね」
「そんな、謝られることじゃないですから。……じゃあ、手品の準備をしてきますね」
「ええ。よろしくお願いします」
 タムタムは努めて明るく返し、もう一度子供たちに向き直って歓声を浴びると、いつの間にかドアを開き、部屋を出て行くスカッシュを追って、足早に奥へと向かった。

 奥の部屋といっても幾つかあり、目的の部屋は物置だ。そこに風邪で寝込んでしまったライス老人が、当日に全部持参するのは無理だからと、事前にこっそりと持ち運んでおいた手品道具がある。
 タムタムは今日一度、既に入っているのだが――。あまり頻繁に出入りのない物置は収納する物も少なく、部屋の中の半分以上が少し淀んだ空気の層だった。置いている間に日焼けや色あせしても困るわけだから、古さの漂う木窓は全て閉められていて、開けなければかなり暗い。
 タムタムは真っ先に木窓を開放し、内部を明るくしてから立ち止まって、少々物寂しい物置を見渡した。
 一応アリアに言われた通り、この部屋だけは調べるつもりだ。
「さすがに、あんなに暗かった場所にずっと隠れてたりはしないわよね……」
 奥の隅には相当古い棚や台が幾つかあり、さらにそこには埃が被らないよう布がかけてある。それを見ると、隠れられそうな場所があるにはあるが、二人が入り込めそうな隙間はかなり限定されており、調べられればすぐにばれてしまうだろう。
「それにここじゃあ、すぐに見つかっちゃうし……」
 いないだろうと思いつつも、隠れそうな場所を目で追っていると、スカッシュが横を通り抜けた。
「人の気配ならない。他だろう」
 リイムやモーモーに言われれば、それはまた別だったのだが――。相手のそっけない物言いもあって、出端をくじかれた感のタムタムは、むっとして突っ返した。
「本当に?」
「……大体お前も、近くなら人の気配ぐらい探れるはずだが」
 気にした様子もなく、足も緩めず物置の奥に向かい、振り返りもしないで彼。
「まあ、少しぐらいならね」
 否定はしない。スカッシュの言ったことは、まあ当たっている。戦いの場に身を置いているうちに、何となく分かるようになった感覚であり、培われたひとつの勘、予感だろうか。
 しかし、彼やリイムたちほど鋭く確かなものだと思ったこともないわけで、敵意があるでも魔力が高いわけでもない普通の、それも成長途中の大人ですらない子供の気配を探るとなれば、正直無理だと思う。
「けど、普通の子供の気配を察知するなんて、自信ないわよ」
「なら、自分で探してみればいい」
 タムタムは奥に着き、立ち止まった背中をじっと見て、ひとつ吐息。
「……やめておくわ。別に、あなたの感覚や能力を疑ってるわけじゃないし」
 すると、ちらりと彼が振り向いた。窓を全開にしても奥は少し薄暗く、タムタムの位置からははっきりと見えなかったが、苦笑のように思えた。
 何を思ったものか複雑な気分ではあるが、もやもやとするそれに言い返すのは止めて、スカッシュの側に向かう。その間に、ふと疑問がひとつ浮かんだ。
「……思ったんだけど。あなたなら、ルースとヒューゴ、二人の居場所がわかるんじゃないの?」
 前々から気づいているが、孤児院の前での一件といい、普段から普通の人間のそれとは違った感覚を有している様子なので、思ったことである。話としてはやめるつもりが、戻してしまった流れに、口にしてから気がついたが。
「……よほど能力的に突出しているなら別だが、大勢の子供の区別まではできない。高い能力の持ち主でもないかぎり、いるかいないか分かるだけで十分だからな」
 普通の子供ならば、存在として全て同じ扱いということか。
「……だが、それを聞いてどうする?」
 間を置いて、振り向かず。先ほどまでと同じようだが、どこか違う問いかけ。
 タムタムは何気なく背中を見ながら歩いていたのだが、ふいに視線を横へずらした。
「別に……なんとなく、よ」
「そうか。……区別はつかないが、先ほどの部屋とは違う場所に、似たような気配が二つあるのは気づいている」
 タムタムは一気に気分が逆流した。息巻く。
「――やっぱり分かってるんじゃないの! それはどこっ?」
「頼まれたのはこの場所だけだろう。でしゃばるつもりがないのなら、やめておけ」
「〜〜〜〜〜〜っ!」
 一瞥もくれないスカッシュ。往なされたと感じたタムタムだが、確かに頼まれたのはこの物置だけであり、アリアもそれ以上の手伝いを望んでいなかったため、咄嗟に何も言えず。顔は真っ赤。
 無性に悔しい。自分が無理やり手品を頼んだものだから、こういう形でやり返してきたのでは? と、タムタムは勘繰って相手を睨んだ。
「こちらが孤児院の前にいた時と、いる場所が違う。様子を見て移動しているようだ。……見つけて欲しいと願っているわけではなさそうが、無理やり連れて行くか?」
「もうっ……! 分かったわよ。二人に強要するつもりなんてないんだから!」
 睨んだとたんに返ってきた。タムタムは精一杯顔を背ける。
 依然として態度は変わらないが、この相手に限って、こちらを見ていないという間違いはないと思っている。しかし薄暗い向こうで、おそらくその顔は涼しくも暑くもなく。
 スカッシュは幾つか置かれていた大きな包みを解き、出てきた手品道具を手に取っているようで、一向にタムタムを気にする素振りは見せなかったが。
「そう怒るな。大体、手品をしてくれと頼んできたのはどこの誰だ?」
「……ええ私よ。私だけど、なに? 引き受けた以上、今さらそんなこと引き合いに出さないで欲しいわ」
 言葉だけで返してきた相手に、タムタムは機嫌が悪いのだと言動の端々に込めながら、ちょうど側に見えた木の椅子にどすんと腰掛けた。
 その音が気になったのか、スカッシュはようやく顔を向けてくる。
「そうだな……。気は進まないが、引き受けてしまった以上、なんとか誤魔化せるように努めてみるさ」
 視線を少しずらしていたため、表情までは見ていなかったが、タムタムは妙に気恥ずかしくなって、気がついた。笑われていたのだと。
「……」
 思った時には既に顔は向こうに戻っていて、手品道具を確認する作業を続けている。
 とたん相手を見ていられなくなって、タムタムは俯いた。
 そして、そのまま沈黙が続き、作業を続けているスカッシュが立てる、微かな音だけが時間の経過をこつこつと刻む。その間、ぼんやりとしていたタムタムだったが、相手が手を止めたところは目に入った。
「……終わったの?」
「ああ。一通り目を通して選別した」
 スカッシュは手品道具を見て判断していたようで、二つに分けて包み始める。
「そう……」
 さらに尋ねる言葉も思いつかず、タムタムはスカッシュの少ない動きを眺めるだけに終わる。そのまま後は、先ほどまでの静かな流れに戻り、このまま過ぎ去るだろうと思った。しかしそこでふと、疑問が頭を擡げた。
 思えば彼は、先ほどから淡々とこなしているのだが、未経験であるはずなのに淀みが全く感じられない。それがかえって不思議だった。なにしろ、当人は嫌がっていて苦手だと言っていたし、自信がある態度ではなかったし。
「……う」
 タムタムはひとり、うめいてしまう。
 ライス老人から話を聞いて以降、ずっとバタバタ動いており、今の今までこうやって椅子に座ってゆっくり考える暇はなかった。手持ち無沙汰となり、考える余裕ができてようやく、見逃していた穴が見えてきたのである。
 そして、疑問を感じる余裕が出てくると、次には不安がやってくる。いざ考えてみると、具体的にスカッシュはどうやって魔法で手品をするのか、彼にはどこまでできる実力があるのか、分からない事ばかりではないか。引き受けてくれたものの、魔法で手品らしきことをすれば、なんでもいいという話ではない。子供たちが納得のいくものを見せることができるのか、疑問と不安は次々浮かんでくる。このまま任せておいて、本当に間違いないのかと。
「ねえ……。だ、大丈夫よね?」
 思考でがんじがらめになったタムタムは、うめき声が気になったのか、ちらりと顔を向けてきた相手に思わず聞いた。
 スカッシュの返答に間があったのは、動揺だろうか。
「……。了承を得る前から人を手品師に仕立てるつもりでいて……今さら何を言っているんだ……」
 ごもっとも。実に不服そうな相手には、もはや笑ってごまかすしかない。
「だって、やっぱり……気になってくるんだもの。私が言い出して、あなたが覚悟を決めてくれた事は分かるわよ……? でも、漠然とできるかなって、思うには思ったけど、実際どうするものかはちょっと……」
 それから見せたスカッシュの嘆きようは、あまりにも分かりやすかった。どうも近頃、呆れられてばかりの気もするが、さらに疲れた様子も見えてきた。
「お前はいつまでたっても、熟考が必要なときに限って突っ走るくせが直らないな……」
「な、なによ……。だって、今回は時間もなかったんだもの。それに、居ても立ってもいられないときって、あるじゃない……!」
 椅子から立ち上がって抗議などしてみるが、それには溜息が一つ。そしてスカッシュは体ごと向き直ると、だるそうな視線をタムタムの横に投げた。
「……近くに手燭があるだろう。それを持ってみろ」
「手燭? ……これのこと?」
 いきなり何を言うのかと訝しむが、彼が視線を投げたあたりには、言ったとおり、棚に収められている古めかしい手燭が一つ。
 どうするのかよく分からないが、タムタムはそろそろと手にとってみる。黒っぽく薄汚れた金属のそれは、軽く、冷たい感触。
「これがどうかしたの?」
「見れば分かる」
「……?」
 言われるままにじっと見れば、燃え残りの蝋に残った黒い芯に突然、赤い火がともった。
「えっ……?」
 タムタムは一瞬理解が追いつかず、瞬きながら小さな炎を眺めたが、その向こうに映るスカッシュがこちらを見ていることに気づくと、全て理解した。
「あなたがやったのよね?」
「ああ」
 答えたと同時に、火が小さくなって消える。僅かな臭気と黒煙が残り、それもすぐ失せた。そして、タムタムが心配していた疑問と不安も。
「魔法、普通にできるんじゃない」
「そう見えるだけだ。……情けない話だが、これだけでかなり消耗する」
 吐き出した吐息に肩が添う。
 他人のことでありどうしても実感には乏しいが、たった一つの点火をして見せたぐらいで、疲れた演技をわざとするのも考え難い事である。
「とりあえず、本当に苦手なことは分かったわ」
「過剰に期待してもらっても困るからな……。長くはできないぞ」
「それは仕方ないけど。一つ二つで終わるのは、さすがに駄目だからね?」
 念を押すと、どう感じ取ったのか、彼は少し思案したようだった。
「……なら、言い出したお前によく考えてもらおう。進行も、手品道具をどう使うかも任せる。それで時間を幾らかでも稼げるなら、少しぐらい手品を伸ばせるかもしれない」
「え? 私が?」
 いきなり振られた形だったので、きょとんとする。
「俺は魔法を制御するだけで手一杯だ。……手伝うと言った以上、ここで嫌とは言わないな?」
 最後のその言い方にかちんときて、タムタムはつき返すように言い返す。
「もちろん、初めから無愛想なあなただけ壇上に上がらせるつもりなんてなかったわ。淡々とされても困るし、だから手伝うって言ったの……! でも、あなたがどういう魔法を使って手品をするか分からないと、こっちだって考えられないじゃない?」
「……召喚と転送。ほとんどの手品は、それでなんとかできるはずだ。もちろん、魔法が必ず成功する保証はできないが」
 思い通りに狼狽などしてやるものかと挑むと、向こうはあっさりとかわしてくる。ただし、対する警戒は怠らない。
「……そう。じゃあ、その範囲で考えればいいわけね?」
「重大な役だ。……場が盛り上がるか沈むかは、お前次第だな」
 睨み上げると、そう下る。
 俄然やる気がでてくる。
「分かったわ、がんばってみせるわよ。あなたのやる気もよく分かったし、絶対に盛り上げて見せるから、もっと協力してもらわないといけないわね」
 聞いたスカッシュの眉根が寄る。その彼に、タムタムは笑いかけた。さっきの手燭を持ち上げて、火をつけたのはそっちである、と。
 そして歩き出し、ますます顔を曇らせた相手の横を抜け、手品道具を置いていた台の引き出しをぐっと引き開ける。
 一応用意はしたが、嫌がるようなら無理強いはやめておこうと思っていたものがある。スカッシュを頼る前に、こんなこともあろうかと事前に借り、この倉庫に持ってきておいたものが。
「それは……」
 引き出しの中には、小さくもない包み。タムタムは取り出したそれを、相手の前に差し出した。
「服よ」
 以降、言葉が続かないスカッシュが見つめるその中身は、タムタムが選んだ衣装である。
「ベストとか蝶ネクタイとか入ってるから、着替えてね」
 半ば強引に押し付けるように、戸惑った相手に持たせる。
「ライスおじいさんも、本番前には必ず着替えてたわよ。キラキラした赤とか青とか、ずいぶん派手な上着だけど。でもさすがにあなたじゃ、おじいさんのサイズの服って着れないでしょう? だから頼もうと思ったときに、一応、貸衣装屋さんに行って借りておいたのよね」
 スカッシュは受け取った包みを複雑な面持ちで眺めていたが、タムタムが話して聞かせると、沈鬱そうに顔を伏せた。
「感情で先走りしたかと思えば……」
「ちょっと急ぎすぎたけど、全く何も考えてなかったわけじゃないわ、失礼ね」
「気配りするにしても、順序が違う……。ここまでして俺が断ったら、どうするつもりだったんだ……」
 どんよりとした問いかけに、タムタムは笑顔で押し切った。
「それはその時よ。いいじゃない。結果として引き受けてくれたんだから」
「……」
 面は上がったが、様子に変化はなく。
「すっごく不服そうだけど。魔法で手品をすることになるんだし、やっぱりね……外見ぐらいは手品師っぽくお願いしたいのよ」
 それは本音だった。子供は手品師のおにいさんに期待して、楽しみに待っている。しかし、スカッシュに言動まで手品師になってくれとはさすがに頼めないし、頼んでも無理なのは分かっている。だからせめて、衣装だけでも手品師のイメージに近づけたいと思ったのだ。
 当のスカッシュは、口を噤んで包みを開く。無言のまま出てきた衣装を確認し始めたが、その手がふと止まり、なかなか険悪な視線が持ち上がった。
「……このマスクはなんだ?」
「それ? 貸衣装屋のおじさんがね、手品師ならこれつけたほうがいいよ〜って、無料で貸してくれたんだけど」
「……。……これはいい」
 何かそれ以外に言いたそうだったが。
「そう? 手品師が着そうな衣装って伝えたら、色々出してくれたのよ。原色の派手な色彩のとか、金銀の刺繍が凄いのとか。でも、あなた黒じゃないと嫌がると思ったから、一番地味で控えめなのにしたのよ。選択、あってるでしょう?」
「……」
 タムタムは同意を求めたが、返ってきたのはやはり微妙な顔。
 その前にある広げられた衣装は、黒いベストに同色の蝶ネクタイ、後は立て襟のシャツだけである。少しキラキラしている例のマスクは、さっさと戻されたようで。
「燕尾服もあったけど、そっちがよかった?」
「……」
 応答なし。
 なんとなく、勝ったと思った彼女である。
「……言っておくけど。別にやり込められたからやり返そうなんて、思ってないわよ?」
 するとスカッシュは深い溜息をつき、タムタムに背中を見せる形で、身体ごと視線の向きを変えた。そして億劫そうに言う。
「……お前はもう、向こうで待っていろ」
「何よ、怒ったの……?」
 相手の様子を窺おうとすれば、じろりと横目。
「……着替えを見たいのか?」
「――みっ、見たいわけないじゃないっ!」
 タムタムは反射的に怒鳴り返すと、慌てふためきつつ、入ってきた物置の出入り口に向かって走り出す。
 それをスカッシュが呼び止めた。
「道具を持っていったらどうだ。考えずにいきなりやるつもりか?」
「わっ……分かってるわよっ!」
「小さいほうを広げておいてくれないか。大きい包みの中身は主に小物で、必要に応じて使えるだろう。中身を見て使えそうだと思うなら、それも並べておいて構わないが」
 スカッシュの発言の間。タムタムは急ターンして、今度は一直線に手品道具の元へ向かうと、二つの包みをむんずと掴み、今度こそ出入り口に向かって一目散に走り出す。
「……言っておくが。やり込められたつもりはないし、やり返そうと思ったわけでもないからな」
 出る間際そんな声が微かに聞こえ、タムタムは顔をさらに真っ赤にして走り去った。

 タムタムが子供たちの待っている部屋に戻り、アリアが用意した台に手品の道具を並べたり仕舞ったり、準備をし終えてから数分、着替えを済ませたスカッシュが戻ってきた。
 席についてそわそわしていた子供たちが、すぐさま反応する。
「にいちゃん戻ってきたー!」
「まってました!」
「はやくはやく〜はやく見たいよ!」
 その人気に比べると、当人は浮かぬ顔だが。
「すごい人気振りじゃない。みんなそれだけ楽しみに待っていたのね」
「……どうでもいいことだ」
 周囲の歓声に応えるつもりなどなく、挑むやる気を見せるわけでもない。
 乗りの悪い相手だと分かっていながらも、タムタムは呆れの一言を口にした。
「……あなたって、つれないわよね。ここまでしてくれたんだから、もういい加減諦めて、もっとサービスを追加してくれてもいいんじゃない? 笑ったって、誰も怪しむわけじゃないのよ?」
 するとスカッシュは、疲れた様相で投げやりに言う。
「……俺にここまで奉仕させたのは、お前が初めてだよ」
「そう? いいじゃないの。どんどんしてくれると嬉しいんだけど」
「願い下げだ」
 それだけはきっぱりと。
 タムタムがむっとしたところで、スカッシュは素知らぬ顔で、手品を行う台の後ろに立つ。
「もう始めてもいいのか?」
 きゃあきゃあ騒いでいる中で、彼が聞いたのは、一番後ろに控えていたアリア。探していた二人が結局見つからなかったためか、一瞬迷った仕草が見えたが、程なく頷きが返る。
「……ええ。お願いします」
 アリアもまだ気に掛かっている。しかし、始めて欲しいと言われれば口出しできず、タムタムはスカッシュの横に立って、子供たちに笑顔を振舞うしかなかった。
「えーと。お待たせしました。ライスおじいさんみたいに上手くいくか分からないけど、がんばるから応援してね」
 子供たちの期待は最高潮で、うるさいほどの拍手が部屋に弾ける。
 ここまでに残る少々の不安は消せなかったが、もう本番。タムタムは深呼吸して、自ら手品のスタートを切った。
「……みんな、ありがとう。じゃあ、これからお待ちかねの手品を始めます。スカッシュおにいさんはま……ままっ、マジックに集中しないといけないので! 私が司会役を務めます……!」
 いきなり、うっかりと普通に魔法と言いそうになって、横からの視線が痛い。それを振り払って、手品道具を乗せた隣の台から、銀色のメダルと金属製の取っ手がないコップを持ってきた。
 司会役自体に不安はない。タムタムは手品に詳しいわけではないが、実際に何度もライス老人のそれを見てきているので、まあ見当はつく。
「まず初めに……みんな分かるわよね? コップに入れたメダルが消えてしまう手品です。もちろんメダルもコップも、種も仕掛けもない普通のよ。よかったら、よーく見てみてね」
 とりあえず、普通のものだと実際に触ってもらうのは必要な演出だろうと、タムタムは前の小さな男の子にコップとメダルを手渡した。
「うん……あなとかあいてないよ」
 持ち上げて逆さにしたり、中を覗き込んだり。周囲の子供もじろじろと覗き込んで、実証済み。そして、返してもらったそれをスカッシュの元に持っていく。その前でコップを置いてメダルを中に落とし、念入りに振って音を出したりする。
(これから、私がみんなと一緒に掛け声をかけるから。それまでにがんばって消して見せてね……手品師さん)
(……ああ)
 スカッシュに小声で伝え、黒い布を渡す。数歩側を離れると、彼は布をコップの上にかけ、触れるか触れないかの具合で、軽く片手を置いた。
「……さて、ちゃんと消えるかしら? いつものように、みんなで掛け声お願いね! はい!」
「「わーん! つー! すりー!」」
 この辺はライス老人がよくやっていることだが、時間稼ぎにはちょうどいい。
 少しばらついた子供たちの掛け声の後に、タムタムはスカッシュへ駆け寄って布を取り、コップの中身を見た。
 そして笑顔でコップを持ち上げ、底までよく見えるように子供たちの面前へ。
「……ほら、このとおり! メダルがなくなりました」
 歓声が上がる。目新しくなく、既知の手品なのに、やはり自分が見ている目の前で実際に消えてしまうと、驚かずにはいられないようだ。
(上手くいったじゃない。この調子でお願いね)
 出だしの好感触にタムタムが激励すると、スカッシュが吐息する。
(対象が小さいせいか、思ったより神経を使う……。……次は何をするつもりだ?)
(もちろん、次は消えたメダルが出てくるものでしょ)
(戻すのか……?)
 どこか自信のない様子だったが、気にするものでもないと思ったので、タムタムはまた子供たちの方へ話し始めた。
「ところで、メダルが一体どこに消えてしまったのか、気になるわよね。コップの中にはなかったでしょう?」
 もう一度、コップを逆さまにする。もちろん、何も出てこない。中も見せる。それをスカッシュの前に、今度は伏せて置いた。
 スカッシュがコップに布をかけ、先ほどと同じように軽く触れると、場を繋ぐため、タムタムは子供たちに問いかける。
「……さ〜て、これでどうかしら?」
 程なく、スカッシュが手を離した。
 子供たちは身を乗り出したり、タムタムの顔とスカッシュの顔、コップとを交互に見てきたり。
 そうして、少しもったいぶって布を取り、タムタムが伏せてあったコップを持ち上げると――。
「「わあ〜!」」
 子供たちの嬉しそうな歓声が一瞬、彼女には聞こえなかった。持ち上げた状態で固まって。
 ジャラジャラジャラと、金属同士の擦れる軽い音。
「……ええぇっ!?」
 きらきらと瞬きながら崩れたのは、かき集めるとコップに入りきらないようなメダルの山である。消したのは一枚、出てくるのも一枚と思っていたのに。
 即座振り返ると、気まずそうな彼は目を伏せていた。
「……ほ、ほら、いっぱい増えました〜!」
 とっさ、前に笑みを放っておいて、タムタムは戻る。
(大量に出してなんて頼んでないんだけど……どこからだしたの?)
(……分からない)
 その返答に思わず声を吹き出しそうになって、タムタムはそれを我慢した。あやしまれていないかと、少し周囲を見回して、
(わ、分からないって……?)
(そのままの意味だ。……創造はできない。どこかから来たのは確かで、既知の近い場所に見当はあるが……今のところ確信はない)
 聞いて、タムタムは動揺を隠せなかった。メダルは近隣の国ではほぼ通用する、通貨である。お金をどこから出したとなれば、それは無断拝借どころか、立派な泥棒ではないか。
(ね、ねえ……元の場所に返せるの?)
(……分からない。魔力の解放と収束がうまくいかない……。対象が小さければ小さいほど、ずれも大きくなるようだ。今度は違う場所にいくかもしれない)
(……)
(もう止めるか?)
(――そ、そんなことできるわけないでしょ……!)
 二人がひそひそと話している間も、何も知らない子供たちは待ちきれない。
「次はな〜〜に?」
「ねえちゃんたち、何話してんだよぅ」
 まるで不審者。タムタムはビクッと過剰に反応すると、数秒の逡巡ののち、山のメダルを慌しく片付け、手品道具の中からシルクハットを掴んだ。
(……もう少し大きいものを消したり出したりするんだったら、問題ないわよねっ?)
(……努力はするが、確実に成功するとは断言できない)
 初めと変わらない返答に、タムタムの動きが急に止まる。
「あれれ、ぼうしをもってどうしちゃったの?」
「おじいさんは、どんどん見せてくれたのにー」
「……みんな、急かしてはだめよ。準備も急いでしてくれたのだから」
 子供たちの声が次々と上がる中、トラブルを察してくれたらしいアリアが動いてくれる。
「ご……ごめんね。手品を見せるのって初めてだから、緊張しちゃって……!」
 なんとかしなければと、タムタムは場を取り繕ってみる。しかし隣を見れば平然としており、自分ひとりが焦っているようで腹立たしい。
(もう……!)
 気休めでも違う言葉が聞きたかったものだが、それをしない相手を罵ってもどうにもならない。失敗を目の当たりにした今ではいっそう不安を掻き立てるが、始めたばかりであるし、ここで立ち止まるぐらいならやらなかった方がましである。
「えぇと……!」
 感情と状況の悪化でこんがらかる一方だが、フォローしなければならない自分が迷っていては、成功するものも失敗すると言い聞かせる。タムタムはままよと、掴んでいたシルクハットを逆さにして、スカッシュの前に置いた。
「……次は、このシルクハットね! もちろん中身はからっぽよ。でも、このシルクハットは不思議な帽子で……その……」
「――しってるよ! しろいハトがでてくるんだよね!」
「……そ、そうそう、そうなの」
 何を言っても、練習時間はほとんどなかったし、不安な心理状態だった。言葉が出なかったときに、腕を突き出されて元気に言われると、とっさに否定しがたい。
(白い鳩……?)
(う……)
 力んだせいか、いきなり失敗。スカッシュの表情が険しくなるのは当然。ライス老人が事前に用意していた手品道具に、鳩はもちろん含まれていない。
 ――出さなければいけない。どこからでてくるか分からないが、その返せる当てもないどこかから。
「つぎはハトさんだー!」
「かわいいよねぇ」
 子供たちには受けのいい手品らしく、期待が飛び交う。
 面目を失ったタムタムは顔を上げられない。
(ご、ごめんなさい……)
(引っ込みがつかないなら、やるしかないな……。そこの黒い布を)
 小さく嘆かれた後の指示にはそそくさと従い、メダルと一緒につい片付けてしまった黒い布をもう一度渡す。
 少なくとも態度に焦りは全くでないスカッシュは、シルクハットが隠れる程度で、被せるように布を持った。
「……は、鳩さん、出てくるかしら! もしかしたら、もっとビックリするものがでてくるかも……!」
 言わずにはいられなかった。スカッシュはもはや、何も言ってこない。子供たちは黒い布の向こうを見ていて、聞いているのやらいないのやら。
 タムタムはその場から逃げ出したい気持ちを我慢して、顔を上げた。
「じゃあみんな……また掛け声お願いね……! はいっ」
「「わーん! つー! すりー!」」
 素直な子供たちが元気に叫ぶ。覚悟を決めたものの、目を瞑ってしまったタムタムだったが、ぽんっと、軽く何かがはじけたような音を聞いて、目を見開いた。
「――コケーーーッ!?」
 甲高い声が。その一瞬で、子供たちの声も止まったか。
 タムタムは目前の光景に言葉が繋がらない。シルクハットから布を持ち上げたスカッシュすら、目を丸くしていた。
 薄っすらと白い煙が立ち昇った跡。シルクハットにはまって、白い――白いチキンマンが鮮烈。
「!? じょ……」
 ショックのため、タムタムは口をぱくぱくさせた。
 出てきたのは、鳩ではなく鶏だ。勇者軍所属、タムタムたちの仲間であるジョージ。
「あ、あれ……?」
 状況が分かるはずもないジョージが、ひとりつぶやいて、
(……すまん。後で説明する)
「え? スカッシュ? あれれタムタムも…………こっケェーーーッ!?」
 水を打ったような静けさの中、黒い布に押し込まれ、裏返った悲鳴が断末魔の如く消え入る。
 そして、スカッシュがシルクハットから布を取り去ったときには、既にジョージの姿はなかった。
「「……」」
 再び静かになり、タムタムは気まずい思いを超えて、頭が真っ白になっていた。だが、ほんのしばらく後、そこにはぽつぽつと手が打ち叩かれる。
「……すっ、すげー! チキンマンが出てくる手品、オレ初めてみたよ!」
「はとさんじゃなくて、にわとりさんだったよ。おもしろいね!」
「先生もびっくりしたわ……」
 増えていく多くの拍手に、タムタムは我に返った。
(う、受けてる……!?)
 鳩がでなかったが、みんな喜んでいる。それはどうも間違いない。
 タムタムは気づいた。これで魔法の失敗は二度。しかし、不満そうな子供は一人もいない。むしろ楽しんでいるようで、目的としては成功と言えるのでは?
「ねえねえねー! 次、次は次! 何をするの? まだ何か出てくる?」
 催促は追い風だった。多少違ってもこの際、子供たちが喜べば問題ないと。
「そうね……。次は何が出てくるかしら? 手品はまだ続くから、スカッシュおにいさんを応援してあげてね!」
 吹っ切れたタムタムは、そう言ってスカッシュをつついた。
(やるしかないって、分かってるから。もう何が出ても驚かない……ように努めるわ。みんなが喜んでくれるなら……このまま続けて)
(分かった……)
 消耗によるものか、それともそれ以外の理由があるのか――。スカッシュの頬にひとつ、汗が伝った。

 それからの手品の成功率は良好だった。スプーンの首を曲げるには力業、結んで繋げたハンカチを次々出すのは早業と、時に柔軟に対処しつつ、スカッシュの提案で用意してあった小物を使う手品は上手くいった。
「お花が見たいです!」
 しかし、リクエストに応えてみると、
「――姫様! 分かる分かる痛いほど! さあ、お花の俺様に胸はないからこの顔に飛び込んできてくれーーーーって!? ……どおおおおッ!? なんで前にジャリの群れぎゃあぁぁあん……!!!」
 王城に住み着いてしまった植物の精霊、サンフラワーが出てきて即刻湮滅。
 ときおり変な事態になる場面もあったが、それでも騙し騙し手品を進め、時は過ぎる。気負い立ちはしたが、決してなくならない気苦労と緊張でタムタムが疲れを覚えてきた頃、スカッシュの顔色もずいぶんと青ざめてきた。
(……大丈夫?)
 一際長い吐息が漏れた。数が増えつつあったが、今では疲労の塊を吐き出すよう。表情だけはさほど変えない相手だが、回復魔法を扱い、常々他人の健康状態を見ているタムタムだからよく分かった。
(そろそろ限界だ……。もう一回できればいいところか……。後は全く自信がない……)
 暑いのか寒いのか分からない様相で、スカッシュは額の汗を拭う。
 子供たちは満足で、一向に飽きる様子もなく、止まった合間に騒ぎ出す。
「おねーちゃん、おにーちゃん! てじなもっともっとー」
「……ん。実はね、種が切れちゃうの。次で手品はおしまいです」
 人気なのはタムタムも嬉しい。しかし、スカッシュの状態は本人が言った通りだろう。ただでさえ無理に頼んだ事だから、これ以上はさすがに悪いと思った。いつまでも失敗を誤魔化せるとも限らず、飽きられていないからこそ、終わる頃合としても十分。もう続けられないと判断する。
「つぎでおわり? えぇー!」
「もっともっと見たいのになぁ……ざんねん!」
「でも、面白かったね。さいごはどんな手品か楽しみよね」
 不満の声も飛び交うが、好評だった裏返し。おおむね満足なまま終えられそうだった。
 ざわついたところへ、こちらも満足そうなアリアが出る。
「最後の手品が終わったら、全員でタムタムさんとスカッシュさんにお礼をいいましょうね」
 それは何気ない言葉だったに違いないが。
「「はーい!」」
「でーも! ぜんいんって、ヒューゴとルースのにいちゃんいないじゃーん?」
 ほとんど揃った返事の中に、異音が含まれた。
「……ああ、二人は仕方ないわね」
 アリアの表情が曇ったところで、子供たちの中でも歳が上になる数人が発言した。
「ばーか。先生の言う全員って、ここにいるオレたちだけなんだって」
「でも、お兄ちゃんたちって、ソンよね。おもしろい手品だったのに、見ないんだもん」
「そういえば、ずっとかくれんぼしたままなのかな。もう子供じゃないって言ってたけど、かくれんぼするのって子供じゃないの? 大人もたまにするもの?」
 聞いて、タムタムも気になった。手品を成功させることに頭がいっぱいで、しばらく気に掛ける余裕がなかったが、隠れ始めてどれだけ経つのか。今二人はどうしているのだろうと、心配になる。
 そんな折だった。何の脈絡もなく、子供たちの前でろくに話さなかった相手が声を上げたのは。
「……しまった!」
 ――うわああぁーーーー!!!
 息をのむ。強い発声にスカッシュへ視線が集うのと、どこかからの悲鳴がほぼ同時。
 表情の引きつったアリアが、口元を押さえる。
「声! ルースの声だわ!」
「何、どうしたの!?」
 タムタムが振り向くと、どこに隠していたのか、刀を手にしたスカッシュが走り出し、横を抜けた。
「すぐ近くに魔物がいる! お前たちはここから動くな!」
 言い放って部屋を飛び出す。魔物という言葉に子供たちが叫ぶ。
 緊迫の来襲は、あっという間にその場を悲鳴と恐怖で混乱させた。
 そして、タムタムは自然と体が動いていた。
「――アリア先生! 危険ですから、みんなとここで! 二人は任せて下さい!」
 反応するまま、タムタムはスカッシュの後を追い、走り出した。


 
<3へ>

 
<語りまくる>

2からちょっとずつ恥ずかしくなっていってるです。
見返したくないどーでもいー気分なわけですよ(汗)

彼に、にこやかに笑えと言うのは無理だろう
ゲームの彼なら十分可能ですが……(苦笑)

ゴーストやナイトメア、ファントム
色違いは嫌いなんじゃが(苦笑)

ひねくれているとしか思えず、どうも反射的に突っかかってしまう
タムもリイム以外にはかなり……(苦笑)
リイムとスカではおそろしく温度差が激しい(苦笑) いやまぁそれが私には楽しいのですが。
なんか全然大人しくなってないじゃないかおてんば。シャルル並みに気は強いし。
自分で作っていて、こりゃ酷いなぁ〜と思ったりしている……。

回復魔法では不可能
タムタム役にたたん。虹でせめてステータス異常ぐらいは治せと思った方は多いはず?

日頃、年頃の娘並みにリイムを気に掛けるタムタム〜
リイムしかタムタムには見えてない。おそらくモテモテだと思いますが……?
しかし、リイムが好きな事がバレバレなので、手が出しにくい。勝てる自信がないわけで。
前のタムとリイムのでそんな事書きましたかね? おばちゃんで。

「……盛り上がっている話の腰を折って悪いが、お前たちの案件は見当違いだ」
スカは子供でも大人でも話し方が一緒でごわす。
でも相手には何となく言っている事が通じます。スカの能力なので(笑)
対象によっては昔から若干話し方を変えてますけど、微妙すぎて誰もわからんでしょう。

十二歳になれば孤児院を出ていくことになっている。
15歳ぐらいで大人扱いかな……ということに決めたっ。
リイムだって14歳で戦っています、うむ。タムタムもそんな歳で城勤めです。
小さいうちから働くのが当たり前な時代……でしょうし、こんなもんでいいかと。
学校というか、勉強教えるところはあるのでしょうが、したい人and金持ちのみってパターンか。

分かっている性格から考えれば、相当いこじになっているはず
年齢的に反抗期、思春期?

普段から普通の人間のそれとは違った感覚を有している様子なので〜
うちのスカの能力は人外のそれですが、どうも地味なものばかり(苦笑)
逃げたり探ったりするのは得意だと思います(苦笑)

「そう見えるだけだ。……情けない話だが、これだけでかなり消耗する」
なんとかっこわるい(笑)
しかし以降、勇者軍のキャンプ時、薪に火をつけるのに苦労して、思い出したタムタムに「どうしてもつかないからお願い」と、使われたりするわけです。
リイムも素で「便利な魔法だね」とかいって、スカッシュを凹ませます。
和む!

黒いベストに同色の蝶ネクタイ、後は立て襟のシャツだけである
2のバンピーみたいな衣装ですねい。バンピーの蝶ネクタイは赤ですが。ホストみたいな……?
白手袋もつけようかなと思ったけど。

「……着替えを見たいのか?」
セクハラだわ。

手品
手品なんぞ全く詳しくないので適当ですが、なんとも古臭い手品です(苦笑)
稀にテレビがついてる時に目にしたりしますが、近頃の手品は凄いなぁと思ったりする。
本来は、手品をする台にも何かしら仕込んであるんじゃないかと思うのですが……?
ともあれ、手品シーンは恥ずかしくはなかったけど苦労した。

「……俺にここまで奉仕させたのは、お前が初めてだよ」
ある意味、ゲザより彼の扱いが酷いと思います。

「――しってるよ! しろいハトがでてくるんだよね!」
普通の白い鳩なんてあの世界にいるのだろうか……。
というか、あの世界の動物というか魔物はペットOKなのだろうか。
家畜はどうなるのだろうか。
そうなるとあの世界の人間が食べる肉は〜という話になりそうなのでやめる(苦笑)

「え? スカッシュ? あれれタムタムも…………こっケェーーーッ!?」
滑稽。
シルクハットなのでバロンでもよさげですが、白で鶏。
まぁ他にも理由があるのですが。

スプーンの首を曲げるには力業、結んで繋げたハンカチを次々出すのは早業
うちのスカはとっても器用です。なんでもそこそこできます。というか器用貧乏なのです。
腕力ないけどスプーン曲げるぐらいの力はあるぞっ。当たり前ですが(涙)

「……どおおおおッ!? なんで前にジャリの群れぎゃあぁぁあん……!!!」
寂しいなと思って出してみましたヒマワリ。

ではこんなもんで……。



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