甥っ子はつらいよ | 1

 銃を所持することを許され、戦闘艇に乗り依頼を請け負う者。大空を翔るガンナー――。
 リーヴ新市街から少し離れた海上にあるガンナーカフェでは、その小さな宿も兼ねたカフェの由来たるガンナーたちが、喫茶店内でのんびりとランチを楽しんでいるところだった。大盛りが二つに、普通サイズが一つのミートソーススパゲッティ。円卓を囲み、食べているのはリーヴで名の知られた三人であり、若き凄腕ガンナーのシエルに、自称天才ガンナーのコパン、ネージュから来た女性ガンナーであるファムだった。三人の会話は弾んでおり、ときおり食べる手を緩めては、話を進めている。
「アルティザンの工房に行って、また新しいパーツを見せてもらう予定なんだ。頼んでおいたものもあるしね」
「なんだ。後で出かけるって、やっぱり整備と改造のことかよ。……ほんと、たまには違うことでもやってみたらどうだ?」
 大盛りスパゲッティを食べている二人、嬉しそうなシエルに呆れた様子のコパン。そして彼らを微笑ましく見ながら会話を合わせるのがファム。
「明後日に仕事を控えているんだから、整備は当然だと思うわよ。コパンは大丈夫?」
「もちろんさ。天才の俺にぬかりはないって。今日アソシエのサービスマンが点検に来るからな。おかげで街にいけないのがツライぜ」
 あーあと残念そうなコパン。派手好き目立ちたがり屋、ナンパが嗜みの彼は頻繁に新市街や旧市街に行くのだが、なることが難しいガンナーであるのを自慢するため、自分のガンナーマシンに乗って遊びに行く。だから女の子へのアプローチとしても、目立つための手段としても有効だと思っている、そのガンナーマシンが点検整備で乗れないとなれば、街に行けないと言うのである。
 聞いている二人は面白そうに苦笑。まあ、いつものこと。コパンはスパゲッティをまた一口突っ込んで飲み込み、分かってないなと返しながら、ファムの一言で思い出した話に切替えた。
「……ところで、明後日の博物館収蔵品の輸送でさ、船団護衛のガンナー枠って四人で、俺たち以外にもう一人いるはずだろ? それ、誰か知ってるか? 俺たちに話が来た時点では決まってなかっただろ?」
 そういえばと思いだしたシエルとファムも、首を横に振った。
「いや、僕も聞いてないなぁ。もしかして、まだ決まってないのかな? もう明後日の話だけど……」
「私も、何も聞いてないわね。決まったら一緒に護衛をするわけだし、こっちに知らせないはずはないと思うけど。打ち合わせも必要だしね……」
 三人は明後日、ガンナーとしての仕事がある。半年ほど前の大事件で有名になった博物館の収蔵品。それの一部貸し出し、入れ替えが明後日に行われることになっていた。リーヴ市からレシフ海を挟んだ向こう――アソシエ市の博物館へ届け、代わりに展示するものを持って帰る貨物飛行船の船団を護衛する仕事だ。美術品や骨董品、発明品など、貴重品を狙う空賊は腐るほどいるから、警察を除き、銃器を備えた戦闘艇に乗ることができるガンナーの護衛は絶対にかかせないのだ。
「なんだ、二人も聞いてないか。じゃあ、もしかして一人減らしたのかもな? 俺たちがいれば十分だからな!」
 コパンは一瞬怪訝そうな顔をしたものの、すぐに得意そうなそれに切り替わった。
「うーん……」
「そうね……。考えられないことはないわよね。ガンナーを四人も雇うって、めったにない話だし」
 彼ほど自信家でない二人は、同じように同意することはないものの、否定もしなかった。
 以前、博物館がらみで貨物船団を護衛した時より船の数は少なく、半分程度。その後に大イベントが控えているわけでもないから、世間の注目度も低い。ガンナーの数としては、自分たちだけで確かに十分ではないかと思ったからだ。
「博覧会の事件で、最後にはヴァントルに博物館ごと持っていかれたし、何度も襲撃があって大変だったから……今回は念には念を入れて四人にしたんだと思うけどね」
 シエルが自分たちも関わった大事件を引き合いに出して言うと、反応したコパンは強く自信を湛えた。
 天才的犯罪者ヴァントルが、博覧会の目玉である永久機関を狙ったリーヴ博覧会事件――。今のところ、コパンには最も派手に楽しんだ仕事である。
「あれはあれで、ほんと楽しかったぜ。にぎやかで派手にやったもんだよな。もしもあのじいさんが仕掛けてくるんなら、また楽しめそうだけどな」
「よくないわよ、コパン。みんなか困るんだから。ヴァントルが来たら来たで、もちろん撃退するけどね」
 たしなめるようで、ファムも実は言い切っている。まだまだ子供の部分も現れるシエルやコパンより年上の大人の女性だが、やるときは意外と大胆なのである。
「なんだよ、ファムもやる気だろ。たまには会いたい人物でもあるよな」
「それはそれで困るよ、コパン。それに明後日の護衛は別にお祭り騒ぎじゃないし、事前に話が世間に広まってるわけじゃないから、ヴァントルは出てこないんじゃないかな?」
 シエルだけは苦笑のままで、可能性の高い話を持ち出した。
「だろうなぁ……。出てきてもせいぜい近隣の空賊くらいか。収蔵品の移送なんて、別に珍しい話でもないし、前に比べれば地味な話だからな」
 さすがに期待したわけではないものの、まだ山状態のスパゲッティにフォークを刺して、残念そうなコパン。
 ファムもフォークを回して絡ませつつ、話をまとめた。
「本当は誰にも遭遇しないほうがいいんだけど、ね」
「めちゃくちゃ退屈だけどな……」
 コパンが一応同意したところで、話は終わり。次の話に移るまでの間、三人の手と口は目下スパゲッティだ。そして、その手と口をまた緩めたのは、接近し着水したと思しき音だった。空を飛ぶ飛行機械の。
「ぁん? 降りたってことは、カフェにお客か? それとも俺たちか? 邪魔されるんだったら、早く食べ終わらないとな」
 反応したわりに、あまり興味なくコパンは食事を再開する。シエルは彼よりも気になっていて、身体を捻り音が聞こえた方向を向いた。
「誰かな。……まさか、リヴァルじゃないよね」
「おいおい、変なこと言うなよシエル。本当に来たら嫌だろ迷惑だろ、特に俺が」
 フォークを向けて嫌そうに指摘するコパン。
 二人が気にした人物は、世界有数の大富豪、大貴族にして、正規ではない無登録の凄腕ガンナー。何度か関わっている相手で、ファムはそうでもないのだが、シエルとコパンの二人は苦手とする人物だ。
「この前来られたばかりだから、違うんじゃないかしら。それに二、三日は特に忙しいって言われてたわよ」
 その言葉に、コパンの顔が怪訝に歪む。自分の思い出せる一番近い一ヶ月程前の記憶と、かなりズレを感じたからだ。
「この前……二、三日忙しいって。なぁ、いつだよそれ?」
「三日前よ? 二人がコパンの受けてきた依頼の件で、旧市街の出版社に行っていた間の十数分くらいだったけど」
 ファムの話に、シエルが持つフォークは指からすり抜けそうになり、コパンのほうは身を乗り出す。
「リヴァル、また来てたんだ……」
「マジかよ!? なんの用だったんだ、あいつ!?」
「うん……。ただ寄ってみただけじゃないかしら? リーヴに来る機会が増えることになったからって」
「げっ! どうして言ってくれなかったんだよ、ファム!」
 コパンの隠す事もない感情に、ファムは小さなため息をついた。まさしく、言われた通りで。
「別にたいしたことじゃないから、話さないで欲しいって……。嫌そうな顔をされても困るからって、言われてね」
 的中であり不機嫌そうなコパンだが、悪びれることもなくスパゲッティを口にほおばった。
「……そりゃ嫌な顔にもなるぜ! 全く、なに考えてんだか……」
 シエルはシエルで、首を傾げる。
「うーん……いつ勝負しにくるのかな」
 ガンナー以外の時に会うその相手は苦手であるが。シエルとしては約束がある。聞かされたこと以外、リヴァルについて良く知らないが、彼はコパンほど複雑な気持ちでもない。
「あぁ、それだ。お前が変なこと言うのが悪い!」
「そんなこと言われたって……。コパンだって僕に勝負だ!って、リーヴに来たはずだけど」
「それはそれ、これはこれだろ!」
 ツッコミの後、またスパゲッティを頬張るコパン。
 その時の三人は、先ほどカフェに来たはずの誰かの存在が、すっかり頭の隅のほうへ行っていたのである。
 言うなれば不意打ち。
「よぉ〜っす、コパンちゃん。元気してた?」
「――っぶふっ!?」
 突然の衝撃に、コパンの口からスパゲッティが少し飛び出した。
 そしてそれは、残る二人にとって異音だった。聞いたことのない響き。知らない女の人の綺麗な声。背後から。
 未知の体験である。シエルの動揺はかなりのもので、ファムも眉を顰めた。
「えっ……えっ! こ、コパン……ちゃ……!?」
「コパン……ちゃん?」
 初めて聞く、呼び方だった。
 コパンが明らかな驚愕の様相で、口の飛び出したスパゲッティもそのままに、震えながら振り返る。
「ふ……!? ふぇ、ふぇ……!」
「あ〜飲み込んでから。感激の再会は飲み込んでからねー」
 入り口にて片手を上げつつ、三人の驚きと比べて穏やかな声の人物は、アメジストの髪の美人。しかし綺麗ですらっとした外貌に比べると、着用しているものは実用的で、引き立てる華やかさには欠けていた。丈夫そうだが、そのぶん重そうなロングブーツを履いており、地味でポケットの多いベストやズボンだ。しっかりとした厚手の生地の衣服は、飛行服なのだろう。自らカフェに飛んで来た人物であるのは間違いない。そしてタイミングからすれば、おそらく先ほど来たばかり。
 驚きぶりは変わりないが、それでも聞き取れたのか、つるんとスパゲッティを飲み込んで、コパンは口元をわななかせた。
「ねっ……ねねっ……ね……ねえさんっ!?」
 とても感激のそれとは思えない悲鳴の声だったが、とにかくその一言にシエルもファムも目を丸くする。
「ねえさんって……」
「コパンの……おねえさん?」
 二人とも、コパンの身内に関わる話は一切聞いたことがない。彼がそもそもガンナーになる以前の、自分の昔話を口にすることがなかったからだ。知っているのはガンナーのコパン。自称天才ガンナーで、確かに言うだけの実力を持った人物である現在の姿だけだ。付け加えれば、一見軽い性格であり、賑やかで楽しいことが大好き……それくらいである。知らない部分について興味がないとは言わないが、二人ともわざと突き、探るほど野暮ではない。
 対象の美人は、コパンの反応もシエルとファムの反応も全く気に留めていないようで、
「ん〜。五年……あ、違う六年ぶり……よね? まあいいわ。あまり変わってないようで、ねえさん嬉しい――コパンちゃん!」
「待ってくれよ! コパンちゃんはやめてくれって……っ!?」
 どこか楚々な走りでコパンへ駆け寄って、強い調子で言い返そうとしたコパンに両手を広げ――抱きしめる。
「――だああああああああああああぁ!!!」
 ガンナーカフェ全体に聞こえたと思われる、大きな絶叫が上がった瞬間だった。

「なによぉ……よくやってあげてたのにさ。あんなに叫ばなくてもいいじゃないの? ねえさんかなりショックだわー」
 ミートスパゲッティ一皿追加。大盛りで。
 仏頂面のコパンと、いまだに驚きが収まらないシエルとファムの前で、言葉のわりに笑顔の女性はフォークを手に取った。
「大事な事を言っておくぜ、ねえさん……。頭に入れといてくれよ? まず、俺はもうガキじゃない……。だから、ちゃん付けで呼ばないでくれ。考えれば分かるよな? もちろん、抱きつくなんてもってのほかだろ!」
 最後は我慢ならずと、テーブルをダンと拳で叩くコパンに、相手は不服そうにスパゲッティをごにょりごにょりと混ぜた。
「えー? だって、こっちからすればそんなに変わってないから、コパンちゃん」
「いや、だから……ちゃんはやめてくれって……」
 頭を抱えるコパンを見て、前の人はご機嫌そうである。そして、大盛りのスパゲッティを少量フォークで絡めて、上品に口にする。
「けっこういけるわね、ここのスパゲッティ」
 満足そうな表情。そのにっこり視線が、ずっと注目していたシエルのそれとぴったり合った。
「――あ、あの」
 シエルは反射的に言った。
 ……まず、叫んでもがくコパンと女性の間に、思わず落ち着いてくださいなどと声を掛けて二人を引き離したまではいいと思う。しかしそれから、いつの間にか前のようにテーブルについて着席しており、いつのまにか皿が四皿になり、ごく自然に知らない女性が目の前に座って同席しているのでは、さすがの彼も困惑するしかない。
「ん? ……ああ。えっと、あなたってシエルさんよね。で、隣がファムさんでしょう? 二人とも、いつもコパンちゃんがお世話になって」
 遠慮も無い様子で、はっきりとした笑顔を向けて、女性。
 自分たちのことを知っているからそうなのか、元々の性格なのか分からないが、シエルは考えた瞬間に飛び出してきた気持ちを、問いにした。
「はい……。えっと。あの、僕たちのことご存知みたいですけど、あなたは……?」
「コパンの、お姉さん……ですか?」
 ファムが付け加える。
 女の子大好き、女性が苦手とは思えない、いつも自信満々なコパンが叫んでうろたえた相手だ。少なくとも親しき間柄であるのがよく分かるが、この驚きは自分の耳で聞かなければ収まりそうにない。つまり、どうしても抑えられない強い興味。
「あ〜ぁ。そういえば、こうやっていきなりスパゲッティを並べて食べだしたけど、何も話していないわね。私は、エレ。コパンちゃんの……」
「十才、歳の離れたおばさ……いや、関係は血縁のある叔母だよっ叔母……!」
 エレと名乗った女性の言葉を途中で遮る、不貞腐れたコパンの説明。途中、そのエレの眉がはね上がったり、言い直したと思われるコパンの慌てぶりが印象的ではあった。どちらが強いのか、力関係が明らかで。
「……昔、近くに住んでたことがあってさ、それでだよ」
 コパンが話したくないことも明らか。とにかくぶっきらぼうに言い放ち、不機嫌だった。
 しかしエレのほうは違う。
「私、兄弟姉妹では一番下で歳も離れていて、妹か弟がずっと欲しかったのよねぇ。甥っ子のコパンちゃんが近くにいた時は、かわいくてかわいくて仕方がなかったわけ。色々教えてあげたり、遊んだりね。……あの頃の二年間が一番楽しかったわ。まぁ、今も好き勝手にやってるけどさ」
 どういうかわいがりだったのかは、警戒し、どこか恐れているコパンの様子で分かる。ねえさんと呼ぶのも、そう呼ぶように教えたのだろう。
 シエルとファムは二人の手前、笑うことも、気の毒そうな表情をすることもできず。迂闊な発言も先はどうなるかわからないので、ただ黙って見守るのが賢い対応と微妙な緊迫を強いられた。
 そんな二人を見ていないコパンといえば、エレの発言の後に顔を顰めた。
「好き勝手やってるって……。ねえさん、まさかまだガンナーやってるんじゃあ……ないだろうな?」
「んっん? もっちろん、今も現役の現役よ? こっちじゃ仕事しないけど」
 ほらと、腰のホルスターからか、ガンナーマシンの起動に必要な銃、キーであるイグニッションガンを取り出して、手の内で器用に回して見せる。
 実際にガンナーと聞き証を見せられて、先ほどの硬直が失せた二人は、素直に感想が洩れた。
「やっぱり……エレさんもガンナーなんですね。あの、いつからガンナーを?」
「初めて見るタイプだけど……そのイグニッションガンって、アソシエのですよね」
 どことなく予感はあったのだが、やはり意外な事だった。ガンナーの数は決して多くはなく、その中でも特に、女性ガンナーは少ないのだから。
「そうそう、当ったり。シエルさん、よく分かったわね。私の今のガンナーマシンは、コパンちゃんと一緒のメーカーで、アソシエ社製よ。で、ガンナーをやってるのは六年前からよ、ファムさん」
「六年前ですか。じゃあ、女性ガンナーとして大先輩ですね」
「どこでガンナーをやっているんですか? 近くで名前に聞き覚えがないんですけど」
 同業者となると、俄然話が弾んでくる。少ないながら、ガンナーはまずどこの街でもいるし、他のガンナーと組んで仕事をすることもあるわけだが、組織体ではなくそれぞれの個人営業だ。他所のガンナーと定期的に親睦会があるわけでもないし、基本的にはガンナーとして認定、登録された街で依頼を受けていくことになるため、活動地域としてはどうしても限定される方向になってしまう。まだ同じ街のガンナーであれば顔をあわせる事も多いが、他地域のガンナーとの交流については、複数のガンナーがつく大きな依頼や、遠方に出かける場合にたまたま。あるいは少し外れて、実力者に勝負を挑む時くらいである。花形である職業で、噂はよく広がるし耳にするものだが、余所の、特に遠方のガンナーと話し込む機会はそう多いとはいえない。
「私ね、実は国外でガンナーやってるのよ。もちろん、こっちにも席があってね……睨まれてるんだけど、色々なところに行きたくて。あまり同じ場所に留まらずなんとか仕事をしているわ。最初の二年くらいは全然仕事がもらえなくてねー、結構大変だったな」
 エレの話に、二人ともまた驚かされた。これはまた珍しいタイプのガンナーだ。
「それで、エレさんの名前って聞かないんだ……」
「でも、どうして国外に出られたんですか?」
 ファムの素朴な疑問に、エレは初めて苦笑して見せた。
「ファムさんならきっと分かってくれると思うけど、私の頃はも〜〜〜う、女性ガンナーって言ったらアイドル扱いで周りがうっとうしいのよ。それで最悪なことに、そうやって持ち上げるわりに、仕事くれないの。……やっぱり女じゃ当てにならないって、偏見もまだまだあってね。だから、こっちでも新聞にはいくつか載ったけど、活躍で載ったんじゃなくて、珍しさで載ってたのよ。変な話でしょー? 特に地元じゃ初の女性ガンナーだったから、お祭り騒ぎでね〜。けど仕事がもらえないじゃない? 嫌気が差しちゃったから、数ヶ月で思い切りに思い切って国外に出ちゃったのよ、私。当時はそうしないかぎり、どこでも一緒な扱いだろうなぁって思ったから」
「そうだったんですか……」
 ファムにも、自分が珍しい女性ガンナーゆえの特別な待遇を受けたり、好奇の視線で見られた経験はある。他人事ではない。
「昔のことだし、もう気にしてないけどね。今は結果良かったのかなーって思ってるわよ。楽しんでるし、ガンナー稼業」
 エレは朗らかに笑って、スパゲッティをかき混ぜた。また、その山はいつなくなるのかと思われる少量を口に運ぶ。
「……三人とも、スパゲッティ残ってるみたいだけど食べないの? 私がランチを中断させちゃって、もう冷めてるみたいだから申し訳ないけど」
 その言葉に、シエルとファムが忘れていたようにもう一度フォークをとり、
「コパンちゃんも、ぶすっとしてないで。女性の前でそんな顔するものじゃないわよ? ファムさんもいるんだし。ガンナーも笑顔は大切よ?」
 そこでまた一段と、コパンの表情にひびが入った。
「なんでまだガンナーやってんだよ……? いい加減、身を固めろよ。そんな歳だろ!」
 怒っているコパン。どうやらエレがシエルたちと話し始めたので、ずっとその言葉を我慢していたようだが、押さえきれなくなったらしい。シエルとファムは、また手を止めざるを得なかった。
 美人なのだが、非常にその素材を変える人である。エレのほうは、真剣とは思えない様子でしょげて見せた。
「うわー。信頼してるコパンちゃんにそんなこと言われて怒られるとは思わなかったわ、ねえさんまたまたショ〜ック……」
「俺だけが言ったことじゃないだろ……。色々心配されてるんじゃないのかよ」
 エレは一変、オーバーに肩を竦めて見せる。
「えー。だってさ、いいオトコいないし。それにまだ遊びたいかなぁ」
「ねえさんには相手が決まってるだろ!? みんな泣いてるぞ!」
「そんなことないわよ。ほら私、末っ子だから好きにして良いって、兄様も姉様もいってくれるわよ〜。確かに父様母様は援助してくれながらも、たまに泣いてるけど。孫のような目に入れても痛くない我が子だし」
「なら、早く戻ってやれよ!」
「もう少しぐらいいいじゃないの〜。コパンちゃんったら真面目なんだから。それに私、ちゃんとガンナーとしてがんばってるわよ。根無し草だけど」
「だから心配されるんだろ! せめて戻って普通にガンナーしろよ!」
「んーんんー? まぁ、そのうちね」
 突っかかるコパンに、全然堪えた様子のないエレ。シエルとファムは、繰り広げられる光景から目が離せない。そう、驚きの連続なので。
「コパンが人に説教してるや……」
「なかなか見られないわね……」
 あの、コパンが。女の子大好き、目立つこと大好き、派手に楽しめれば満足で、軽く見られがちのコパンが。
 エレの家庭環境やら事情は、話しだけでは判断が下せないが、どうやらコパンより上を行く素行の人物でもあるらしい。
 そして、エレとコパンは数分言い合っていたが、やがてエレのほうがいい加減飽きてきたようだった。
「あ〜。六年ぶりの再会だっていうのに、もっと喜んでよコパンちゃん。ほらほら、ねえさんはとっても喜んでるのよ? なのに寂しいじゃない。喜んで喜んで、お説教は忘れて。とりあえず食べましょうよ。それからの話」
 コパンのほうもまだまだ言い足りない様子であったが、椅子の背もたれに背を預けて、渋々と引き下がった。
「ったく、何しに来たんだよ……。スパゲッティを食べに来たのかよ?」
「まっさかー。一旦帰る用事ができちゃったから戻ってきたんだけど、ここって穏やかで綺麗な街でしょ。ちょっと興味がわいたから市内を色々回ってて……でさ、やっぱり私ってガンナーだから、ここではどういう依頼があるのかとか、ガンナーの人数とか質とか、気になるじゃない? ガンナーの紹介所に行ったら、明後日の仕事でお声がかかっちゃってさ」
 それを聞いたとたんに、コパンの動きが固まる。
「……は?」
「は? じゃなくて。だからね、紹介所で調べようかと思って行ったら、窓口の人にガンナーに依頼をご希望ですかって聞かれて、いいえ自分は余所のガンナーで、まぁ見学ですって答えて、証明するイグニッションガンを見せたわけよ。そうしたら、明後日の仕事の話を持ち出されて、最後の一人のガンナーがどうしても決まらないから、よかったら引き受けてくれませんかって、言われたのよ。……お分かり、コパンちゃん?」
 シエルたちが吃驚したと思う暇もない。エレの説明に、コパンは焦ったように首を振って、椅子から立ち上がった。テーブルに両手を着いて、身を乗り出す。
「そうじゃなくて……! ま、まさか明後日の仕事って博物館の荷物を積んだ貨物船団の護衛とかじゃないよな!? 間違ってもっ!」
 返ってきたのは、紛れも無く笑顔だった。
「もっちろん。明後日で四人もガンナーの護衛がつく仕事なんて他にないんじゃない?」
 その瞬間、二人は見た。コパンが真っ白になるのを。シエルは声を掛けたのだが、反応が無い。
「こ、コパン……?」
「……」
 エレは見えているのかいないのか、笑顔のままで話を続けていて、
「……明後日は予定が空いてたから、良いですよって気軽に引き受けたんだけど、後で色々聞いた時、他の三人の中にコパンちゃんの名前があって、おねえさんビックリしたわよ、ほんと。こういう偶然ってあるものなのねぇ」
「……そ、そうですね」
 とりあえず相槌を打ってみるファム。
 コパンが真っ白になってしまった程の衝撃はないが、シエルもファムもやはり驚きは隠せない。先ほどまで自分たちが話題に上らせて話していた、明後日の依頼のもう一人のガンナー……それは間違いなくエレのようだった。だから、コパンだけではなくシエルやファムの名前を知っていて、突然一緒のテーブルでスパゲッティを食べたしたりしたのも――地かもしれないが――分かるような気がする。それに、彼女はガンナーだった。薄っすらとそんな予感はしていた。
 それでも、なぜか驚いてしまったのだ。驚き通しなのに、また。
「女性ガンナーのファムさんの名前を見たときもちょっと驚いたけどね。やっぱりぜんぜん少ないし。私も数えるほどしか、他の女性ガンナーに会ったことないのよ。いるところには結構いるって聞いたこともあるんだけど、少ない少ない。むさっくるしい男ガンナーしかいない街だって、まだまだたくさんあるからねー。とりあえず街で前例が出来ないと、なかなかなろうって志す人も増えないと思うんだけど」
 気をよくしているエレが、遠慮なくしゃべっている。コパンはまだ白いまま。
「聞いた後に楽しみになっちゃって。同じ女性ガンナーであるファムさんと一緒に仕事できるし、リーヴの凄腕ガンナーって聞いてるシエルさんと一緒に仕事できるし、なによりコパンちゃんと一緒だなんて、こんなにおねえさん幸せな依頼受けちゃっていいのかなーって……あぁー!?」
 と、突然悲鳴を上げるエレに、またまた吃驚。そして彼女は、慌てた素振りで胸のポケットから時計を取り出して、顔を蒼くした。
「うっかり……! こんな時間だったのね……」
「どうしたんですか……?」
 シエルが聞くと、エレは早口で話し出した。
「嬉しさと興奮のあまり失念してたけど、あまりのんびりできないんだったわ。実は依頼を受ける前に一旦我が家に戻らないといけないの。あ、もちろん明後日にはちゃんと戻ってくるわよ、リーヴに」
 それから、彼女はほとんど変わってない山盛り具合のスパゲッティに、フォークを刺した。
「顔を見せてちょっと話すだけのつもりが、ここに来て良い匂いがしてきたのと、お昼もまだだったから、思わずスパゲッティを頼んじゃって、こうやって話し込む態勢になってたわ……! 依頼を受けること自体が、予定外だったからね」
「そ、そうなんですか……。じゃあ、これからすぐに戻られるんですね……」
 焦りの気迫に押されながら、今度はファム。それには頷きが返ったのだが。
「ええ、食べてからね。こんなに美味しいし、それに残したら作ってくれた人に申し訳ないわ」
「「えっ!?」」
「ごめんなさいね。だから、これから食べるのに集中させて欲しいの。話は明後日にたくさんしましょう」
 驚きの周囲を完全に置いて、それから黙々と、急いでいるとは思えない少量を口に運び、大盛りスパゲッティを食べるエレ。
「ねえさん……」
 それだけ口にして、椅子に疲れたように座り込み、頭を抱えたコパン。
 言葉も掛けられない三人を前に、三十分以上掛かって料理を空にしたエレは、それから会計を済ませ、
「じゃあ、コパンちゃん、シエルさん、ファムさん。明後日にまた……ね」
 着いた席から立ち上がれない三人を残して、決して走らず早歩きで出て行く。その仕草は妙に優雅であり、間に合わないかもー、とかなんとか呟いている表情とのギャップがある。
「エレさんって……とりあえず、お嬢さま……なんだよね?」
 それから、窓から見える機影に、シエルが言った一言。それに対して、憔悴感漂うコパンの返答はなかったが。
 ガンナーカフェから飛び立った紫の機体はその日、急いでいるのかよくわからないスピードで、一見のんびりとレシフ海の向こうへ消えていったのだった。
2へ続く


<もうくたばっちゃえ>

ひさびさでーす!!! あへへへ……。
まあ、あれですわ。微妙な笑いしかでません……。
こんなところを覗いている方、すみません。私はもう、本当にやる気がありません(苦笑)
とりあえず、こんなに間が開いたのは、やる気がないのがまず原因ですが、その間に他のSSを書いていたせいもあります。
メジャーなものはやっておらず(ACはメジャーか? エースコンバットじゃないよ)、今のところリトルマスター(超マイナー)、スカイガンナー(マイナー)、ボクと魔王(マシ)の三つは、ネタがあればどれかを書いてます。
優先順位と愛(苦笑)は、そもそもサイトを立ち上げた目的であるリトルマスターにあるので、拍手で一番なのがボクと魔王であっても(苦笑)、そちらに向かいがちです。
加えて、これは本当に書くのが辛くって、途中で二回もリトルマスターに逃げました(苦笑)
中盤までは、わりと前に書いたものです。一年半から二年前くらいかな?(汗)
でもまあ、とりあえず完成はしてよかったです……。
出来などいまさらどうでもいいですわ(苦笑)
苦笑と括弧ばかりでイラつく! とか思われたらすみませんです。でも気持ちとしては苦笑しかでないですので……。
ともあれ、スカイガンナーの二次創作だけをやっているわけじゃないので……どうしようもなく遅いのは勘弁してください……。
言い訳です。もう見る人もほとんどいないでしょが。私がSS書いてる三つは、ほんっと、どれも続編がでないな(苦笑)
とにかく「はよーあげなー」という気持ちばかりでしたので、校正いい加減ですが、間違っていてももうたぶん直しません(汗)

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